コンビ復活を諦めてないPOISON GIRL BAND・吉田大吾の漫才への思い

吉本興業所属のPOISON GIRL BAND・吉田大吾が、2月19日(月)に2回目となるバンド編成ライブ『POISON GIRL BAND 20240219』を開催する。「バンド編成の漫才ライブ」という一風変わったこの公演への意気込みや漫才への思い、そして相方の阿部が活動休止中で止まっているコンビ活動復活の可能性についてまで、ニュースクランチがインタビューで聞いた。

▲POISON GIRL BAND・吉田大吾【WANI BOOKS-“NewsCrunch”-Interview】

ライブのコンセプトが伝わってなかった(笑)

『POISON GIRL BAND 20240219』はバンド編成のライブ。そう聞いてもイメージしづらい人が多いだろう。実際にどんなライブになるのか、率直に聞いてみた。

「簡単に言うと、メンバーが順番に、曲の歌詞をなぞった漫才をしていく形式のライブです。相方の阿部ちゃんが活動休止中なので、1人で何かやろうと考えたときに、どうせならコンビ名のとおりバンドを組んじゃおうって考えたんですよね。でも、僕は楽器ができるわけではないし、歌もうまく歌えない。そこで、芸人らしさの残るバンド編成のライブを思いつきました。

去年の10月に1回目をやったんですけど、お客さんも始まってから“ああ、そういうことか”って、だんだん気づいていった人が多くて、そこは前回の反省点なんで(笑)。やっぱり、実際に見てもらうのが一番なんだけど……曲を流すから配信もできなくて」

と笑いながら、こうも説明してくれた。

「最初、2丁拳銃の小堀さんに企画の意図を伝えたら“僕たちの漫才が曲で、流れる曲がMCみたいな感覚。音楽ライブとは真逆の発想やな”と言ってくれて、バーっと構想が固まったんですよね。あと、バンドらしくライブハウスでやる以上、お客さんには申し訳ないんですが、オールスタンディングです」

今回で2回目となるが、仕事の都合で欠席となる東京ダイナマイト・松田大輔を除くメンバーが、前回に引き続き出演となる。

「バンド形式なので、自分がボーカルとした場合、ほかの楽器担当を集める必要がありました。メンバーを考えるときに、“バンドはリズム隊が大事”って言葉を思い出したんです。漫才のリズムをずっと保ってくれる人として、2丁拳銃の(川谷)修士さんと小堀さんの存在はマストだと思いました。

あと、バンドっぽいっていうコンセプトがあるから、 ちょっとだけカッコつけてほしい、みたいな気持ちがありましたね。本人たちにはあんまり言ってなかったんだけど、どこかずっとカッコつけたり、演じていてほしいなって。なので、コントができる東京ダイナマイトの松田さんと、おしみんまるをメンバーに加えたんです」

松田、おしみんまると聞いて、どんな状況でもネタから降りずにやりきる人、というイメージを伝えた。

「そうそう! そうです。そのあたりのニュアンスはしっかり伝えていなかったのですが、皆さん最後まで降りずにやりきってくれました」

昨年10月のライブをやってみて、どんな手応えがあったのだろうか。

「メンバーは最高だったんですが、内容にはめちゃくちゃ反省点がありましたね。先ほども言ったんですが、そもそも見に来てくれた人たちが、ライブのコンセプトを理解していなかったんですよね。告知の仕方が下手だったのか……前から僕のことを知ってくれている作家さんですら、途中で“あ、そういうことね”となったみたいで(笑)。

あとは、曲中の手持ちぶさた感が目立ちましたね。漫才になる部分の歌詞を聴かせるために、長いと4~50秒メロディを流し続けていた部分がありました。少し間延びしてしまうところがあったので、今回のライブでは改善しようと思ってますので、これまで見たことないライブになると思いますよ!」

どのアーティストの曲が流れるかは当日のお楽しみ

今回、都合により出演できない東京ダイナマイト松田の代わりに、シークレットゲストの出演が告知されている。

「シークレットゲストは、スパイス的な存在になることを期待して呼びました。もしかしたらライブをいい意味でぶち壊してくれるかもしれません。でも、さすがにもう出てくれないと思うので、本当に今回きりだと思いますよ」

前回に引き続き、会場となるのは「The Top Beat Club」。吉田が好きなバンド、THE NEATBEATSのMR.PANが作ったライブハウスだ。

「ちょうどライブハウスができあがったときに、MR.PANさんが“音楽に限らず、いろいろな人にステージへ上がってもらいたい”と言ってくれていたんですよ。しかも、The Top Beat Clubは、僕の地元の荻窪にある。いつか絶対に立ちたい! と思ってたんで、こんなに早く夢が叶うとは思ってなかったです」

