「進むべき方向を見失っている」パリ五輪予選敗退で“恥の上塗り”のブラジルサッカーに母国メディアも辛辣… 宿敵の元名将からは「文化の衰退」

パリ・オリンピックのサッカー男子南米予選で、過去2大会で金メダルを獲得してきたブラジル代表が、2004年アテネ大会以来となる予選敗退を喫した。

5チームによる総当たり方式の予選ステージ(グループA)を3勝1敗の首位で通過した後で行なわれた、2グループの上位2チームによるリーグ戦(ファイナルステージ)で、2位以内に入ればパリへのチケットを手にできたブラジルは、初戦のパラグアイ戦を0-1で落とし、続くベネズエラ戦は2-1で制して2位に浮上するも、結果的には引き分けでも良かった宿敵アルゼンチンとの最終戦で防戦の末に0-1で敗れ、五輪3連覇の夢はその舞台にすら立つことなく潰えることとなった。

このような結果に終わったことについて、ブラジルの総合メディア『Globo』は、DFのミシェル、カイキ・ブルーノ、MFマルロン・ゴメスを起用できなかったことは言い訳にはならないとし、アレクサンデル、マウリシオ、ガブリエウ・ペック、ジョン・ケネディ、そしてエンドリッキといった優れた人材を擁した集団が一敗地にまみれた原因は、その戦い方にあったと断言している。

同メディアは、ラモン・メネゼス監督率いるチームがファイナルステージに進出した4チームの中で最も得点が少なく、予選ステージでも敗退したウルグアイをも下回った他、ファイナルステージでは全ての対戦相手よりもシュート数が少なかったことを紹介し、攻撃力が低かったことを指摘する。

また、「予選期間中のチームの合言葉は『バランスを保つ』だったが、そんなことは起こらず、選手の間隔は広くなり、攻撃の組み立てにおける創造性の欠如も、前線での効果的なプレーもほとんどなかった。加えて全試合において、守備が脆弱になる瞬間が何度もあった」と綴り、攻守両面での問題を挙げている。

同メディアは、東京五輪で金メダルを獲得した14の団体チームのうち、パリ行きの資格を得られなかったのはブラジルの男子チームだけだと紹介。しかし、同国サッカー界全体で見ると、屈辱はこれに止まらず、男子A代表は2026年ワールドカップ予選で3連敗を喫するなど1940年以降で最悪の成績に瀕しており、女子A代表は昨年のワールドカップで史上最悪の結果(グループリーグ敗退で全体18位)、男子U-20代表もU-20W杯でイスラエルに4強入りを阻まれた……。
当然ながら、国内メディアはこれを「恥辱だ!」と非難し、当事者である選手も、「ブラジルが五輪に出場できないなんてことがあってはならない。悲しみもさることながら、恥ずかしさの方が大きい。少しではなく、とても恥ずかしい」(ケネディ)と語るなど、大国の威信を傷つけてしまったことに大きなショックを受け、落胆している。

この惨状に対し、デジタル新聞の『O Municipio』は「この敗退は、ブラジルサッカーが進むべき方向を見失っていることを明確に示している。アルゼンチン戦では、組織されていないチーム、攻撃プレーでの平凡さ、そして相手が(78分に)1点を決めた後の精神的な混乱をさらけ出した」と酷評し、さらに以下のように続けた。
「貧弱な試合の後に、“サッカーの国”はまたしても恥をかき、その未来は不透明だ。良い人材がいるにもかかわらず(以前はもっと優れていたが……)、新たな失敗から分かるように、至急CBF(サッカー連盟)には適任な指導者が必要である。それにしても、どこまで堕落してしまったのか。CBFがますます豊かになる一方で、ブラジルのサッカーはピッチ上でますます貧しくなっている。何という時代! 何という衰退!」

国外からも厳しい声は多く届いており、アルゼンチンからは1978年W杯の優勝監督であり、現役時代はブラジルでもプレーしたセサル・ルイス・メノッティは、「今、ブラジルで起こっていることを残念に思っている。1970年のW杯では、彼らの素晴らしい瞬間を私は目撃した」と語り、ライバルの現状を嘆きながら、檄を飛ばしている(アルゼンチンの『DSPORTS Radio』より)。

「これには、文化の衰退があると思う。もはや彼らは、(70年当時とは)別の世界にいる。彼らがなぜそんなに酷いプレーをするのか、なぜアイデアを持たないのか、なぜ輝かしい歴史を維持しないのか理解できないが、とにかく改善できることを願っている。もっとも、ブラジルが我々(アルゼンチン)に対して悪いプレーを続けるのは歓迎するが……」

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マネー至上主義、外国人選手の流入…ブラジルサッカーの問題点とは?

一方、プレーのクオリティーの低下について、ブラジルのスポーツ専門メディア『Um Dois Esportes』は、1998年に制定された「ペレ法」に端を発していると指摘。選手の権利を守るための規則により、国内サッカーの主導権が代理人に握られ、彼らのマネー至上主義の下で以前のような多様で優れた人材の育成が妨げられ、欧州クラブの需要に合った選手の“製造”に重きが置かれていったという。

それに加え、かつてはごく一部の優れた外国人選手だけを受け入れ、国内選手に成長の機会を与えていたリーグも、今では100人以上の選手が国境を越えてきており、「パルメイラスのグスタボ・ゴメス(パラグアイ)、フラメンゴのジョルジアン・デ・アラスカエタ(ウルグアイ)、アトレチコ・パラナエンセのルーカス・エスキベル(アルゼンチン)を除いて、全選手が(能力的に)疑わしい」と同メディアは指摘する。

「今回の件は、ブラジルサッカーはCBFの悪しき運営によって深刻な構造的問題を抱えているだけでなく、すでにどん底に達しているにもかかわらず、何も改善がなされていないことを意味している。クラッキ(天才プレーヤー)が現われた時にだけ、ブラジルはタイトルを獲得しているというのに……」

前出の『O Municipio』は、「我々は『1対7』の教訓を何も学んでいないようだ」と綴り、2014年の自国開催のW杯準決勝でドイツに「ミネイロッソ(ミネイロンの悲劇)」という名で記憶されるほどの惨敗を喫した後の、長く続いた混乱と不振に言及している。当時(2016年)はチッチの代表監督就任とネイマールを中心としたチームによる自国での史上初の五輪金メダル獲得が、ブラジルサッカーを上昇気流に乗せたが、今回はいかにしてこの状況を乗り越えるのだろうか。

構成●THE DIGEST編集部

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