急増する新NISAセミナー。金融ジャーナリストが語る「参加しない方が良い」講演会の特徴とは

Facebookのタイムライン上には、さまざまな広告が表示されます。とはいっても、ユーザーの年齢、性別、居住地、興味関心、行動履歴などのデータをベースにしたターゲティング広告なので、すべての出稿者の広告が表示されるわけではありませんが、このところ急に増えたのが、「新NISAセミナー」に関する広告です。

とある新NISAセミナーに参加してみた

広告の出稿者はさまざまです。日本証券業協会のような公的機関が主催するセミナーもありますし、大手新聞社のカルチャーセンター、IFA会社、保険代理店、投資教育会社なども、各社が主催する新NISAセミナーの参加希望者を募るFacebook広告を打っています。

新NISAがスタートしたことをきっかけにして、資産形成を始めてみようと考えている方は結構いらっしゃるのではないでしょうか。

ですが、資産形成に興味はあるけれども、「新NISAって何?」「何を買えばいいの?」という方も大勢いらっしゃると思います。そういう人たちが、新NISAの知識を得るうえで、この手のセミナーの内容がどの程度、役に立つものなのかを知りたくて、大手新聞社のカルチャーセンターが開催している新NISAセミナーに申し込んでみました。

「参加しない方が良い」と感じたセミナーの特徴

結論から申し上げると、参加しない方が良いと思われるセミナーが、相当数あるのでないか、ということです。すべてがそうだとは言いませんが、私が参加した新NISAセミナーの内容に照らして、その理由をいくつか挙げてみたいと思います。

①新NISAの仕組みについての説明が少ない

まず、「新NISA」をセミナータイトルに掲げていますが、新NISAの仕組みなどに関する説明が、ほとんどありませんでした。セミナー自体は、2時間近いものでしたが、新NISAについて触れたのは、恐らくそのうち15分から20分程度です。

では、他の時間は何を説明していたのかと言うと、「なぜ今、資産運用をしなければならないのか」という気付きを与えるための部分だけで、40分以上の時間を割いていました。

「皆さん、最近スーパーに行って、モノの値段が上がっていると思いませんか?」などと言いながら、インフレによってお金の価値が下がるという話をし、そのうえでいかに預貯金の利率が低いのかという点に言及し、そこから「資産運用が大事なのです」という話に持っていきます。

まあ、言わんとしていることは分かります。ただ、この人、とても講演慣れしていらっしゃるのか話し方は上手なのですが、残念なことに内容が雑です。

「これから毎年、物価は2%ずつ上昇していきます」とおっしゃいますが、物価が毎年2%ずつ上昇するようにコントロールできるなら、とっくの昔にデフレから脱却できているでしょう。

「長期投資と複利運用で、リスクを減らしながら資産を大きく増やすことができます」という話も出ましたが、投資の時間軸を長くしたとしても、投資対象のリスク量が減るわけではありませんし、投資に複利の概念を持ち込むこと自体が間違っています。

「スーパーマーケットに並んでいる商品には為替リスクがあります。だから外貨建て資産を持つ必要があるのです」という説明もかなり雑です。確かに海外から輸入されている食材などもあるでしょうが、円安が20%進んだとしても、スーパーマーケットに並べられる商品の値段が、同じように20%上昇することはありません。そのリスクをヘッジするために外貨建て資産を持ちましょう、というロジックは、「ちょっと飛躍し過ぎなんじゃないの?」と突っ込みたくなりました。

そんな話を延々と聞かされ、肝心の新NISAに関する説明は20分程度。ちょっと納得がいきません。

②講演者の主目的が保険の宣伝・営業である

そして、「こんなセミナーなら参加しない方がいい」と思った一番の理由は、講演者の目的が全く違うところにあることが分かったからです。

会場に入った時、今日の講演者のプロフィールを渡されました。ある会社に所属しているファイナンシャルプランナーです。所属している会社の説明書きはいっさいありません。

当初、大手新聞社のカルチャーセンターが主催しているセミナーであることをうたっていたので、変な営業をされることはないと思っていたのですが、その考えは甘いことが分かりました。それは、講演者の話が進んでいくなかで分かったことです。

「これから皆さん、お金がどんどん必要になります。医療や介護にもお金がかかります。でも大丈夫。医療や介護の必要性が生じた時、1.5倍になってお金が戻ってくる商品があります」

「相続でもめるケースがたくさんあります。でも、保険を利用すれば、相続でもめるリスクを減らすことができます」

このセミナーは、新NISAについて知識を提供するのが目的ではなかったのでしょうか。なぜ、熱心に保険の話をしているのでしょうか。そう、この講演者が所属している会社は、「保険代理店」だったのです。

Facebookに表示された広告では、大手新聞社のカルチャーセンターが主催している、中立性を保ったセミナーという印象を受けたのですが、どうやらそれは私の勘違いだったようです。

「無料相談会」へ誘導される参加者たち

仕組みがどうなっているのかはよく分かりませんが、ひょっとしたらこの保険代理店が、カルチャーセンターに一定額のお金を払って、セミナーの時間枠を買ったということも考えられます。大手新聞社の名前を使えば、集客が容易になるからです。

その割に6人しか参加者が集まらなかったのは、ひょっとするとこの保険代理店にとっては誤算だったのかもしれませんが、彼らの目的は、セミナー参加者を見込み客にして、保険に加入させることです。それによって得られる手数料を考えれば、Facebook広告と会場使用にかかる費用など、簡単に賄えるのかもしれません。

セミナーで散々、お金の不安感をあおった後、無料相談会の場が設けられていました。「普段、この手の相談会では一定のお金を頂戴するのですが、今日、会場にお越しいただいた方限定で無料の相談会を開催します。ぜひご参加ください」ということでした。

しかし、恐らくその無料相談会で連絡先を書かせ、後々、じっくりと顧客化していくのではないかと推察します。もしくは、その場で保険に加入してもらう確約を取るのかもしれません。

私は参加しませんでしたが、それ以外の5名中4名が、無料相談会に参加していました。「ただより高いものはない」なんてことにならなければ良いのですが……。

鈴木 雅光/金融ジャーナリスト

有限会社JOYnt代表。1989年、岡三証券に入社後、公社債新聞社の記者に転じ、投資信託業界を中心に取材。1992年に金融データシステムに入社。投資信託のデータベースを駆使し、マネー雑誌などで執筆活動を展開。2004年に独立。出版プロデュースを中心に、映像コンテンツや音声コンテンツの制作に関わる。


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