そして、漫才のテーマとなる楽曲についてだが、前回は「THE BLUE HEARTS」「THE HIGH-LOWS」「ザ・クロマニヨンズ」と、甲本ヒロトと真島昌利が作った楽曲をテーマにしていた。こうなってくると、気になってくるのが今回テーマとなるミュージシャンは誰なのか……だ。

「前回とは違うアーティストの曲に変える予定なのですが、どの歌手を選んだのかは本番まで秘密にしています。どのアーティストの曲にするかを事前に言っておいたほうが、お客さんは来やすいかもしれないな、とも考えたんですけど……。でも、そのアーティストのファンの集客に頼りたくないなと思ったんですよね。あくまで、漫才を見に来てもらったうえで“あのアーティストの曲が流れた!”と楽しんでもらいたいです」

ウケない理由を自分で考えることが成長の秘訣

今回のライブのほかにも「POISON吉田が1人と漫才」など、面白い漫才企画を打ち出している吉田。どのような思いで漫才と向き合っているのだろうか。

「単純に漫才をやるのが好きだからですね。でも、意外と自分の頭の中を整理したいから、漫才と向き合っているのかもしれません。たとえば、若手芸人のネタの審査員をしているときに、自分の意見を言葉にできないと説得力が生まれないですよね。頭の中にあることを整理していくなかで、漫才という具体的な形が出来上がっているんだと思います」

現在では先輩として意見を求められる立場である吉田。自分が若手の頃受けたアドバイスで、印象に残っているものはあるのだろうか。

「うーん……。当時は、ああしろこうしろって、あんまり言われなかったんですよね。漫才中に腕を組むな、ぐらいかな(笑)。自分も、あまり後輩へ積極的なアドバイスはしてないんですよね。というのも、他人に言われたままやってみても、本人が乗り気でなければ意味がないと思ってるんです。ネタがウケなかったときに、それはなぜなのか? を自分自身で考えて対策を練っていくほうが絶対に身になると思うので」

▲ウケない理由を自分で考えることが成長につながるんです

若手のネタ見せの講師もしている吉田に、最近見た若手のなかで面白いと思った芸人を聞いた。

「パンプキンポテトフライは、初めてネタを見たときに面白い! と思いました。ほかには、1~4年目の若手芸人たちのネタを見たときはイチゴが印象に残りました。あと、9番街レトロも好きです。なかむら(☆しゅん)くんのYouTube『えぐいっちtokyo(仮)』はチャンネル登録して見るぐらい好きですね。若手のネタを好きになるときは、バンドを好きになる感覚で見てるかも知れない。基準は僕がドキドキするかどうか、ですね」

囲碁将棋、オズワルドなど「POISON GIRL BANDを見て、お笑いの世界に入った」と公言する後輩芸人は少なくない。

「オズワルドの伊藤くんとか、囲碁将棋の文田とかは、ポイズンを憧れだと言ってくれます。とてもうれしいです。そういえば、僕の憧れである甲本ヒロトさんが、パンクロックを初めて聞いたときに“これだったら僕たちでもできる”と思ったみたいなんですよね。同じようにポイズンを見て、“これなら僕たちでもできる”と思ってくれた人がいるなら、もうパンク漫才師を名乗ろうかな(笑)。

あと、これは阿部ちゃん以外の方々と漫才をやってみて、改めて気づいたことなんですけど。やっぱり芸人はみんなすごいですよ。営業妨害になるかもしれないけど、とろサーモンの久保田とか、天竺鼠の川原とか、2人とも無軌道な感じに見えるけど、ちゃんと台本を読み込んできてる。そのうえでアドリブもめっちゃ面白い。みんなバケモンだなって思います。

プロ野球選手のピッチャーが決め球を持っているみたいに、売れてる芸人みんな2~3個は得意なものがあるんですよね。声の張り方とか、間の使い方とか……うまい人を見てると、僕はつくづく決め球なしでやってたんだなって(笑)」

コンビにとって2015年の『M-1』が転機だったかも

NSCに入ってからを考えると、25年を数える吉田の芸人人生。転機になったのは、やはりM-1グランプリだ。

「2003年に準決勝進出をしたとき、その頃はまだ結果を出せていなかったけど、“ああ、いつか決勝に残れるな”って感じたんです。実際、翌年は決勝まで残った。そこから、2006年、2007年って決勝に行って、変ホ長調に負けて“素人に負けた”って言われて……。とりあえず、2010年で一度M-1が終わって、そこが自分たちのラストイヤーって認識だったんです。

