『おっパン』車いすの俳優・田﨑花歩&松本圭右Pが語る“当事者キャスティング”の舞台裏

By TV LIFE

原田泰造が主演を務める土ドラ『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』(東海テレビ・フジテレビ系 毎週土曜 午後11時40分~深夜0時35分)に出演中の車いすユーザーの俳優・田﨑花歩と松本圭右プロデューサーのインタビューが到着した。

昭和のおっさん・沖田誠(原田泰造)と共に登場人物全員が価値観をアップデートしていくハートフルなホームコメディ『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』。

本作には、原作にはないドラマオリジナルキャラが登場しているが、その一人が車いすユーザーとして第2話などにも登場している萌(大原梓)の大学の友人。演じたのは、自身も車いすユーザーの俳優・田﨑花歩だ。「作り物ではない、日常と地続きの物語を作りたい」という思いから、制作陣と脚本の藤井清美がオファーしたという。

いわゆる“当事者キャスティング”は海外では一般的になってきているが、日本ではまだまだ浸透しているとは言いがたい現状について、田﨑と松本圭右プロデューサーに話を聞いた。

田﨑花歩&松本圭右プロデューサー インタビュー

◆ドラマのオファーを受けた時のご感想、および内容に関してのご感想をお願いします。

田﨑:このドラマのお話を頂いた時、日常的な学校のシーンで車いすユーザーの私が演じさせていただけるということが、すごくうれしかったです。ドラマの中で障がいについて触れない、車いすであることに触れないということが、当たり前の学校生活の一部になれた気がしました。また全体の内容も誠が凝り固まっている古い価値観を家族のためや周りのために前向きに変えていき、さらに楽しさや希望を見つけているところがとてもすてきだなと思いました。

松本:田﨑さんが演じた役は原作には登場しないキャラクターです。作られたドラマの世界ではない、日常と地続きの世界を描きたいと脚本家の藤井(清美)さんと相談しながら作りました。そして田﨑さんに出演オファーしようとなりました。
田﨑さんに質問なのですが、海外では、当事者キャスティングというのはどんどん進んでいるのに、なぜ日本では進まないと思いますか?

田﨑:そういう機会がとても少ないというのはもちろんありますが、実際、当事者の俳優さん自体も少ないというのが大きな要因じゃないかと思っています。私は幼い頃から、お芝居や演劇を見ることが大好きでしたが、自分が出演できるものだとは1回も思ったことがありませんでした。それは私が車いすを利用しているからというのもあるんですが、俳優というのは健常者がやるものというイメージが強く、健常者しかできないと最初から諦めていて自分の人生の選択肢に役者やタレントいうものはありませんでした。もしも実際に当事者キャスティングというものを見ていたら子供ながらにやりたい、私もできるかもと思っていたと思います。

松本:僕も似たようなことを感じていて、いざキャスティングとなった時に当事者俳優の方の絶対数が少ないんですよね。どのキャスティングも演技力やキャラクター、見てもらいたい層のファンが多いなどいろいろな要素を考慮して出演者を選んでいる中で、絶対数が少ないと言うのは大きな要因の一つだと思います。ただ俳優になるという夢すら見ることができなかったという言葉は重いです。そこは圧倒的にこれまでの制作側の責任なので。田﨑さんにはどんどんこれからの人たちのためにも活躍してほしいと思います!

田﨑:そうですね。本当に頑張りたいです!

松本:ちなみに事務所に入ったのはどういった経緯だったんですか?

田﨑:もともと、私はユニバーサルデザインやバリアフリーということを広めたくて今の事務所に入りました。
どうしても福祉というと固いイメージがありますが、エンターテイメントなら誰もが見てくれるので、そこでこういう人がいるんだな、バリアフリーってこういうのがあるんだな、ユニバーサルデザインってあるんだなというのを知ってもらいたいと思いました。社会を変えるきっかけになればいいなということだけで、この世界に飛び込みました。飛び込んだ後に俳優という道があったということで、将来的にはモデルも役者もいろいろなことができたらいいなと思って挑戦し続けています。

松本:今後、こんな役をやりたいというのはありますか?

田﨑:頂ける役をしっかり演じたいという気持ちはありますが…やりたい役と言われるとなかなか出てこない…。夢としてはドラマに出る以外に舞台にも出てみたいです。私が憧れていた場所というのもありますが、どうしても私のイメージだと舞台裏は階段がいっぱいあるイメージで…。そういうところをどうにか乗り越えて舞台にも出てみたいなと思っています。

松本:最近スタッフとも話していて、学校など公共の施設がどんどん建て替えられてバリアフリー化が進んでいますが、芸術関係の現場でももっと進めた方がいいということですよね?「観る側」の方だけで止まっているというか……。

田﨑:私の母校では舞台裏にスロープがあって、中学・高校時代に車いすでスロープを上って人前で話す機会がありました。全てをバリアフリーにするのは時間もお金もかかってしまうと思いますので、そういうちょっとした所からでもやっていただけると本当にありがたいなと思います。

◆今回、田﨑さんの撮影をするに当たりバリアフリー化など気をつけたところはあったんですか?

松本:今回のロケ場所は大学ということで、既にバリアフリー化されていたためバリアフリーマップをお渡しするくらいでした。むしろ特別な配慮はせず、通常の現場に来ていただき、我々に何が必要なのかを確認したいと思っていました。今日の撮影でもちょっと大変なのかなと思っていましたが、想像していたよりも特別なことではないと分かったことが一番の収穫でした。ただ、今回がたまたまそうだっただけかもしれず、何が大変なのかというのは2回、3回とやっていかないと分からないのかなと思います。

◆なるほど。まずはやってみることが大事ということですね。今回の現場の雰囲気はいかがでしたか?

