鈴鹿F1開催契約延長で大阪開催はどうなる? 大阪観光局理事長に聞く、F1誘致活動の経緯と現況

 大阪観光局は1月23日の定例会見内で大阪でのF1誘致を表明した。国内外からも多くの反響を呼んだこのF1誘致表明について、オートスポーツwebは大阪観光局の溝畑宏理事長に取材を敢行。F1誘致の経緯や現在の状況を聞いた。

 大阪観光局は大阪府、大阪市、在阪経済団体(関西経済連合会、大阪商工会議所、関西経済同友会)の合意で設立された公益財団法人で、大阪の観光に関するマーケティング調査やプロモーションを手掛けるほか、2025年に開催される大阪・関西万博にも携わっている。

 そんな大阪観光局が今年1月に大阪でのF1誘致を公表。突然の発表には驚きを呼び、大きなニュースとなったが、まずはF1誘致のきっかけから溝畑理事長に聞いた。

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──大阪でのF1誘致のきっかけを教えてください。

「2015年に御堂筋で『御堂筋オータムパーティー2015』が開催され、F1マシンがデモ走行を実施したように、以前も行政を中心にF1誘致に向けた議論・調査が行われましたが、その際は正式に誘致活動を行うという意思決定が成されぬままに終わりました。しかし、大阪では2025年に万博の開催を予定しており、IR(統合型リゾート施設)の開業も2029年に控えています。IRのテーマは『世界の富裕層を呼び込む』であり、同時にMICE(国際会議を含むのビジネスイベントの総称)誘致も政策課題ですので、民設民営を前提に、再びF1誘致計画が再始動しました」

──F1側との交渉の進捗や現在の誘致活動の内容などをお教えてください。

「F1誘致を表明する約1年前から、オーストラリアやラスベガス、シンガポールをはじめとする海外グランプリの現地視察を含め、さまざまな調査を行ってきました。ただ、現時点(2024年2月中旬の取材時点)ではF1を運営するFOM(F1運営企業/フォーミュラワン・マネジメント)とは具体的な交渉は行っておりません。ですが、1国1グランプリ開催という原則はあるものの、アメリカで3戦、イタリアで2戦開催されている背景も調査を重ね、しっかりとした事業スキームを組み立て、受け入れ環境を作り、手順を踏めば開催の可能性は決してゼロではないと結論に至りました」

「まずは、FOMに対し、大阪がどのようにF1と向き合うかという方向性を提示しなければなりません。そこで、1月23日の定例会見内で『民設民営を前提に大阪でF1を開催したい』と表明するに至りました。おかげさまで、会見での誘致発表直後から、多数の企業からの問い合わせをいただき、海外の投資家からも興味があるという連絡が入っています」

──開催に向けたスケジュール感はどのようなものでしょうか。

「誘致の体制と言いますか、国内外の民間企業の参画を経て、企業体というベースができ、事業スキームの組立てに入ったというのが現状です。この企業体は収支をいかに生み出すのかを議論する場でもあります。資金調達から経営の収支計画を作る上で、常設サーキットを建設するのか、それともファンの皆さまからも根強い意見がある公道での開催をベースとするのか、それぞれで事業性、持続性、そして具体的な開催場所を含めて、議論を進めていこうとしています」

「もし、常設サーキットをいちから建設するとなると莫大な工期が必要となります。一方、公道の場合はすでにあるものをいかにしてマネジメントするのかが重要です。そのため、どちらを選択するかでスケジュール感は大きく変わってきます。すべてはこれからの議論となりますが、今言えるのは『万博には間に合わない』ということです。ただ、たとえ常設サーキット建設の場合でも20年や30年と言わず、できるだけスピーディーに目標を達成したいと考えております」

「公道と常設のどちらを選ぶのか、仮に常設サーキットを建設する場合はどこの場所にするのか。何よりもビジネスモデルをしっかりと組み立てることが、これからの1年、2年で最も重要な課題となります。その上で、我々はサプライヤーの目線だけではなく、世界のF1ファンや日本のF1ファンが何を求めているのかをしっかりと知る必要があります。今後の誘致活動の芯になるのは、F1のファンの皆さんです。ファンの皆さんとの積極的なコミュニケーションや調査を経て、国内外のマーケットの中で、大阪でのF1というイベントをいかに位置付けていくのか。こういった議論を今後1〜2年間で進め、落とし込んだ計画をFOMにぶつけていきたい、そう思っております」

──2月2日に、ホンダモビリティランドが鈴鹿サーキットにおける2025年から2029年までのF1日本GPの開催契約締結を発表しました。鈴鹿でのF1開催延長は、大阪の誘致計画に影響はありますか?

「影響はございません。鈴鹿さんは我々の大先輩に当たり尊敬すべき存在で、一緒に共存共栄できればと願っています。当然『鈴鹿からF1を奪いたい』、といった思いはまったくありませんし、そのようなことを言える立場ではありません。やはり鈴鹿でのF1を応援しているファンの皆さんは大切にすべきですし、鈴鹿は鈴鹿、大阪は大阪として一緒に発展することができればと考えています。鈴鹿さんともしっかりと連携をとりながら、お互いが成長できるような関係性を築いていきたいです」

──誘致活動にあたり、F1ファンにはどのようなことを期待していますか?

「私もF1をテレビで視聴し、世界最高峰の走りに憧れを抱いたひとりのF1ファンとして、F1の醍醐味や歴史も継承していきたいと考えています。F1誘致実現には何よりもファンの皆さまに夢を抱いていただけるようなものにしなければいけません。F1ファンに開かれた誘致とプロジェクトの推進が必要です。今いるF1ファンに愛されない誘致活動はあり得ません。FOMだけではなく、F1ファンが『ここに観にいきたい』と思っていただけるものを目指します」

「まだまだスタートしたばかりですが、ぜひF1ファンの皆さまの期待とご意見をしっかりと染み込ませたものを作りたいと思っております。今後とも良き“仲間”として、お力をお貸しください。よろしくお願い申し上げます」

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 今回の取材でも明らかになったように、大阪でのF1開催の動きはまだまだ始まったばかり。過去には日本でも2大会のF1開催が行われた時期もあったが、果たして5年間の契約延長を発表した鈴鹿と、新規の大阪の両開催は実現するのだろうか。アメリカ、中東を中心に年々、開催数が増えている近年のF1レース数の中で大阪がどのような競争力を発揮できるのか、今後の動向を含めて注視していきたい。

2015年に大阪観光局の理事長に就任した溝畑宏氏は、当時の橋下徹大阪市長、松井一郎大阪府知事がF1に興味を持っており、「F1を誘致すべきだ」という話をしていたと振り返った。

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