そしたら、2015年に復活したらルールが変わって、参加資格が結成10年以内から15年以内に変わって、出られることになった。でも、僕の中では2010年でM-1のスイッチは切れていたし、若い子にめちゃくちゃ申し訳ないところもあって、気持ちがあまり乗らなかったんです」

自分たちが出たら、若い子に申し訳ないのではないか。その思いを相方の阿部に伝えたところ、「それでも、もう一度出たい!」と言ったので、「じゃあ、ネタ選びもやってね」という約束で、二人はM-1再挑戦を決めた。

「それまでは、ネタ選びも話し合って決めてました。でも、2015年は阿部ちゃんが全部決めた。結果は予選の審査員の方々からも“今年は決勝進出確実だね”と言われたのに、準決勝で敗退してしまったんですが……。じつは阿部ちゃんが準決勝のネタを選んだときに、“そっちかぁ!”と思ったんです。でも、阿部ちゃんに全部任せると言った以上、僕からは口出しできませんからね。もしかしたら、あの日が転機かもしれない(笑)」

「復活してからのM-1は別物」というのは、2001~2010年の決勝大会に出た人がよく言うことだ。ピリピリした緊張感が張り詰めており、ウケないコンビが容赦なく晒されてしまう場。今の空気で挑戦してみたい、という気持ちはないのだろうか。

「いや、それ以前に決勝まで残るかな……一応、残りますって言いたいですけど。でも、2015年も決勝のメンバーを見て、結果的には残らなくて良かったなと思いました。若い人たちの大会になっていたから。今のほうが羨ましいと思うところは一個あって、笑神籤ですね。出番順が決まっていると、勝手に緊張しちゃうんですよ、僕(笑)。

ルミネ(the よしもと)の出番でも、楽屋でくつろいでて、自分たちの出囃子が鳴って、“やべえ!”って出ていったときのほうがよくウケたんですよ。だから、当時も笑神籤システムだったらよかったなというのは、見ていて思います」

POISON GIRL BAND復活の可能性は?

ファンとして気になるのはPOISON GIRL BAND復活の可能性だ。二人じゃないと出せない、独特の漫才を待ち望んでいるファンは多い。

「うーん……復活の道筋は……もう、だいぶ見えなくなってきています(笑)。ただ、門戸は閉じたくないんですよね。もちろん、もう一度やりたいなとは思うんですけど、阿部ちゃんにも事情があるだろうし。前回の『POISON GIRL BAND 20231016』のときは、阿部ちゃんに出てみないかと連絡したんですよ。返事は来なかったけど、今回のシークレットゲストがなんらかの事情で出られなくなったときは、本当に泣きつきにいこうかな(笑)」

復活を諦めていないと語る吉田。POISON GIRL BAND復活以外にも野心を見せている。

「吉田大吾の名前で、メディアでバンバン売れたいって思いがありますね。芸人だけでなく、役者としての仕事も引き受けるようにして、いつか誰かに引っかかってもらえたらいいな。ただ、下品な生き方してるな、とか、目先の金ばっかで仕事選んでるな、とかは思われないようにしたいんですよね。東京育ちなんで、そこの上品さは守っていたいんですよ」

▲コンビの頃から写真撮影はバッティングフォームにしていたという

最後に『POISON GIRL BAND 20240219』の意義について、こう説明してくれた。

「片付いてない仕事があったり、家の事情があったり、たくさんの悩みを抱えたままライブに行くことってありますよね。そんな状態だと、曲を聴いているあいだも、頭の片隅ではマイナスなことを考えてしまうと思うんです。

じつは今回、曲を流す予定のアーティストを一度変更しているんですよ。2024年が明けて、いろいろなニュースを見てから固まっていた構想を練り直したんです。今回のライブでは、ポジティブで明るい、気持ちが晴れるようなアーティストの楽曲をお届けする予定です。残念ながら『POISON GIRL BAND 20240219』を見に来ても、皆さんが抱えている悩みは何も解決しません。

でも、たしかThe Whoのピート・タウンゼントの発言をヒロトさんが引用したもので、“ロックンロールは何も解決しないんだけど、悩んだまま踊らせる”って言葉があって、本当にそうだし、そうであるべきだなって。何も解決しない。それでも、ライブを見終わったときに“来てよかった”って気持ちには絶対させるつもりです」


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