万病の元「老化」が加速する原因=〈糖化〉を食い止めるために、必ずやっておきたい「健康習慣」とは【医師が解説】

病気や体の不調によって、自身の体の衰えを感じることがありますが、それは「老い」を加速させる体内物質の仕業かもしれません。「体内の余分な糖が蛋白質と結びつく糖化という現象が、老化物質『AGE』を作り出している」と、内科医である奥田昌子氏は言います。奥田氏の著書『「日本人の体質」研究でわかった長寿の習慣』(青春出版社)より、詳しく見ていきましょう。

血糖値が高いと老化が進む

最近注目されているのが、体内の余分な糖が蛋白質と結びつく「糖化」という現象です。糖化によってできる物質が肌に蓄積すればシワやくすみとなって外見の老化を招き、内臓や血管に蓄積すると動脈硬化、白内障、アルツハイマー型認知症などが進むおそれがあるというのです。

糖尿病で血糖値が高い状態が続くと血管や体の組織がぼろぼろになることは、ずっと昔から知られていました。糖尿病を治療せずに放置すると、失明や腎不全を始めとする深刻な症状を招きます。成人の失明原因の第1位が糖尿病の合併症によるものですし、感染症が悪化して足を切断しなければならなくなる人もいます。

この原因のひとつが、血液中の余分なブドウ糖が全身の血管と神経を障害することです。太い血管の内側の壁が傷つけば、コレステロールなどの脂肪が壁にしみこみやすくなって、動脈硬化が発生します。膵臓が傷つくことでインスリンを作れなくなり、糖尿病がさらに進行する悪循環におちいることもあります。ブドウ糖は生命を維持するのに欠かせない大切なエネルギー源ですが、濃度が高くなり過ぎると体の害になるのです。

このとき起きるのが糖化です。[図表1]を見てください。増え過ぎたブドウ糖は血液の流れに乗って全身に運ばれて、血管の表面にある蛋白質と結びつき、AGE(糖化最終生成物)という物質に変化させます。蛋白質はAGEになると本来の機能を果たせなくなるだけでなく、異常蛋白質となって蓄積し、有害な作用を起こすことがあります。一度できたAGEが自然に元の蛋白質に戻ることはありません。

[図表1]高血糖が老化物質AGEを作る 出所:『「日本人の体質」研究でわかった長寿の習慣』(青春出版社)より抜粋

AGEはいうなれば老化物質です。たとえば目の奥にある網膜には細い血管がたくさん走っています。この血管にAGEがたまると血管が詰まったり破れたりして失明を招きます。また、皮膚には弾力のもとになるコラーゲンという蛋白質がありますが、コラーゲンは糖化によって性質が変化し、皮膚の張りが失われます。アルツハイマー型認知症の人の脳で増える異常蛋白質、アミロイドβの発生にもAGEがかかわっているとされています。

ここからわかるのは、糖尿病は糖化を起こしてAGEを増やし、老化を急速に進行させる病気だということです。

健康診断でおなじみのHbA1cは、過去1~2カ月間の血糖値の平均と関連する数値です。じつは、HbA1cは、血液に含まれる赤血球の蛋白質であるヘモグロビンにブドウ糖が結びついてできています。つまり、HbA1cは糖化反応によってできるAGEの一種なので、HbA1c値が高いというのは、それだけ糖化が進み、AGEがたまっていることを意味しています。

糖化を止めるために有効な方法

糖尿病の人はもちろん、現時点では健康な人も、老化物質AGEの発生を減らすには、どんなことに気をつけたらよいのでしょうか。最近はテレビなどで、肉のこげたところはブドウ糖と蛋白質が結びついてAGEができているから食べないほうがよい、肉は揚げるよりゆでるほうがAGEができにくいと説明することがあるようです。

しかし、食品に含まれるAGEが有害かどうかは研究者によって意見がバラバラで結論が出ていません。すでにできているAGEを食べたところで、消化によって無害な物質に分解されるか、消化できずにそのまま排泄される可能性が高いという主張もあります。

現時点では、体内でのAGEの合成をおさえる夢の特効薬は存在しませんが、アメリカで行われた実験から運動が有効なことがわかっています。この実験では、糖尿病ではない42~64歳の男性を3つのグループに分けて、ひとつのグループには長期にわたるカロリー制限を、もうひとつのグループには運動を指示し、残りのグループには、どちらもせずに過ごしてもらいました。そのうえで、3つのグループのBMI、血糖値、糖化度をグラフにしたのが[図表2]です。BMI(体格指数)は肥満に関する国際尺度、糖化度はAGEの発生の程度を示す尺度です。

