実はブラピの出世作『テルマ&ルイーズ』が4Kリバイバル上映! アカデミー賞受賞の傑作ロードムービーを彩るハンス・ジマーの音楽

『テルマ&ルイーズ 4K』Thelma & Louise © 1991 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.

アメリカン・ニューシネマの精神を受け継いだ傑作

2024年2月16日、アメリカン・ニューシネマの精神を受け継いだロードムービーの傑作『テルマ&ルイーズ』(1991年)の4Kレストア版が劇場公開となる。

男尊女卑がはびこるアメリカ中西部~南西部の旧態依然とした雰囲気を生々しく映し出し、専業主婦テルマ(ジーナ・デイヴィス)と中年ウェイトレスのルイーズ(スーザン・サランドン)の理不尽な社会への反逆を描いた本作は、「女性の権利と自立」という鮮烈なメッセージと、バディ映画/アウトロー映画としての高い娯楽性も相まって、今日に至るまで多くの映画ファンから熱い支持を集めている。

また、ブラッド・ピットが主人公たちと出会うヒッチハイカーのJ.D.を演じており、映画デビュー間もない彼の知名度を上げた作品としても有名だ。

今回の4Kレストア版上映の機会に、テルマとルイーズの“最後の旅”を彩ったハンス・ジマーの劇伴と、選りすぐりの挿入歌を簡単に振り返っていきたいと思う。

リドリー・スコット×ハンス・ジマー 二度目のコラボ

1990年代のジマーについて語る際、「『レインマン』(1988年)の音楽で脚光を浴び、一躍人気作曲家の仲間入りを果たした」と紹介されることが多い。実際、本作のリドリー・スコット監督も『レインマン』の音楽を気に入って『ブラック・レイン』(1989年)のスコア作曲を依頼しており、これが二度目のコラボレーションだった。当時のジマーはめざましい活躍を続ける一方、巨匠となった現在では考えられないような屈辱も味わっていた。

この時期、ジマーはトニー・スコット監督から『リベンジ』(1990年)の音楽制作を依頼されていたものの、プロデューサーから「もっと有名な作曲家を使え」とダメ出しされて破談になり(その後両者は『デイズ・オブ・サンダー』[1990年]でタッグを組む)、『ドライビング Miss デイジー』(1989年)ではスタジオ側がオーケストラを雇う費用の支払いを拒むという冷たい仕打ちを受けていたのである。

作曲家の知名度やランクに固執するプロデューサー/スタジオ重役も少なくない中、スコットはジマーのよき理解者だった。例えばこんな逸話がある。当初、本作はオープニングタイトルがなく、ジマーの音楽は映画開始から30分以上経たなければ流れてこなかった。しかしスコットは彼が作曲したメインテーマを大変気に入ったので、ロケ地の風景映像からメインタイトルシークエンスを作り、ジマーのテーマ曲が映画のオープニングを飾る構成にしたのだった。

劇伴(スコア)のテーマは「憧憬」

スコットは本作のロケハンをしているとき、「これは主人公たちにとって“最後の旅”になるのだから、美しい旅であるべきだ」と考えるようになったという。ジマーもこのアイデアに同意し、「憧憬」が劇伴の根幹をなすテーマとなった。ジマーは敬愛するクライマックス・ブルース・バンドのギタリスト、ピート・ヘイコックを招聘する。

ヘイコックは深く心に刻み込まれるブルースギター/スライドギター演奏でそれに応え、ロードトリップの躍動感と逃避行の緊張感、社会的な抑圧からの解放といった要素を見事に表現した。ヘイコックのギターとジマーが弾くキーボード/シンセサイザーに、力強いリズムとゴスペル風のコーラスが重なっていくラストの劇伴は、まさに「憧憬」を象徴する楽曲と言えるだろう。

アメリカ中西部~南西部の風土や主人公たちの内面を示唆する挿入歌

本作ではジマーの劇伴のほかに、18曲の既製曲が使われている。ケリー・ウィリスやタミー・ワイネット、パム・ティリスらのカントリーソングは主にダイナーやバーで流れるBGMとして用いられ、アメリカ中西部~南西部独特の雰囲気作りに貢献している。物語前半の挿入歌でとりわけ印象的なのが、事件の発端となるロードハウスで流れる「Tennessee Plates」、「Mercury Blues」、「Badlands」の3曲。のちにボブ・ディランのバックバンドに加入する若き日のチャーリー・セクストンが特別出演し、ステージで溌剌とした演奏を披露している。

歌曲の使い方で面白いのが、クリス・ウィートリーの「Kick The Stones」とグレイソン・ヒューの「I Can’t Untie You From Me」の2曲。前者はテルマとヒッチハイカーのJ.D.が“いい仲”になるシーン、後者はルイーズとジミー(マイケル・マドセン)がレストランで語らうシーンで流れる。世間知らずのテルマを夢中にさせるJ.D.の危険な魅力を表したブルースロックと、ジミーのルイーズへの思いを代弁するかのように「君を手放すなんて俺にはできない」と歌われるブルー・アイド・ソウルを対比させることで、彼らの人間性の違いが明確なものとなっている。

挿入歌で特に重要な意味を持っていると考えられるのが、テルマとルイーズがロードトリップ中に聴く楽曲たちである。

<激しい夜が呼んでいる>と歌われるマーサ・リーヴスの「Wild Night」は、これから週末旅行を楽しもうとする二人の“出発の曲”にふさわしい。トニ・チャイルズの「House of Hope」は<私とあなたに希望の家はあるのかしら?>という歌詞が、テルマの自由のない日常を連想させる。

様々なトラブルを経て、別人のように大胆になったテルマが店で強盗を働いたあと、マイケル・マクドナルドの「No Lookin’ Back」を聴きながら「最高だわ!」「(強盗を)本職にする?」と吹っ切れたように車を飛ばすのも、“もう過去は振り返らない”という二人の決意表明のように感じられる。

郊外に住む主婦の憂鬱を歌ったマリアンヌ・フェイスフルの「The Ballad of Lucy Jordan」は、“スポーツカーでパリを走り抜ける自分”を夢想する歌詞が、警察とFBIから追われる身となったテルマとルイーズの「自由」を求める心情と密接にリンクしている。そして物語終盤で流れるB.B.キングの「Better Not Look Down」は、「飛んでいたいなら下を見ないほうがいい」という歌詞の一節が、衝撃的な旅の結末を予感させる。

本作のエンディングテーマ「Part of Me, Part of You」(劇中でもこの曲が流れるシーンがある)を歌うのは、イーグルスの創設メンバーとして知られるグレン・フライ。『ビバリーヒルズ・コップ』(1984年)の「The Heat is On」、『特捜刑事マイアミ・バイス』(1984年~1989年)に本人がゲスト出演したエピソードで使われた「Smuggler’s Blues」、『ゴーストバスターズ2』(1989年)の「Flip City」など、フライは映画/ドラマ挿入歌でも大人気だった。

ここでご紹介した曲のほかにも、テンプテーションズの「The Way You Do the Things You Do」、グレイソン・ヒューの「Don’t Look Back」、ジョニー・ナッシュの「I Can See Clearly Now」などが使われているので、映画をご覧になったあと自分なりのプレイリストを作成して頂くと、より物語の余韻に浸れるのではないかと思う。

文:森本康治

『テルマ&ルイーズ 4K』は2024年2月16日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー

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