『相棒』寺脇康文がいるからこそ描けた犯人の“その後” 橘亭青楽約21年ぶりの再登場も

「犯した罪から再び立ち上がれる人もいる」

事件を解決することは刑事の仕事であり、喜びのひとつなのだろうが、罪を償って社会復帰を目指そうと頑張っている人を応援できるのも刑事ならではの喜びなのかもしれない。『相棒 season22』(テレビ朝日系)第16話には、ファンには懐かしい元受刑者が登場した。

右京(水谷豊)と亀山(寺脇康文)はそれぞれ茉梨(森口瑤子)と美和子(鈴木砂羽)を連れて、橘亭青楽(小宮孝泰)師匠の落語会を訪れる。青楽は、亀山が特命係に配属された当初、元アイドルの妻・美奈子(大西結花)を脅迫していた男を殺害した罪で服役していた人物。出所後、落語界に戻り、世話になった右京たちを復帰公演に招いたのだった。

当時を回想する際に流れた画の荒い映像に驚いた人もいたことだろう。青楽が起こした事件は、なんと『相棒 season1』の第3話「秘密の元アイドル妻」として実際に放送されたもの。つまり青楽は約21年ぶりの『相棒』登場となる。ちなみに当時の事件には伊丹(川原和久)も捜査で参加しており、亀山は脅迫を受けていた美奈子のファンでもあった。亀山が5代目の“相棒”として本作に帰還してから、過去登場していたキャラクターが再び登場したり、初代の時の小ネタを挟んできたりと長年のファンがニヤリとしてしまう仕掛けは多くあったが、こうして「罪を犯してしまった人のその後」を描けるのも長年愛されてきた『相棒』シリーズだから、そして亀山がいるからこそできることである。

ところが、その舞台の本番直前、青楽がどういうわけか姿を消し、そのまま行方不明になってしまう。そんな中、都内のバーでマスターが刺殺される事件が発生。現場には、青楽の物と思われる手ぬぐいが落ちていた。調べると、被害者は元受刑者で、民間ボランティアとして、受刑者に落語を教えていた青楽と接点があることがわかる。青楽が何かしらの事件に巻き込まれていると察した右京と亀山は、独自の捜査を開始。青楽から特に熱心に稽古をつけてもらっていたという受刑者・根津(菅田俊)から事情を聞く。しかし、根津は何かを隠しているようで、多くを語ろうとしなかった。しかも根津はガンに冒され、余命わずかであり、医療刑務所に送られてしまう。

青楽は美奈子に、根津の印象について「一線を超えてしまった者の匂いがしない」と語っていたという。根津は務めていた鉄工所の社長を殺害し、800万円を奪った殺人強盗罪で無期懲役となっていた。現場に残されていた根津の名前入りの帽子や手形、足形が証拠となったのだが、右京は「真っ黒すぎる」と疑問を持っていた。本当に犯人なら少しでも証拠隠滅を測るのではないかというのだ。そこから右京たちは根津の事件に共犯者がいたのではないかと調べ始める。

とは言っても、真実を一番知っているのは根津である。右京は弱っている根津の病室を訪ね、共犯者の存在について聞くが、根津は誰かを庇っているような様子を見せるがなかなか本当のことを話そうとはしない。そこで右京は「今、あなたが守るべきなのは誰ですか」「犯した罪を償うことなく逃げ仰せている男か、あなたのために懸命になっている青楽さんか」と問いかける。そして「あなたが話さなければ永久に青楽さんは帰りませんよ」と強く言い、最後には根津の耳元で「根津さん!」と呼びかけた。右京の思いが通じたのか、根津は弱々しく「刑事さん、助けてくれ、師匠を」とつぶやいた。じっとお互いを見つめる右京と根津は静かではあるが、確かにそこに男同士の熱い人間ドラマが展開されていた。

青楽は、真犯人に繋がる凶器の隠し場所を根津から聞き出していた。本当は、それを右京に教えようと思っていたのだ。どうやらその前に襲われてしまったらしい。助かった青楽は右京たちとともに根津の病室を訪れた。根津に高座に復帰することを報告した青楽は、同時に人を笑わせられるか不安であることも吐露した。すると根津は「俺は、師匠の落語に救われたよ」と絞り出すような声で答えた。青楽は根津に落語を教える立場ではあったが、逆に根津に教えられることもあったと言う。青楽と根津は上下関係を超え、犯した罪から再び立ち上がろうと支え合っていたのだろう。右京と根津とは違う、こちらも熱い男たちの強い絆が感じられるこの場面は大きな見どころのひとつだった。

右京と亀山は青楽の高座を鑑賞し「いい夜ですね」ととても満足そう。舞台袖では、美奈子が青楽を温かく見守っており、青楽を取り巻く素敵な関係性に胸がいっぱいになった。過去には罪を犯し、今回は被害者となってしまった青楽。波乱万丈ではあるが、きっとそれをも“芸の肥やし”にできるのが落語家なのだろう。これからさらに幸せな人生を歩んでほしいと願わずにはいられない。

(文=久保田ひかる)

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