「高齢者の免許返納」は必要か?東大医学部卒の医師が「一貫して反対」と断言するワケ

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メディア等で「高齢者の交通事故」が報道されるため、日本では高齢者に対して「免許を返納すべき」という議論が度々起こります。しかし、『60代からの見た目の壁』(株式会社エクスナレッジ)の著者で医師の和田秀樹氏は「高齢者の免許返納には反対」と断言します。いったいなぜなのか、詳しくみていきましょう。

フェラーリが似合うモナコの高齢者

男性でも女性でも、見た目を若くかっこよく見せたいと思ったら、ルックスが大事です。おしゃれをしたり、よい時計をしたり、運転免許を持っているならよいクルマに乗るのもアリだと思います。

日本は高齢者から運転免許を取り上げて喜ぶ国です。高齢者の運転免許の自主返納(以下、免許返納)の問題は、私がこれまで書いてきた本でも述べていますが、私は一貫して免許返納には反対の立場です。

免許を返納すると、かえって老化が進みヨボヨボになってしまうことだけは先に指摘しておきたいと思います。

高齢者に対し、「免許を返納しろ」と騒ぐ異常なヒステリー国家の日本に対し、モナコという国は高齢者が生き生きと暮らしやすい国の1つです。

私は映画祭などで、これまでに5~6回、モナコに行ったことがありますが、モナコは平均年齢が世界一高い国です。平均寿命ではなくて、平均年齢です。22年の平均年齢のランキングは、1位はモナコで54.46歳。2位はセントヘレナの52.29歳、3位が日本の48.75歳となっています。

平均年齢が高いということは、少子化と高齢化が進んでいるということです。モナコの街で、フェラーリなどの高級車を見かけますが、そのクルマから降りてくるのは、ほとんどが高齢者です。老後の生活に余裕があり、しかもよいクルマに乗って、自分をかっこよく見せたいから、フェラーリに乗っているのでしょう。

クルマが好きならいいクルマに乗ろう

日本では、「年をとったら地味に生きるべき」という考えが支配的ですが、これも免許返納と同じで、まわりがヒステリックに騒いでいるだけだと思います。ある種の同調圧力でしょう。

だから、日本人は年をとると服にお金をかけなくなるし、クルマも安価な国産のファミリーカーですませてしまう人が多いのではないでしょうか。

決してお金がないからファミリーカーに乗っているわけではないでしょう。購入しようと思ったら、フェラーリやポルシェを買うことができる経済力を持った高齢者がたくさんいると思います。

ところが、東京でもそんなクルマを高齢者が運転しているのをめったに見たことがありません。でも高齢者と話していると、「若いころはポルシェを乗り回していたんだよね」という人がけっこういるのです。

ローンを払い終わっていたり、子どもにもお金がかからなくなったなら、ポルシェぐらい買ってもバチは当たらないと思います。

“かっこいいだけ”ではない!高級車に乗ることの現実的なメリット

クルマは乗るのに飽きたら、売ることができます。とくに今は半導体が不足しているため、中古車市場が活況を呈しています。

また円安が進んでいますから、ポルシェなどの高級外国車のリセールバリュー(再販価格)も、すごく上がっています。

もちろん、この本が出る頃には、半導体不足や円安が解消されているかもしれませんが、クルマは基本的に売ることができる商品なのです。

『老害の壁』(小社刊)に書きましたが、私がある地方のオーベルジュ(宿泊施設を備えたレストラン)に行ったとき、けっこう高齢のオーナーが、4ドアのポルシェで最寄り駅まで迎えに来てくれたことがあります。

彼は実に楽しそうに運転していましたが、これこそファン・トゥ・ドライブ(運転そのものを楽しむこと)だと思いました。

クルマ好きならわかると思いますが、クルマを所有する目的は、買い物などの移動手段を確保するだけではありません。

運転することが楽しい。そういう人であれば、乗るクルマは何でもいいというわけにはいかないのです。

モナコでも、高齢ドライバーが当たり前のように、ポルシェやフェラーリを乗りこなしている姿をよく見かけましたが、運転を楽しむことは、長く運転を続けるためにも必要なことです。

ポルシェやフェラーリに乗っていたら、運転を楽しみたいから長距離ドライブも苦にならないでしょう。いろんな風景を眺めながら運転するのは、脳の刺激にもつながるので、認知機能の低下も予防できます。実際、そんなモナコの高齢ドライバーはみんな生き生きとしていて、とても若々しく見えました。

これに対し、大事故を起こしては困るからと、免許返納を迫るのが日本です。自分が一番好きなクルマを所有して乗りこなせば、かっこうよく見えますし、それが見た目の若さにもつながるはずなのに、とても残念に思います。

和田 秀樹
医師

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