マセラティの最新SUVが見せた完成度「グレカーレ トロフェオ」 

スポーツカーを主に扱うメーカーによるクロスオーバーSUVのリリースが加速している。2002年にポルシェから「カイエン」が登場して以来、このトレンドはほぼすべてのメーカーに波及してきた。例外なく名門マセラティもその一翼を担っている。

モデナの名門マセラティは、1914年にレーシングカーメーカーとして創業し、時代を超えてさまざまな車種をリリースしてきた中には、スポーティで豪華な4ドアサルーン「クアトロポルテ」もある。

マセラティ初のクロスオーバーSUVは2016年に登場した「レヴァンテ」だ。全長5005mmでEセグメントに分類される。そして2022年にデビューした「グレカーレ」は全長4860mmで、レヴァンテよりコンパクトなDセグメントに属する。BMWで言えば「X3」と「X5」の中間に位置し、日常的な利用に最適なサイズの一台だ。

グレカーレには、2.0リッター、直4のマイルドハイブリッドエンジン(MHEV)を搭載する「GT」と「モデナ」、3.0リッター、V6ツインターボエンジンを搭載する「トロフェオ」の3モデルがある。今回試乗したトロフェオは、マセラティ自社製の"ネットゥーノ"という最新のV6エンジンを搭載しており、3.0リッターの排気量ながら530psを発揮する。

トロフェオとは、レースの勝者に贈られるトロフィーのこと。マセラティに相応しいネーミングだ。正面から見るとスポーツカーのような風格で、フロントノーズが往年のマセラティのレーシングカーを彷彿とさせる楕円形のラジエーターグリルを強調する。一方、側面から見ると一般的なSUVよりも全高が低く抑えられており、静止状態でもスピード感を漂わせている。

4ドア車が一般的になった80年代以降、マセラティの特徴は贅を尽くしたインテリアとターボ過給エンジンによる強烈な加速にある。グレカーレ トロフェオもその例外ではない。ドアを開けると、バックスキン調のアルカンターラと上質な本革が織りなす高級な内装が広がる。一方で、ドライバーズシートはホールド性が高く、スポーツカーのコクピットらしい精悍な雰囲気が漂う。

エンジン音は予想以上に静かに感じた。だがスロットルを踏み込むと、ネットゥーノの音階がリニアに高まり、戦闘機のような加速が始まる。シフトを8速ATに任せてシームレスな加速を楽しむのもいいが、ステアリング裏の大型パドルシフトでエンジンとの対話も心地いい。シフトアップのたびに、ギュッと凝縮されたトルクが放出され、スピードメーターの針が上昇する。

マセラティのようなスポーツカーメーカーがクロスオーバーSUVをリリースする理由は、それが流行しているからだけではない。最新のエアサスペンションなどの電子制御機器により、ワゴンタイプのボディならではの高い実用性とスポーティなハンドリング性能といった、相反する特性を両立させることが可能になったためだ。

最も驚くべきは、その引き締まったハンドリングだろう。ステアリングを切ると、ユラッと横に傾く間もなく、フロントノーズがコーナーの奥深くへと切り込む。また、ドライビングモードを切り替えることで、スポーツカーから上質なサルーンに瞬時に雰囲気を変えることができる。一台ですべての欲望が満たされるクルマがあるとすれば、グレカーレ トロフェオこそ有力な候補に違いない。

マセラティ・グレカーレ・トロフェオ 車両本体価格: 1683万円(税込)

  • ボディサイズ | 全長 4860 X 全幅 1980 X 全高 1660 mm
  • ホイールベース | 2900 mm
  • 車両重量 | 2030 kg
  • エンジン | V型6気筒ツインターボ
  • 排気量 | 2992 cc
  • 最高出力 | 530 ps(390 kW) / 6500 rpm
  • 最大トルク | 620 N・m / 3000 - 5500 rpm
  • 変速機 | 8速 AT

Text : Takuo Yoshida

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