川崎F、ACLラウンド16第1戦辛勝。山根視来の移籍で生じた問題は

家長昭博(左)瀬川祐輔(右)写真:Getty Images

AFCチャンピオンズリーグ(ACL)2023/24のラウンド16第1戦(計8試合)が、2月13日より各地で行われている。このラウンド16で、川崎フロンターレと山東泰山(中国)が激突。山東の本拠地、済南奥林匹克体育中心で行われた第1戦を、川崎Fが最終スコア3-2で制した。

2024年最初の公式戦をかろうじて物にした川崎F。昨年12月、及び今年1月に加入したMF山本悠樹とFWエリソンが躍動した一方で、2月20日の第2戦に向けて修正すべきポイントも見つかった。川崎Fが解決すべき問題とは何か。ここでは第1戦における同クラブのパフォーマンスを論評したうえで、この点について解説していく。


川崎フロンターレ FWエリソン 写真:Getty Images

山東泰山vs川崎F:試合展開

キックオフ直後から川崎Fがボールを失い、山東の速攻を浴びる展開が続く。試合序盤の山東の猛攻を凌いだ川崎Fは、前半8分に自陣から速攻を仕掛け、FWマルシーニョが左サイドからボールを運ぶ。同選手の中距離パスにMF山本悠樹が反応し、相手最終ラインの背後を突いたうえでシュートを放ったこの場面から、同クラブは反撃に転じた。

山本と同じく新加入のFWエリソンも、相手最終ラインの背後を果敢に狙い、山東の守備網を崩しにかかる。前半19分には密集地帯を厭わずにボールをキープし、ペナルティアーク付近から強烈なミドルシュートを放つなど、今年最初の公式戦から川崎Fの攻撃を牽引した。

川崎Fが攻勢を強めたなかで迎えた前半24分、同クラブMF脇坂泰斗のコーナーキックが、ペナルティエリア内で守備をした山東のMFリー・ユェンイーの腕に当たる。これがハンドの反則と判定され、川崎FにPKが与えられると、このキックをエリソンが成功させた。

前半33分には、右サイドバックとして先発したDF佐々木旭がタッチライン際からではなく、その内側から攻め上がる。その後敵陣右サイドでMF家長昭博と脇坂がパスワークに加わると、逆サイドから走り込んだマルシーニョが脇坂のクロスにダイビングヘッドで合わせ、川崎Fに貴重な追加点をもたらした。

途中出場の山東FWフェルナンジーニョのミドルシュートを後半22分に浴び、川崎Fは1点差に詰め寄られたものの、同34分に家長が味方GKチョン・ソンリョンのロングパスから始まった攻撃を結実させ、再び2点差とする。[5-3-2]の守備隊形を試合終盤に敷いたなかで、同40分に山東のDFジャジソンにヘディングシュートを放たれ失点してしまったのは悔やまれるが、川崎Fは敵地での第1戦を勝利で終えている。2月20日に行われる本拠地でのラウンド16第2戦に向け、弾みをつけた。

山東泰山vs川崎フロンターレ、先発メンバー

悪かった川崎Fの立ち位置

この試合の前半開始からの約10分間は、川崎Fの自陣からのパス回し(ビルドアップ)がままならず。[4-1-2-3]の基本布陣でこの試合に臨んだ川崎Fは、GKチョン・ソンリョンや最終ラインからパスを回す際の各選手の立ち位置が悪く、ボールを失っては山東の速攻を浴びた。

試合序盤で特に気になったのが、川崎Fがビルドアップを試みた際の、両サイドバック(MF瀬川祐輔とDF佐々木旭)の立ち位置だ。

ビルドアップ時に瀬川と佐々木が味方センターバックとほぼ横並び、かつタッチライン際に立ってしまうことが多く、ゆえに[4-4-2]の守備隊形を敷いた山東のサイドハーフにこの2人が捕捉されてしまう場面がちらほら。前半4分に浴びた山東の速攻は、もとを辿れば佐々木が自陣のタッチライン際でビルドアップに関与し、相手選手のプレス(寄せ)をもろに浴びたところから始まったものだ。

このシーンでは、佐々木がセンターサークル寄りの立ち位置からタッチライン際へ移動。味方DFジェジエウのバックパスを受けていたが、そのままセンターサークル寄り(中央)のところに留まっていれば、左右どちらにもパスを散らせる状況を作れただろう。

ビルドアップ時にサイドバックの立ち位置が横に広がりすぎた場合、サイドバック自身の傍にはタッチラインがあるため、左右どちらかのパスコースが必然的に消える。前半4分の川崎Fのビルドアップでは、自陣のタッチライン際でボールを受けた佐々木が相手選手のプレスを浴び、やむなく中央へドリブル。この直後に佐々木が繰り出した縦パスが相手に読まれ、山東の速攻に繋がってしまった。


ロサンゼルス・ギャラクシー DF山根視来(川崎フロンターレ所属時)写真:Getty Images

感じられた山根移籍の影響

川崎Fの自陣からのパス回しを司ってきたDF山根視来が、今年1月にロサンゼルス・ギャラクシー(アメリカ)へ移籍。今回の川崎Fの苦戦の要因は、ここにあるだろう。

ビルドアップにおける山根の存在感が特に際立っていたのが、昨年11月に行われたACLグループステージ第5節、ジョホール・ダルル・タクジム(JDT/マレーシア)戦だ。

この試合で右サイドバックを務めた山根は、ビルドアップ時に味方の2センターバック間に時折入り、これによって[4-4-2]の守備隊形を敷いたJDTの2トップとの数的優位(3対2)を確保。キックオフ直後に山根がこの立ち位置をとったことで、ハイプレスを繰り出そうとしていたJDTの出鼻をくじいた。この山根の気の利いたポジショニングで攻撃のリズムを掴んだ川崎Fは、この試合を5-0で制している。

今回のACLラウンド16第1戦を見た限り、川崎Fは山根抜きのビルドアップのパターンを構築しきれていない模様。同クラブがこの問題を解決するには時間がかかりそうだが、今回のようにビルドアップ時の各選手の配置や隊形変化のパターンがあまりに乏しければ、第2戦でもボールロストを繰り返してしまうだろう。この点が第2戦の見どころとなりそうだ。

© フットボール・トライブ株式会社