専門家は「絶対にやってはいけない」と口をそろえるが…“怪しい友だち”に目をつけられた“大地主の長男”を救う、不動産相続の「ウルトラC」【税理士が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

遺産分割の手続きを進める中で、問題となりやすい土地の分割。相続専門の税理士として多くの相続を間近で見てきた天野隆氏は「誰か1人が不動産をすべて相続する代わりに、その価値をもとにした相続分を現金でほかの人に支払う『代償分割』がおすすめ」と言いますが、時には例外となるケースもあるようです。天野氏と税理士法人レガシィの共著『相続格差』より、詳しくみていきましょう。

絶対やってはいけない「不動産の共有」

それほどモメていない相続であっても、相続税の申告期限まで遺産分割が進まないことがあります。とくに土地の分割(分筆)が含まれていると、土地の測量や手続きに意外なほど時間がかかるものです。

そこで、「もう間に合わないから、とりあえず不動産はきょうだいで共有にしておこう!」となるケースも見かけます。不動産の共有とは、土地や建物を複数の人が共同で所有することです。しかし、不動産の共有はトラブルのもと。「きょうゆう」を「競誘」と書く人もいるぐらいです。相続に関わる専門家は、「不動産の共有は絶対にやってはいけない」と口を揃えます。

最近多いのは、母親が1人暮らしをしていた家と土地を、きょうだいで共有するケースです。「どうせ売るんだから、それまでは共有でもいいか」となるわけです。しかし、たとえ一時的な措置だとしても、共有はやめたほうがいいと私はアドバイスしています。

確かに、共有にしたままで売却すれば、売却額を2人で山分けにすればいいように思えます。それで何事もなく済むケースもありますが、往々にして売りたい時期や金額は、それぞれ異なっています。

ずるずると売らないでいるうちに、1人が経済的に苦しくなって、「早く売ろう」といい出すかもしれません。でも、ほかのきょうだいが首を縦に振らないと、売買も貸すこともできません。そこで、きょうだい間のトラブルが発生してしまうのです。

では、どうしたらよいかというと、私がおすすめしているのが代償分割という方法です。これは、誰か1人が不動産をすべて相続する代わりに、その価値をもとにした相続分を現金でほかの人に支払うという方法です。

もちろん、手元に相当の現金があれば、相続時に支払うのが理想的です。しかし、それが無理ならば、土地を売却したときに現金で払います、と遺産分割協議書に記載します。

不動産売買は決断が必要です。自分は5,000万円の価値があると思っているのに、4,000万という価格が提示されたときに、売るべきか、売るべきではないかは、非常に難しい決断になります。みんなで協議して決める話ではありません。

でも1人で相続すれば、その人の都合で、売りたい時期に売れる金額で売却できます。その金額については、ほかの人は口を出さず、自分の分け前をもらうという仕組みです。

ところで、不動産の共有は絶対にやってはいけないといいましたが、あえてやってもいい不動産の共有があるとすれば、それは親子による共有です。通常は親が先に亡くなり、自動的に不動産が子どものものになるというシナリオが見えているからです。

例えば、医院や商店などで、子どもに跡を継がせるつもりでいるものの、一気にすべて譲るのは心配だというケースです。自分が生きている間は、自分の持分も残しておいて、子どもが暴走しないようにチェックするわけです。

頼りない長男に、どこまで相続財産を渡すか

きょうだいでの不動産の共有は避けるべきだと述べたばかりですが、場合によっては、きょうだいでもあえて共有にするというケースがまれにあります。

今でも相続全体の約6割が本家相続だと述べましたが、とくに多くの不動産を持つ地方の地主さんには、その傾向が強く残っています。そこで、長男のなかには、親が亡くなれば当然、自分のところに財産がすべて転がり込んでくると決めつけている人も多くいます。

それだけならまだいいのですが、そんな長男につけ込んで、怪しい友だちの取り巻きがいると大変です。

狭い町だと、「あそこにいるのは、農家の大地主の長男だよ」と誰もが知っているので、たかってくる人がいるのです。悪い人間にいわれるがままに、土地をだまし取られるのではないかと、きょうだいは気が気ではありません。

そうなると、長男だからといって跡を継がせるのはいかがなものか、という意見が出てきます。一方で長男は、なんで自分が長男なのに相続させないんだと怒って、これが大モメの原因になります。

解決策は、もちろん長男にゼロというわけにもいかず、ほどほどに配分することになります。ほかのきょうだいよりも多めではありますが、普通の本家相続ほどは多すぎないように、というのが一般的でしょうか。

そのほかに、きょうだいの考えにもよりますが、最終手段として、あえて土地を共有にするという手があります。

「きょうだいの共有は絶対にやってはいけないのでは?」

確かに一般的な相続ではそうです。共有にしてしまうと、全員の意思を統一しないと売ることができず、扱いにくくなってしまうからです。

しかし、このような「頼りない長男」の場合では、そのデメリットがメリットになりえます。つまり、長男が誰かにそそのかされて、勝手に処分できないようにするわけです。

ただし、気をつけなくてはいけないのは、共有不動産のうち、1人の持分だけを買い取るという業者があることです。そうした怪しい業者に売ってしまうと、きょうだいと業者による共有という形になり、かなり面倒なことになってしまいます。

実際に、「どのみち売るから、それまで2人で共有にしよう」としたものの、1人がお金に困って、そうした業者に安く売ってしまったという話もあります。残された1人も、そのまま持っていても自由にできず、結局2人とも損をしてしまったといいます。やはり、よほどのことがない限り、不動産の共有は避けるべきでしょう。

天野 隆/税理士
税理士法人レガシィ

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