ジャカルタで1000ドルぐらいのアパートを探せ! #3

ジャカルタのアパート探しを始めて、数々のアパートを見ながら思ったこと。「どこに住むか」は、その人のマインドセット、極論を言えば「ジャカルタ、インドネシアとの関わり方」までも決めてしまうのではないか……。「1000ドルぐらいのアパート」というくくりの中には意外なほどの選択肢が広がっていました。もちろん、どんな住まいと生活を選択するかは、その人次第です。選択肢は幅広いので、自分の生活にぴったり合った住まいを選べばいいと思います。

そういう意味では、H(在住17年)、Q(在住5年)という、われわれ「長期組・定住組」のライフスタイルからは少し外れてしまうのですが、「短期・駐在組」にとってすこぶる快適な暮らしができそうなのが、2016年2月にオープンしたばかりの「ドゥウィジャヤ・ハウス」。年間契約の場合、月額1000〜2000ドルで、電気・水・インターネット・ケーブルテレビ・ハウスキーピングなどのすべてが料金に含まれているので、十分に「1000ドルぐらいのアパート」という範疇に入ります。

部屋には、家電、鍋・釜・食器、タオルなど、生活に必要な物はすべて備え付けてあり、「着替えだけ持って来てください」とのこと。スーツケース1個で生活が始められるパターン。ドアノブにかける「Don’t Disturb」の札まであって、

H「これは、ホテルだね」

Q「ここまでホテルっぽいサービスアパートは、あまりないね」

ホテルっぽいけど、6階建て46部屋という小ささが、ここの良さ。立地もなかなか良く、ベランダに出ると、ジャカルタらしい赤い屋根瓦がずーっと目路はるかまで続きます。昔からの住宅地の中にドゥウィジャヤ・ハウスがぴったりはまっています。

そして、部屋で何気なくソファに座ってみて、びっくり。インドネシアでは軟らか過ぎるソファが多いのですが、これは沈まない。硬め。非常に座り心地が良いのです。「椅子、ソファ、ベッドのマットレスなど、家具はすべて特注です。良い物が売ってないので、自分たちで作りました」とパクブウォノ営業担当のティト・ユドさん。「どうぞ、寝てみて」と言うので、ベッドにごろんと横になると、ベッドも程良く硬めで沈まない! これは素晴らしい! ベッドとソファだけ売ってくれないかな?と思ったほど。

見かけだけ良くて「安かろう悪かろう」の家具が付いたアパートが多い中、この、一見しただけではわからない、しかし重要な部分で、きっちり快適さを追求しているのには感心しました。

ドゥウィジャヤ・ハウスはパクブウォノが手がけた最初のサービスアパートです。パクブウォノ(アパート)は月額3000ドル近くと高いので、もう少し安い価格帯をターゲットにしたとのこと。パクブウォノ(アパート)は売買物件ですが、こちらは賃貸のみ。自分たちの手で、隅々に至るまで徹底的に作り上げようという意気込みがうかがえます。

至る所にCCTVカメラ、消火器があり、防災・防犯もばっちりです。

新しいアパートなので、まだ知らない人も多いと思いますが、部屋を見たら、その快適さにびっくりするはず。見学はいつでも可、とのこと。

何も物を持たずに来て、ジャカルタ滞在期間を快適に過ごし、余分な物を増やさずに帰る。無駄のないライフスタイルと言えます。ただ、Hのように、すでに物がいっぱいの場合には、どうすればいいのか……。弊誌スタッフには「物は全部、競売で売り払ったらいいよ」「バザーで売ろう」と、ひどいことを言われましたが……。

Dwijaya House of Pakubuwono
+ ・ホテルのような快適さ
・新築
・家具(ソファ、ベッド)が良い!!
・静かな住宅地の中
– ・ちょっと狭い(30〜80平方メートル)
・レストランがない

アパルトメン・スナヤンからも「部屋を見に来ませんか?」と、お声がけいただきました。6階建て46室と、偶然にもドゥウィジャヤ・ハウスとぴったり符号。こちらは1ベッドルームしかなく約1800ドル〜と、われわれの条件とは大分違うのだけれど……と思いつつ、せっかくなので、見学に行くことにしました。

アパルトメン・プラザスナヤン、スナヤン・レジデンスなど、名前にスナヤンが付くアパートは複数あって混乱するのですが、アパルトメン・スナヤンは、多分、知られていないアパートです。もじゃもじゃの緑に覆われた外観は、蔓に覆われたヨーロッパの古城を連想させ、「な、なんじゃこりゃ」と少しひるみます。ところが、中に入ると、想像もしなかった居心地の良さ! グリーン越しに見るスナヤンの緑豊かな景色はプライスレスです。やっぱり、スナヤンはオアシスだなあ。

広々とした廊下の壁には階ごとに違う石が埋め込まれ、壁の波模様は手作業で付けた、という凝りよう。部屋は1つずつ、インテリアが違います。「アパートにいるのではなく家にいる気分になれるように」というコンセプトで、非常にアットホーム。イカットやらバティックやら工芸品やら、インドネシアの物がいっぱいに飾られており、いかにも「インドネシアにいる」という実感がします。「日本風」の部屋もありますが、せっかくなので「ザ・インドネシア」な部屋がお薦めです。45平方メートルと狭いのですが、収納がたっぷりあるので、1〜2人暮らしにはまったく不自由なさそうです。

