世界の平均気温、年平均で「1.5度」目標超える=EU機関

マーク・ポインティング、BBCニュース気候変動記者

世界の平均気温が観測史上初めて、年平均で工業発達以前に比べて1.5度以上、上昇していたことが、欧州連合(EU)のコペルニクス気候変動サービス(C3S)の研究で明らかになった。

世界各国は2015年にパリ協定を採択し、気候変動による深刻な影響を回避するため、世界の平均気温の上昇を工業発達以前に比べて1.5度以内に抑えようとしている。

1年にわたる目標超過は、パリ協定を破ったことにはならない。しかし、世界の気温が長期的に目標を超過し続ける状況に近づきつつあることを示している。

科学者らは、迅速に炭素排出を削減すれば、なお地球温暖化を遅らせることができると指摘している。

C3Sの元会長、サー・ボブ・ワトソン教授は、「(1年にわたる超過は)許容範囲をはるかに超えている」と述べた。

「たった1.5度の上昇が1年続いただけで何があったか。世界中で洪水や干ばつ、熱波、森林火災が起きた」

C3Sによると、2023年2月から2024年2月の間、世界の平均気温は工業発達以前に比べて1.52度上昇した。下の図表は、これまでの推移を示している。

海水温も過去最高を記録

世界の平均海水温も最高を記録している。これもまた、かつてない気候変動が広く影響を及ぼしていることの表れだ。下の図表から分かるように、通常、海水温がピークに達するのはあと1カ月ほど先であることを考えると、これは注目に値する。

気温が何度上昇したのかについては、科学組織によって評価に若干の違いがある。しかし、現代の観測が始まって以来、世界が最も温暖な時期にあるという点や、それがおそらくもっと長い間続くだろうという点では、どの組織も見解が一致している。

長期的な温暖化を、人類が化石燃料を大量に燃やし始めた工業化の前の水準から1.5度までに抑えることは、気候変動に取り組む国際的な取り組みの重要なシンボルとなっている。

2018年に発表された国連の画期的な報告書によれば、猛烈な熱波、海面上昇、野生生物の損失といった気候変動によるリスクは、気温上昇が1.5度よりも2度に達した時の方がはるかに高いという。

なぜ気温の上昇が1.5度以上になったのか

長期的な温暖化が、人類の活動によるものであることは疑いようがない。主な原因は、二酸化炭素(CO2)のような温室効果ガスを排出する化石燃料の使用だ。過去1年間の温暖化についても、これが原因の大部分となっている。

ここ数カ月については、エルニーニョ現象と呼ばれる自然の温暖化現象によって気温がさらに上昇した。しかしエルニーニョ現象では通常、0.2度ほどしか気温は上がらない。

世界の平均気温は、エルニーニョ現象が発生し始めた2023年後半から、ほぼ毎日のように超過幅が1.5度を超えるようになり、2024年に入っても続いている。これは、下のグラフの赤線が破線を上回ったところに示されている

エルニーニョ現象は数カ月後に終わるとみられている。そのため、世界の気温も一時的に安定し、その後わずかに下がり、1.5度の基準を下回ると予想されている。

しかし、人類の活動が大気中に温室効果ガスを排出し続けるため、究極的には、気温は今後数十年にわたって上昇し続けるだろう。

温暖化を制限することはできるのか

現在の排出ペースが続けば、長期的な気温上昇を1.5度以下に抑えるというパリ協定の約束は、向こう10年で破られるとみられている。

これは非常に象徴的な節目となるだろう。だが科学者らは、気候変動が制御不能になるような崖っぷちに当たるものではないと指摘している。

温暖化がわずかでも進めば、気候変動の影響は加速し続ける。過去12カ月の間に起こった深刻な熱波や干ばつ、森林火災、洪水などがそれを示している。

気温上昇の1.5度と2度の間の0.5度分でも、いわゆる「臨界点」を通過するリスクも大幅に高まる。

2度の気温上昇により、気候システム内で急速かつ取り返しのつかない変動が起きる可能性がある。

たとえば、グリーンランドや西南極氷床が臨界点を超えると、進行の一途をたどる崩壊が起き、何世紀にもわたって、世界の海面に壊滅的な上昇をもたらす可能性がある。

しかし科学者らは、人類はなお、地球温暖化の軌道を変えられると強調する。

再生可能エネルギーや電気自動車といったグリーン技術を世界各地で展開するなど、進展はいくつかみられている。

こうした事例により、10年前には可能性があると考えられていた、今世紀中に4度以上の温暖化という最悪のシナリオのいくつかは、現在の政策や約束に基けば、可能性がかなり低くなると考えられている。

そしておそらく最も心強いのは、温室効果ガスの排出量と吸収量のバランスをとり、正味の排出量をゼロにする「ネット・ゼロ」が実現すれば、世界の温暖化はほぼ収まると考えられていることだ。この10年間で排出量を実質的に半減させることが、特に重要だと考えられている。

アメリカの団体バークレー・アースの気候科学者ジーク・ハウスファーザー氏は、「社会として、そして地球としての私たちの選択によって、世界がどれだけの温暖化に見舞われるかを、最終的にはコントロールできる」と言う。

「破滅は避けられないものではない」

(英語記事 World's first year-long breach of key 1.5C warming limit

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