【耳が聞こえない漫画家・うささ】「救急車のサイレン音」を手を使って教えてくれた娘。それは、世界がつながった喜び・・・

ムスメちゃんが手を使って初めて救急車のサイレンの音を教えてくれた日、うさささんは「お互いの世界がつながったことに感動した」と言います。(出典/『耳がきこえないママときこえるムスメのおはなし。』)

聞こえないママとして、聞こえる娘を育てるエッセイ漫画を描き発信しているうさささん。うさささんに、自身の聴力のこと、妊娠・出産のときのことや、現在5歳になるムスメちゃんの子育てで不安に感じていたことなどについて話を聞きました。

きこえない世界を一変させてくれたムスメに伝えたいこと~耳の聞こえないママは人気育児漫画家~

聴覚障害を理由に、産みたい場所を選べなかった

うさささんは、補聴器をつけて耳に入った音と、その場の「状況」や「予測」とが一致して、初めて言葉として聞くことができるそうです。(出典/Instagram @usasa21)

――うさささん自身の聴力について教えてください。

うさささん(以下敬称略) 私は生まれつきの感音性難聴(かんおんせんなんちょう)です。感音性難聴とは、音を感じとる役割のある内耳・聴神経・脳のどこかに何らかの問題が起きて、難聴が発症すること。一方、伝音性難聴(でんおんせいなんちょう)は外耳〜中耳までの音が伝わる道の部分のどこかに問題が起き、難聴が発症します。

私の聴覚障害の等級は2級(※1)の聴力です。0歳のときから補聴器をつけ始め、日常生活では常に補聴器をつけて生活しています。
私の場合は、伝音性難聴と違って音を感じることができないため、わかりやすく言うと「あいうえお」が「”¥@_:」のように言葉をなさない音が聞こえる感じです。補聴器をつけるとその音が大きくなるだけです。

――うさささんはムスメちゃんやそのほかの聴者とのコミュニケーションはどのようにしているのでしょうか?

うささ 相手が聴者の場合は、私からは声で伝えます。相手からは、相手の唇を読む「読唇」に加え、「状況」「予測」でコミュニケーションを取ります。

――うさささんは、聞こえない夫との間にムスメちゃんを妊娠しますが、聴覚障害があることで、妊婦健診などで困ったことはありましたか?

うささ 最寄りの産婦人科では筆談を主にコミュニケーションを取ってくださったので、とても助かりましたし、定期的な妊婦健診ではとくに困りごとはありませんでした。里帰り出産を考えていたので、姉がすすめてくれた実家近くの個人病院に分娩の予約をしたいと思ったのですが・・・、それは聴覚障害者であることを理由に断られてしまいました。

何か不測なことがあったときにコミュニケーションを取ることができない=リスクがあるとされ、産科だけの個人クリニックではなく、総合病院での分娩をすすめられたんです。たしかに出産は命にかかわることもあるし、リスクがあることも否定できなかったので、総合病院での出産を決めました。今はしかたのないことかもしれませんが、いずれは聞こえない人も自分の産みたい場所で産むことができる、産院を選べる未来がくることを願っています。

※1 両耳とも100dB以上、電車が通過しているときのガード下の音より大きい音でないと聞こえない

陣痛に耐えながら必死に読唇をした

陣痛が進み出産間際には、痛みがまるで超高速回転コーヒーカップのようだった、とうさささん。(出典/『耳がきこえないママときこえるムスメのおはなし。』)

――出産・分娩にあたって心配だったことはありますか?

うささ 助産師とコミュニケーションが取れるのか心配だったんですが、残念ながら分娩中の筆談はありませんでした。気絶するほどの陣痛に耐えながら、必死に読唇をしました。お互いにとって最適な方法がないか事前にしっかり相談しておけばよかったと後悔しています。

――ムスメちゃんを出産し、どんなことを感じましたか?

うささ 大きな産声(うぶごえ)を上げて泣く娘を見て、無事に生まれて本当によかったと思いました。

――子育てについて不安だったこと、工夫したことはどんなことですか?

うささ 小さい赤ちゃんを自分が母親として育てられるのか、娘とコミュニケーションがとれるのかどうかへの不安がありました。

「おっぱいだよ」「おむつ変えようね」「おねんねしようね」などよく使う言葉に、ベビーサインやとても簡単な手話を交えながら娘に伝えていました。そのおかげで娘からもベビーサインのようなものを使ってくれるようになり、コミュニケーションが少しずつ取れるようになりました。

聞こえる娘が教えてくれる、知らなかった音のこと

――聞こえるムスメちゃんの子育てで、初めて意思疎通ができた、と感じたのはどんなときですか?

うささ 娘には、声と簡単な手話を使って日常のことを伝えていましたが、娘が2歳になる少し前のある朝、初めて『手』を使って、「救急車のサイレン音が聞こえる」ことを教えてくれたんです。娘が手を使ってくれたこと、コミュニケーションがとれたこと。それがとにかくうれしくてうれしくて。

この感動を忘れたくない!と思い、一気に漫画を描き上げました。その漫画がSNSで反響を受け、漫画コンテストで受賞することができ、Web連載が始まりました。今でもときどき読み返すのですが、当時の感動を鮮明に思い出せるので描いてよかったと思っています。

――2023年11月に出版した著書「耳がきこえないママときこえるムスメのおはなし。」の中のトースターの音のエピソードが印象的です。

うささ 小さいころから漫画からいろいろな「音」を覚えていたのですが、トースターに音の描写がなかったのか、私はトースターは音が出ない家電として認識していたんです。ある朝、娘がトースターの音が鳴ったことを教えてくれて、トースターから音が出ることを初めて知りました。

また、毎年夏になると「せみの音がする」と教えてくれるので、音による夏の訪れを感じています。動物園に行ったとき、微動だにしないサイを見て娘が「サイが・・・フンーーーっていったの!!」と教えてくれました。サイって鼻息が荒いんですね・・・!見たままではわからない、動物たちの生きる音を娘は伝えてくれます。ごくたまに、こんなことも言うんです。だれもいないはずのリビングから「足音が聞こえる」と・・・(!)そんなときはちょっと怖いです(笑)

――これからのムスメちゃんの成長で楽しみにしていることはどんなことですか?

うささ 娘は今度の春に小学校に上がります。保育園とはまた違った環境が娘にいい影響を与えてくれるといいなと思っています。娘は「お勉強をするのが楽しみ」と言っているのですが、大丈夫でしょうか(笑)

お話・イラスト提供/うさささん、取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部

聞こえるムスメちゃんの子育てによって、知らなかった音のことを知ることができた、といううさささん。それと同じようにうさささんのエッセイ漫画やお話からは、聞こえる人たちの想像がおよばない世界を知ることができます。

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2024年1月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

うさささん

PROFILE
わんぱくすぎるムスメに振り回されながら、ツイッターをメインにムスメの子育て日記、きこえないことに関するエッセイなどを発信。

kodomoe web『耳がきこえないママときこえるムスメのおはなし。』

X(旧Twitter):@usasa21

Instagram:@usasa21

ブログ「うささかふぇ」

『耳がきこえないママときこえるムスメのおはなし。』

生まれつき耳がきこえない母の住む「音のない世界」と、きこえるムスメの住む「音のある世界」。二つの世界が交わったとき、見えてくる景色とは!? 笑って泣けて温かな気持ちになる子育てエッセイ。うささ著/1210円(白泉社コドモエCOMICS)

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