ここにお住まいの武藤賢司さん(81)は1969〜71年にインドネシアに駐在し、退職後、知人の誘いもあって、ジャカルタにやって来ました。ご家族は日本に残し、ジャカルタでは一人暮らしです。

積み上がった本は『徒然草』から『インターネットのすべて』まで。机の上には筆で書き上げた般若心経がはらっと置かれ、その横から、お孫さんの写真が笑いかけています。一瞥しただけで、充実した暮らしぶりがうかがえます。飽くことなく知識を追求し、趣味の書道を楽しみ、仕事をし、精神的に充足した暮らしを送っておられるのだろうなぁ。退職後、ジャカルタに居場所を定め、好きなように暮らす。その基地がスナヤンにあるこのアパートなのです。

ここの強みはやはり、ロケーション。落ち着ける環境で、買い物にも便利です。

一室ずつインテリアが違うなど、効率重視の今のアパートからはかけ離れています。その「かけ離れ具合」が素晴らしく、不思議の世界へ迷い込んだような気がしました。

Apartemen Senayan
+ ・すてきなインテリア
・緑がいっぱいの景色
・落ち着いた環境
・買い物に便利
– ・1ベッドルームのみ

Hが1999年にジャカルタで記者を始めたばかりのころ、国会やデモの現場でしょっちゅう顔を合わせていた一人が、当時フジテレビ特派員だった横山裕一さん。横山さんは2012年にジャカルタへ戻ってインドネシア大学でインドネシア語を勉強し、現在は「バグース・ツアーズ」で日本のテレビ局の取材コーディネートなどの仕事をしています。久しぶりに再会して、本連載の話になりました。

横山さん「うちのアパート、安いよ。年間3600万、月300万ルピア」

H「え!! 300万?!」。リノベすればパリのアパルトマンみたいになるかも……と気に入った「プルマタ・エグゼクティブ」(連載#1)の500万より安いではありませんか。

横山さん「ネットで見つけた。sewa(賃貸)、apartemen(アパート)、murah(安い)、Jakartaで検索すると、出てくるのはほとんど、ここのアパート。ネットで出てくる値段は大体400万ルピア弱ぐらいだけど、うちの大家さんは日本に留学したことのあるインドネシア大学の先生で、特に安かった」

改造して1ベッドルームになっているものの、元は2ベッドルームで、洗濯機もお湯も付いていると言う。300万は、これまで調べた中で最安値。どんな部屋なのか、見せてもらいに行くことにしました。

カリバタ英雄墓地は、都心にある墓地とは別格です。うっそうとした大木が生え、広大な公園か、日本の皇居のよう。

その向こうにニョキニョキとそびえる瀟洒な白い団地が「アパルトメン・カリバタ・シティー・レジデンス」。あれっ、いつの間にこんなのが出来ていたの?とびっくり。横山さんも2012年にジャカルタを再訪して「なんじゃ、このビル群は?」と驚いたそう。大規模な、ザ・団地。洗濯屋からカフェまで店もたくさんあり、地下にはスーパーマーケット、ジム、フードコートなどがある「地下街」が広がります。「十分、ここで引きこもりができる」と横山さんが言うのに、うなずけます。何より、歩いて買い物に行けるのが便利!

さて、部屋へ。配管がむき出しになった廊下が新鮮。部屋は、あれっ? 33平方メートルと言うのに、意外に、狭さを感じさせません。セカンド・ベッドルームをつぶしてリビングにしてあるのが良い。ここにテレビ、ギターなどが置かれて、「くつろぎスペース」になっています。カーテンで間仕切りもできます。

キッチンの手前のリビングが「仕事スペース」、「オフィス」になっています。机の横の本棚は、この場所にぴったりはまるように特注したもの。そうやってスペースを無駄なく使い、広々とした仕事の場所を確保し、横にくつろぎスペース、奥に小さなキッチン、広めのベッドルーム、小さなトイレ・シャワー、小さなベランダという構成。ベランダには昔懐かしい二槽式の洗濯機が置かれています。

「一人だと、過不足なし」と横山さん。

横山さんによると、ここのお薦めポイントは、交通の便が良いこと。電車の駅がすぐ近くで、「電車がバリバリ使える。電車は渋滞がないので、車より速くて便利」。長所とも短所とも言えるのが、「昼も夜も人がいること」。何しろ大規模団地で人口が多い。住人はインドネシア人の若夫婦が多いようです。

「デポックが僕のふるさと。デポックに住みたかったんだけどね。6駅分ぐらい、ジャカルタの方へ出て来ました」

子供のころから転勤を繰り返していたため、「借り家」「仮住まい」に抵抗はなし。日本には3LDKのマンションを持ちながら、ジャカルタでは300万ルピアのアパートに住む。スッパリと無駄なく、「過不足ない」住まいを選択しているのが素晴らしい。

何だか「お宅訪問」連載みたいになってきましたが、誌面が尽きましたので、続きはまた次号。
(つづく)

Apartemen Kalibata City Residence
+ ・安い
・下に地下街
・電車の駅が近い
– ・人が多すぎ?
・狭い

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