『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』なぜシリーズ最高記録を達成? 「21世紀のガンダム」ヒットの背景

映画『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』が絶好調だ。本作は2002年から2003年にかけて放送された『機動戦士ガンダムSEED』、2004年から2005年に放送された『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』に続く完全新作劇場版であり、およそ19年ぶりのシリーズ最新作ということになる。

この『SEED FREEDOM』、公開から18日間で興行収入が26億8000万円を突破。観客動員数は163万人を超えたという。1982年の『機動戦士ガンダムⅢ めぐりあい宇宙編』の興行収入が23億円だったというから、熱狂的ガンダムブームの時期に打ち立てられた記録を塗り替えたことになる。凄まじい数字だ。

しかし、一体なぜ『SEED FREEDOM』はこれほど強烈な記録を打ち立てることができたのだろうか。この疑問を考える際にまず大前提となるのが、『機動戦士ガンダムSEED』シリーズはそもそも大ヒット作だったという点である。

『ガンダムSEED』が放送された2002年というタイミングは、テレビアニメとしてのガンダムシリーズの展開が一旦畳まれた後の時期に当たる。1993年の『機動戦士Vガンダム』から4作続いて展開されたテレビシリーズが一段落し、さらに1999年には『∀ガンダム』によってシリーズ全体が総括された。『ガンダムSEED』は、その流れの後で「21世紀のガンダム」を方向づけるべく発表された作品だった。

登場人物に美男美女を揃え、巨大な羽根を背負ったわかりやすくかっこいいガンダムが飛び回り、凄惨で重いドラマの中でキャラクターたちが希望を求めて戦う。時代に合わせて刷新された「21世紀のガンダム」の物語は大ヒットした。『SEED』の最高視聴率は8.0%。シリーズ累計のパッケージ販売数は400万本を超えている。日本だけではなく北東アジア全域でもヒットした本作は、現代に通じる「『ガンダム』というコンテンツ」「カッコいいモビルスーツ」「カッコいいガンプラ」のありようを大きく方向づけた。そして同時に、大いに賛否の分かれた作品でもあった。

『ガンダムSEED』放送当時は、日本におけるインターネットの普及期に当たる。そのため、『ガンダム』という超有名タイトルの最新作の内容については、当然ながらネットでも論争の的になった。過去のガンダムシリーズのテイストとは異なるキャラクターデザインや、初代『ガンダム』への目配せを感じさせるストーリー上の諸要素、女性ファンが激増したことや作画の完成度について……。さまざまなポイントについて新旧のファンが言及し、特に続編『SEED DISTINY』の内容については、さらに賛否が割れたのである。

『ガンダムSEED』という作品には、以上のような文脈が乗っかっている。「21世紀のガンダム」としてそれまでのガンダム像を刷新した作品であり、凄まじいセールスを記録した大ヒット作であり、インターネットの普及期で大いに議論を呼んだ作品だ。『SEED』がなければガンダムシリーズは終わっていた……とまでは断言できない。が、もし『SEED』がなければシリーズの姿は今とは相当違った形になっていたはずだし、ガンダムがバンダイのキャラクタービジネスを象徴することもなかっただろう。『SEED FREEDOM』の大ヒットには、『ガンダムSEED』シリーズがそれだけ強烈な存在感を持つ作品だったという前提があるのだ。

さらに大ヒットの要因として、「うまく20年間コンテンツを寝かせた」という点がある。元々『ガンダムSEED』劇場版の制作は2006年にアナウンスされており、2007年には公開される予定だった。が、その後様々な事情から劇場版は立ち消えになり、シリーズの正統続編となる映像コンテンツは制作されないままの状態が続いた。

しかし、その間も『ガンダムSEED』は完全に休眠していたわけではなかった。定期的に登場モビルスーツのプラモデルやキャラクターのフィギュアが発売され続け、様々な媒体で外伝も発表され、上海では実物大フリーダムガンダムまで完成した。『ガンダムSEED』は、人々の記憶から消えない程度に新たな商材が販売され続けたのである。

この、「20年の間、定期的に関連商品が発売されつつ寝かされた」という点は、『SEED FREEDOM』大ヒットの大きな要因であるように思う。前述のように、『ガンダムSEED』は良きにつけ悪しきにつけ議論を呼んだ作品だった。しかし、20年経ったことで当時のトゲトゲした記憶もある程度薄れ、「良くも悪くも『SEED』はこういう味付けの作品だったし、むしろこの味が懐かしい」と観客が受け入れる素地ができていたのではないだろうか。

加えて、当時「人生初の『ガンダム』」として『ガンダムSEED』に触れた2002年の中高生が、20年の間にいい大人になっているという側面もある。彼らにとって『ガンダムSEED』シリーズは子供の頃の思い出の作品であり、ノスタルジーを誘うタイトルであるはずだ。「21世紀のガンダム」という看板を背負って誕生した『ガンダムSEED』は、年月の経過とともに平成中期の思い出コンテンツへと姿を変えていたのである。

ノスタルジーという要素はバカにできない。人は基本的に「知らないもの」に金を払わず、「知っているもの」「昔知っていたもの」については財布の紐が緩くなる。かくして、20年というちょうどいい期間寝かされたという点は、『ガンダムSEED』というコンテンツが再度ヒットする土壌を生み出したのだ。

ガンダムシリーズ内でも段違いの知名度を持つ大ヒット作の続編であり、放送当時の賛否両論がほどよく忘れ去られた時期に公開され、ゼロ年代へのノスタルジーをも武器にした『SEED FREEDOM』は、ヒットの条件が揃った作品だったと言えるだろう。その結果は前述の通り。今なおガンダムシリーズの映画として記録を更新し続けている。

さらに、映画版の脚本に参加した後藤リウによる『小説 機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』といった書籍類や、登場機体のガンプラ、各種関連商品などによる売り上げや波及効果は計り知れない。バンダイは総力体勢で『ガンダムSEED』関連商品を売っているし、それができる点がバンダイという企業の凄みだろう。

『SEED FREEDOM』は、「大ヒットしたコンテンツをうまく寝かせ、時季を見て再始動させる」というビジネススキームが極めて有効であることを示してみせた。手堅い商売の方法として、このスキームの応用例は今後も増える可能性がある。「20年ほど前に大ヒットしたコンテンツのリバイバル」は、大きな金脈なのだ

(文=しげる)

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