【毎日の手入れが大事】馬の蹄の病気と予防

馬の肢の先端にある蹄。

表面は硬い角質で覆われていますが、実はとてもデリケートで大切な器官です。適切に手入れされないと病気になることもあり、最悪の場合は馬が命を落とすことも。

この記事では、馬の蹄の構造や病気、手入れの手順や注意点についてご説明します。

馬の蹄の構造

草食動物である馬は、肉食動物から逃げるため速く走るのに適した体に進化しました。
馬の祖先は複数の指を持ち、それぞれの先端に爪がありましたが、大きくなった体を支え、速く走っても肢をひねらないように進化した結果、中指以外の指は退化。
現在の馬の蹄の表面は中指の爪に該当します。

蹄の表面は角質層で覆われ、上から下に向かって1ヶ月でおよそ1cm伸びます。
角質層には血管や神経は分布していませんが、その内部には骨や血管、神経が存在します。

蹄の裏側中央にあるくさび状の部位を蹄叉(ていさ)といい、人の中指の指紋がある部分に該当します。

また、蹄の側面は前から「蹄尖」(ていせん)、「蹄側」(ていそく)、「蹄踵」(ていしょう)の3つの部位に分けられますが、柔らかい蹄踵部には伸縮性があります。
蹄踵部は肢が着地して体重がかかると広がり、地面から離れると縮む働きを持ちますが、これを蹄機作用といい、ポンプのように働いて肢末端の血行を促進することができます。

馬の蹄の代表的な病気

蹄叉腐乱(ていさふらん)

蹄叉が細菌感染により腐敗する病気で、腐敗した臭いや蹄叉がもろくなっていることで気付きます。重症化するまで痛みはないことが多く、重症化すると出血して破行します。

原因:厩舎など馬がいる環境が不潔なことや、蹄に汚物が詰まったまま放置するなど手入れが悪いことで、蹄叉が細菌感染します。

予防:馬がいる環境を清潔で乾燥した状態に保ちます。また、蹄に詰まった汚物は毎日取り除き、手入れをして清潔にしましょう。

裂蹄(れってい)

衝撃などによって蹄壁に亀裂が入ること。ダメージが角質層のみの場合は痛みはありませんが、神経や血管まで達すると痛みや出血を伴います。

原因:冬に蹄が乾燥してもろくなると起きやすいです。また、蹄壁が湾曲しているなど蹄の形や、硬い地面で運動することが要因になることも。

予防:蹄油を塗って蹄の乾燥を防ぎます。

蹄葉炎(ていようえん)

蹄内部の葉状層という部位が炎症を起こして壊死し、蹄骨が蹄壁からはがれて変位。激しい痛みを伴い、重症になると死亡する場合もあります。

原因:肢の骨折などで運動できず、他の肢で体重を支える期間が長くなると、蹄機作用を働かせることができず蹄の血行が悪くなった結果、葉状層に炎症が起きます。これを負重性蹄葉炎といいます。

この他、一度に濃厚飼料をたくさん食べてしまったことによる食餌性蹄葉炎、感染症で敗血症を発症したことによる敗血症性蹄葉炎、代謝異常や内分泌以上による内分泌性蹄葉炎などもあります。

予防:馬は体重が重いため、肢を骨折してしまうとどうしても他の肢に負荷がかかってしまい、負重性蹄葉炎の予防は困難。また、内分泌性蹄葉炎も予防することは難しいです。

食餌性蹄葉炎や敗血症性蹄葉炎は管理に気を付けて、根本的な原因が起きないようにします。

蟻洞(ぎどう)

蹄壁に蟻の巣のような空洞ができる病気です。

原因:蹄葉炎など他の蹄の病気に続いて発症する場合と、他の病気がないのに発症する場合があります。

予防:細菌や真菌の感染によって発症する場合もあるので、馬がいる環境や蹄を清潔に保つようにします。

蹄の手入れの手順と注意点

運動の前の手順は①裏掘り→②蹄油、運動の後の手順は①裏掘り→必要に応じて水洗→②蹄油を塗ります。

① 裏掘り

蹄の裏側にはへこみがあり、特に蹄叉の周りには汚物や泥などが詰まりやすい構造になっています。
蹄を清潔に保つため、運動をしない日でも1日1回は蹄の裏に詰まった汚物などを取り除きましょう。

裏掘りをしながら蹄の傷や臭いなど、異常がないことを確認します。

注意点:蹄叉は柔らかく、中央には蹄叉中溝という溝があります。鉄爪(てっぴ)で傷つけないように気を付けましょう。蹄叉を傷つけないため、鉄爪は蹄踵から蹄尖に向けて使います。
大まかな汚れを鉄爪で取り除いたら、ブラシで細かい汚れをこすって落としましょう。

② 蹄油を塗る

裏掘りを行い、蹄の汚れをブラシなどで取り除いたら、蹄底と蹄壁に蹄油を塗って、乾燥や湿度から蹄を守ります。馬場の砂や水分に接する前に、蹄油で蹄の表面を保護しましょう。

注意点:蹄が汚れたまま蹄油を塗ると、汚れが蓄積して不潔な状態になってしまいます。必ず汚れを取り除いてから蹄油を塗りましょう。
蹄冠部の毛が伸びていると蹄油が毛について汚れやすくなります。毛が蹄にかからないようカットすると手入れがしやすくなりますが、クライスデールなど下肢の長い毛が特徴の馬ではカットしないようにしている場合もありますので注意しましょう。

※ 水洗

蹄の汚れは、基本的には鉄爪やブラシで落とします。水洗は補助的に行い、蹄はなるべく濡れていない状態を保ちましょう。肢を洗ったら丁寧に肢と蹄の水分をタオルで拭き取り、蹄に蹄油を塗って油分を補います。

注意点:お湯を使うと油分が流れ落ちて乾燥しやすくなってしまいますので、蹄を洗う場合には水を使うようにしましょう。

まとめ

地面や馬房の床に接触する時間が長く、馬の重い体重を支える蹄は、不衛生な環境の影響を受けやすく、病気にかかりやすい部位でもあります。

馬は自分で環境を清潔にすることができませんので、人が清潔な環境を保ってあげたいですね。

© 株式会社ワールドマーケット