田﨑:本当に楽しかったというのが一番の感想です。共演したキャストの皆さんがとても明るくていろいろお話をしてくださったので、自分が大学に通っている時の雰囲気や気持ちになりました。それこそ車いすユーザーということで最初びっくりされちゃうのかなと思いましたが、すぐに会話に入ることができて、それがすごくうれしかったです。最初の撮影が萌の描いた漫画を見せてもらうシーンだったので、本当に素直に楽しく「きゃ〜」という、そのままの感情が出せたかなと思っています。

◆撮影では監督とどんなことを話されたんですか?

田﨑:監督がいろいろと気遣っていただいて本当にありがたかったです。「障がい」を題材とした作品以外に出演するというのはなかなかないことで、今回は本当にリアルな車いすユーザーの大学生として、例えば並んで歩くときは少し前を歩いてもらった方がいいですとか、私はこういうふうにやってきたという経験を監督にお話しました。そういう面ではリアルな車いすユーザーの生活らしさを見せられたかなと思います。

松本:細かいところになりますが、緩んでいた靴紐をスタッフさんが直していましたけど、普段はどうされているんですか?

田﨑:私は自分でやります。私は結構動ける方で、自分で物を拾ったりもできますが、それでも高校生の頃は自分で取れない物は友達に取ってもらったりとか、みんなが協力してくれました。当時、担任の先生から「田﨑がクラスにいることでみんなの優しさを引き出してくれる」といううれしい言葉を頂いたことがあります。そういう当事者がいるから「やってあげよう」と自然と出るようになったと言われたことがとてもうれしかったです。

松本:それは今回の現場でも同じだと思いました。現場の人たちが優しくなっているというか、単純に他人の気持ちに寄り添ってちょっと気にかけるだけで、いろいろな作業がものすごくスムーズに進んでいるなと。

◆ちなみに、このドラマは“アップデート”という言葉が一つのキーワードになっていますが、最近田﨑さんが周りに対してここをアップデートすればいいのに!と思ったことはありますか?

田﨑:私は今、車いすユーザーに向けたウエディングドレスについて大学院で研究しています。車いすユーザーがウエディングドレスを着る姿というのは一般的にあまりイメージできない、またはちょっと障がい者の恋愛は触れにくいというイメージがあるのではないかと思っています。乗り越える壁というのはたくさんあると思いますが、そういう壁の先にウエディングドレスという存在もあると思います。障がいがあるから結婚できないとか恋愛できないとか、結婚式でウエディングドレスを着たいけど着られないとか、そういうのを諦めないでほしい。諦めなくてもいい社会というのを私は作りたいと思って研究しています。

『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』

なお、田﨑演じる萌の友人は最終話となる第11話にも登場予定だという。

アップデートをテーマに現場でもアップデートを試行錯誤中の『おっパン』。しかし、2月17日放送の第7話では、逆に「諦め」を感じさせるせりふが出てくる…。田舎の両親にカミングアウトできておらず、社会の窮屈さに苦しむ大地の恋人・円(東啓介)のせりふだ。

「俺たちは何かは諦めないといけないのかもな」。果たして、『おっパン』では諦めなくてもいい社会はやってくるのか。難しい現実に直面し、悩んだり葛藤したりしながら、それぞれの物語がさらに動き出す『おっパン』ステージ3は見逃せない。

第7話 ストーリー

『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』

家族4人で食卓を囲むことができた沖田家。ひとつの大きな壁を乗り越えた誠(原田泰造)だったが、職場では戦国時代の合戦場のような緊迫した空気が立ち込めていた。誠の先輩に当たる昭和世代の古池(渡辺哲)の言動に、部下たちがピリついていたのだ。そんな中、部下たちから念願のランチに誘われる誠。しかし、そこは阿鼻叫喚の地獄絵図で…。
一方、息子の翔(城桧吏)は同級生のメイク女子・香梨奈(並木彩華)のおかげでようやく“自分のやりたいこと”を見つける。それはメイクアップアーティストへの道。母・美香(富田靖子)と姉の萌(大原梓)には相談したものの、まだ誠には言えないでいる翔。そんな翔に野球部の長谷川(坂上翔麻)がある質問を投げかける。「沖田ってゲイなの?」
大地(中島颯太)は大地で悩んでいた。恋人で獣医学部の先輩でもある円(東啓介)が獣医師試験を受けないつもりだというのだ。大地と一緒にいるための選択らしいのだが、そんな円に大地はいつもの前向きさを失い…。それぞれの悩みが交錯する『おっパン』ステージ3が幕を開ける。

番組情報

『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』(全11回)
東海テレビ・フジテレビ系全国ネット
毎週土曜 午後11時40分~深夜0時35分

出演:原田泰造、中島颯太(FANTASTICS)、城桧吏、大原梓、東啓介、渡辺哲/松下由樹、富田靖子

企画:市野直親(東海テレビ)
原作:「おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!」練馬ジム (LINEマンガ)
脚本:藤井清美
音楽:鈴木ヤスヨシ
主題歌:「Dancing Dreamer」 4-CaraT(RISING RECORDS)
オープニング:「アプデライフ」 FANTASTICS from EXILE TRIBE(rhythm zone)
演出:二宮崇、室井岳人、加治屋彰人
プロデューサー:松本圭右(東海テレビ)、古林都子(The icon)、渋谷未来(The icon)
制作:東海テレビ The icon

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