「悪しき慣習が漫画家の首を締めています」 発言続ける現役漫画家・新條まゆさん、「業界最大の問題かもしれない部分」に提言

テレビドラマ化もされた「セクシー田中さん」などで知られる漫画家・芦原妃名子さんの訃報を受け、漫画家の新條まゆさんが「漫画業界最大の問題かもしれない部分に提言」としてnoteに持論をつづった。

「配信会社に配信を許諾して、漫画家から貰ったデータを配信会社に横流しするだけ」

新條さんは小学館の「少女コミック」でデビューし、『快感(ハートマーク)フレーズ』『覇王(ハートマーク)愛人』などのヒット作を多数生み出した人気漫画家だ。小学館との間では、過去にトラブルが起きたことがある。08年6月8日付のブログ(現在は削除済み)で、小学館で連載してた際に、編集者らから考え方がおかしいとして1回だけ休載させられたと告白。小学館の仕事を辞めたいと告げると、それまでの出版物を絶版にすると言われたという。新條さんは、「もうHな漫画は描きたくなかった」などとつづっていた。

こうした背景から、新條さんは芦原さんをめぐる事案にも多数言及している。

新條さんは14日、Xに「書き上げたはいいけど、ずっと投稿できずにいた、漫画業界最大の問題かもしれない部分に提言しました。現状を知ってもらって、一人一人が変わらなきゃいけない時代なんだと...今回の件で改めて大企業の変わらない体制には辟易しました」として「漫画家が出版社に搾取される時代が始まっている」と題したnote記事を投稿した。

新條さんによると、「現場の人は誰も悪くないのですが 悪しき慣習が漫画家の首を締めています」という。

漫画家がもらえる印税率は10%であり、出版にあたって「漫画家 編集者 写植屋 印刷会社 書店取次業者 書店 倉庫管理業者」といった多くの人が携わる必要があった紙の漫画の時代から変わっていない。紙の漫画が主流だった時代は、出版社や編集部の存在は「お前はただ漫画を描けばいい。後のことは俺に任せろ!!」という頼もしい存在だったというが、デジタル技術が発達した現代においてはその状況は一変。

作品が読者のもとに届くまでに携わるのは「漫画家 編集者 配信取次会社 配信会社」で十分であり、それに伴う出版社の役割も「編集部と出版社の役割を分けるとすれば配信会社に配信を許諾して、漫画家から貰ったデータを配信会社に横流しするだけ」になったと説明した。

出版社の電子書籍での取り分について漫画家は知らされていないものの、「電子書籍での漫画家の印税率は15%~20%という状況」だという。

「そうやって作家と直接取り引きするなら うちからいっさい漫画を配信させないぞ」

新條さんはこうした状況について、「こんだけ関わる人減ってるのに 漫画家のパーセンテージ、低くない?」と感じ、小学館から出ていく決意を固めたと振り返った。

当時、新條さんは小学館に対し自身の作品に関する「すべての権利を引き上げる」ことを求めるも、「電子書籍の権利だけは残してほしい」と言われた。しかし、新條さんは断りを入れ、電子書籍の配信元に対し直接取り引きを打診したという。

「このことを知った小学館が配信元の会社に圧力をかけました。『そうやって作家と直接取り引きするなら うちからいっさい漫画を配信させないぞ』と...」

当時の配信元は立場が弱かったことから交渉は難航するも、「出版社から出た漫画家なんだから、特例ですという形で直接取り引きができるように動いていただけました」とした。

現代においても「出版社が電子書籍での印税率を取りすぎてると気がつく作家も増えましたが どんなに交渉しても『他の作家もこの率だから。この契約がひな形だから』と印税率を変えません。出版社が莫大に印税率を搾取してるという構図です」という。

新條さんは出版社について「こうなってくるともはや中間搾取企業」と表現し、「漫画家の現状は理解できてるはず。少ないお金で、スタッフのお給料や仕事場の家賃を払っています。それだけ搾取してるならせめてスタッフのお給料はこれから出版社が支払いますとか必要経費は出版社が持ちますと持ちかけてしかるべきだと思います」と訴えた。

記事公開後「ああああさすがに胃が痛い」

漫画家に向け、「漫画家の皆さん、もう一度契約書を見直してください。自分の働きに見合った契約になっているかと...」と呼びかけ、印税率の変更やスタッフの給料の支払いなど、交渉を行うべきだとした。「わがままじゃないです。当然の交渉です。生きるための知恵をつけてください」としている。

「仲良くさせて貰ってる出版社も多いですが こういうこと書くともう出版社ではお仕事できませんね」と冗談めかしつつ、「漫画家という職業を守るためにはこういうことも発信しなきゃと思ってます」とつづった。

新條さんは記事の公開後、Xでも「ああああさすがに胃が痛い 自分だけはいち早くいろいろ気がついて『一抜けたぁ!』でよかったけどこれをみんなに提言するのは未知数。でももう見てられない!」「個人VS出版社業界!! 震えるわ......せめていい方に転んでくれたら...」と提言にあたって苦悩したと明かしている。

続く投稿では、具体的な出版社名を挙げて「ごめんなさいを言いたい出版社がたくさん 主に集英社、講談社、角川にも!!」と複雑な心境を覗かせた。

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