不公平すぎる相続にモヤモヤ…ひとりだけたくさんもらった弟に「もっと分けて」といっても大丈夫?【税理士が解説】

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多くの方が直面している相続の問題。親族で円満に解決できればいいのですが、ときには「不公平過ぎるのでは?」との思いを抱く人も…。もし、明らかな不公平が生じ、納得できないとしたら、一体どうすればいいのでしょうか?

弟は世田谷の一軒家をもらえるのに、自分と姉は100万円だけ…

亡くなった母が遺言書をのこしていたのですが、そこには、私と姉には100万円の預貯金、末っ子の弟は跡継ぎだからそれ以外のすべてを、と書いてありました。私も姉も結婚して家を出ているとはいえ、ちょっと不公平過ぎる気がして…。実家は世田谷区の一軒家です。あまり騒ぐのもみっともないと思い、なにもいえないままですが、弟からもう少し分けてもらうことはできないものでしょうか?(55歳・パート主婦・さいたま市在住)

ご相談者の方のご実家は、世田谷の一軒家とのこと。それなら、弟さんが家をもらったのに対し、相談者の方とお姉さんが「100万円のみ」という遺産分割は、かなり不公平ですよね。このような場合は「遺留分」を侵害しているといえます。

遺留分とは、法定相続人のうち、配偶者、子ども、親だけに認められている最低限保証された遺産取得分をいいます。

遺留分とは、法定相続分の半分です。相続人が複数いるときは、全体の遺留分2分の1に法定相続分をかけて計算をします。今回の場合は、相続人は相談者の方、お姉さん、弟さんの3人ですから、2分の1に3分の1をかけた「6分の1」が遺留分となります。

遺留分を侵害された場合は、侵害された分をお金で返すよう、弟さんに訴えることができ、それを「遺留分侵害額請求」といいます。つまりこのご相談者は、相談者の方は最低限の権利として、遺産のうち6分の1をもらえるということです。

ただし、遺産額の計算には注意が必要です。

遺留分を算定するときの基礎となる財産は、相続発生時の財産だけではなく、亡くなる前10年間に贈与された財産も加算されるからです。もし遺留分を侵害する目的で贈与された財産であれば、10年間ではなく、期間制限なく贈与された財産が加算されることになります。

これらを踏まえたうえで、まず、弟さんに話してみましょう。そこで対応してもらえないなら、遺留分侵害額請求を行います。

遺留分侵害額請求の手続き、どうやるの?

実際の手続きの方法ですが、まず、相続発生後1年以内に、遺言で多く遺産をもらえることになった相手へ、遺留分の侵害に相当するお金の支払いを請求します。1年を過ぎてしまうと、時効で請求できなくなるので注意しましょう。

このようなお話をすると、大がかりな裁判などをイメージして思わず身構えてしまうかもしれませんが、そうではありません。最初は相手に「遺留分侵害額に相当するお金を支払ってください」という内容の「内容証明郵便」を送るところからスタートします。

ちなみに「内容証明郵便」とは、どんな内容の文書を、誰から誰にあてて出されたのか、日本郵便が証明する郵便物のことです。相手に送った1通のほかに、自分の手元と郵便局に各1通ずつコピーが保管されます。請求した内容も、日付も、これを証拠として残すことができます。

内容証明郵便を送っても相手が応じない場合になって、はじめて家庭裁判所へと申立てを行い、調停か審判で解決することになるのです。

しかしながら、自分の遺留分が侵害された場合でも、必ず請求をしなければいけない、というものではありません。相続人の間で納得していれば問題ありませんし、別に遺産はほしくない、ということであれば、請求の必要はありません。

相続が発生したら、相続人同士でよく話し合い、円満な着地を目指すのが、時間や労力の面で最も有効だといえます。

岸田 康雄
公認会計士/税理士/行政書士/宅地建物取引士/中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)

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