高齢者を癒やす、老犬クック 盲導犬からキャリアチェンジ 長崎・佐世保の介護施設に“勤務”

名前を呼ばれ近寄るクックと、笑顔を浮かべる天野さん=佐世保市、ケアハウスあかりさき

 長崎県佐世保市赤崎町の介護施設「ケアハウスあかりさき」で、利用者から黄色い歓声を集める“優秀なスタッフ”がいる。ラブラドルレトリバーのクック(雄、12歳)。盲導犬を目指していたが進路を変え、約11年前から同施設で“勤務”している。人間に換算すると約90歳。同世代の利用者と触れ合い、癒やしを与えている。
 クックは適性などを踏まえて盲導犬以外の道を選択する「キャリアチェンジ犬」。九州盲導犬協会で訓練を受けていたが、皮膚のアレルギーがあったため、視覚障害者の負担になる可能性や、犬の健康、精神面も踏まえて進路を変えた。1歳半だった2013年3月ごろ、施設長の藤井陽子さん(56)がペットとして個人で引き取り、一緒に“通勤”するようになった。
 日課は利用者との触れ合いと来客の出迎え。利用者が名前を呼ぶと、しっぽを振りながら近づき、そばに座ったり、利用者の顔を見つめたりしている。来客が訪れると、座って出迎える。
 利用者が食事をする部屋に入らないなど、ルールは必ず守る。飛び付くこともなく「人が大好きで、おとなしい子なんです」と藤井さん。人付き合いが苦手な利用者がいたが、クックが寄り添うと徐々に心を開き、他の利用者らともコミュニケーションが取れるようになったという。
 温厚な姿のとりこになった利用者も多く、10人ほどで「クック応援隊」を結成。その一人、天野廣美さん(82)は「クックは心のよりどころ。会えると心があたたかくなる」とほほ笑む。同年代でもあり「クックが生きているうちは、頑張って生きたい」と目を輝かせた。
 盲導犬とは異なる道を歩んだが、約50人もの利用者やその家族など大勢を癒やし、愛される存在になった。「この生活が向いているのかなと思う。クックにも私たちにとっても、一番幸せ。これからも互いに寄り添っていきたい」。静かに語る藤井さんを、クックが優しいまなざしで見つめていた。

◎ズーム キャリアチェンジ犬

 盲導犬などの訓練をしていたが、性格や身体的な適性を踏まえて進路を変更する犬。九州盲導犬協会では、1歳のうちに、一般家庭のペットとして譲渡する。留守がちでなく、室内飼いができるなどの基準を満たすと引き取れる。同協会によると、盲導犬になれるのは全体の約3割。約7割はキャリアチェンジ犬などになっている。

© 株式会社長崎新聞社