[図表2]運動が糖化をおさえる 出所:『「日本人の体質」研究でわかった長寿の習慣』(青春出版社)より抜粋

すると、カロリー制限グループはBMIが減って血糖値も下がったものの、糖化度は下がりませんでした。これに対して運動グループは、BMIは少ししか低下しなかったのに糖化度が明らかに下がったのです。つまり、糖化を防ぐには運動が必要で、カロリーを制限するだけでは、たとえ血糖値が下がっても糖化は防げない可能性があるということです。

この他に、とくに日本人にとって参考になる研究結果もあります。ここまで見てきたように、日本人を含むアジア人と欧米人は体質が違います。欧米人は脂肪をたくさん摂取しても、比較的安全な皮下脂肪の形でたくわえることができるのに対し、アジア人は内臓脂肪の形でためてしまいます。これが糖尿病をはじめとする生活習慣病を招くので、アジア人は欧米人と同じように脂肪を摂取することはできないわけです。

これを確認するために、白人と、東アジア出身のアジア系アメリカ人に2種類の食事をしてもらう実験がアメリカで行われました。一方は食物繊維が豊富で、炭水化物が現代の和食より多いアジアの伝統的な食事です。もう一方は、食物繊維がその半分もなく、炭水化物も少なくて、その分、脂肪が多い欧米式の食事でした。

すると、アジアの伝統食を食べるとアジア系の人も白人もインスリンの効き目がよくなりました。ところが欧米食を食べると、アジア系の人だけがインスリンの効き目が悪くなったのです。インスリンが効きにくくなれば、それだけ糖尿病の危険が高まります。また、アジア系の人はアジアの伝統食で悪玉コレステロール(LDL)の数値が下がる傾向も見られました。食物繊維と炭水化物をしっかり摂り、脂肪が少ない伝統的な食事が、糖尿病に代表される生活習慣病からアジア人を守ってきた可能性があるということです。

そして、食事の際には、ご飯より先におかずを食べると、ご飯を先に食べたときとくらべて血糖値の上がりかたが小さくなることが知られています。おかずに含まれる栄養素が、ご飯の炭水化物が分解されてできるブドウ糖の吸収をおだやかにしてくれるからです。健康な人はあまり神経質になる必要はありませんが、高血糖を指摘された人には有効です。

「慢性炎症」と老化の関係

AGEと並んで近年注目されているのが慢性炎症です。

炎症という言葉は日常生活でもよく使いますね。扁桃炎でのどがはれたとか、食中毒による胃腸炎、子どもに多い中耳炎、高齢者に多い関節炎など、赤くはれて痛みと熱を伴う症状を引っくるめて炎症と呼んでいます。

原因はさまざまで、病原菌の侵入、ケガ、やけどの他に、放射線を浴びたり、シャンプーでかぶれたりして皮膚炎になることもあります。つらい炎症は、じつは免疫細胞が体を守るためのしくみです。免疫細胞は血液の中を流れているため、体のどこかに異変が起きるとその場所の血管が広がって血液が集まります。免疫細胞を呼び寄せるためです。問題のある場所が赤く、熱っぽくなるのは血液がたまるからです。

到着した免疫細胞は血管から周囲の組織に出ていき、病原菌や、傷ついた細胞を取り除くことで体がすみやかに機能を回復できるようにしています。このとき血液から水分も一緒にしみ出すため、周囲の組織がむくみ、全体にはれぼったくなります。修復作業が終わると組織は元に戻り、赤みもはれも消えていきます。

以前から、動脈硬化、肥満、がん、アルツハイマー型認知症では弱い炎症がだらだら続くことが明らかになっていました。先ほどあげた原因のはっきりした炎症とは異なり、これといった原因が見当たらないのに炎症とかかわる反応が体内で起きて、これがずっと続くのです。どこかが目に見えて赤くなったり、痛んだりするようなこともありません。

さらには、老化によっても慢性的な炎症が起こり、百寿者を含む高齢者で調査すると、年齢が上がるにつれて炎症とかかわる反応が強くなることがわかりました。しかも、慢性炎症が強い人のほうが炎症が弱い人より先に亡くなる傾向が見られました。

日本とイギリスの合同研究からは、炎症の数値が低い高齢者は認知機能が長く保たれることが示されています。また、百寿者の子どもは慢性炎症の程度を示す数値が低いこともわかりました。何か遺伝が関係するのでしょうか? しかし、なぜ慢性炎症が起きるのか、どうすれば慢性炎症を防ぐことができるのかははっきりしていません。

考えられる原因として、古くなった細胞の蓄積があります。老化して機能を果たせなくなった細胞や死んだ細胞は、通常であれば免疫細胞がやってきてきれいに取り除きます。それが、老化により免疫細胞の働きがおとろえて掃除が間に合わず、古い細胞がたまってしまうのではないかというのです。古くなった細胞は周囲に炎症を起こすため、次第に病気と老化を進行させるおそれがあります。

奥田 昌子
医師

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