「いることが当たり前」の環境をつくるbr管理栄養士の回診参加

管理栄養士の回診参加

私は当施設がまだ「開設準備室」だった時から所属しているのですが、その頃から「嘱託医の回診に同行したいなぁ」と考えていました。前職の病院では、栄養サポートチームの活動のなかで、医師とかかわる機会が多かったこともあり、特養の栄養ケアにおいても医師の方針を確認したり、ご利用者の病態を把握したりするために必要であると考えたからです。

「開設準備室」には、のちに当施設の看護師長となる看護師も所属しており、一緒にお弁当を食べながら回診の同行について相談しました。「邪魔にならないように」という条件のもと許可をもらい、開所後、毎週水曜日に行われる嘱託医の回診に初回から同行しました。
最初の回診では、どんなことをするのか、どんな雰囲気なのか、嘱託医はどんな人柄なのかなど、状況把握に努めました。また、回診参加では、自分がその場に慣れること、医師・看護師が「管理栄養士が回診に同行する」ことに慣れてもらうことも目標にしました。

毎回管理栄養士が回診に参加すると、嘱託医も「いつものメンパー」として認識してくれます。当施設は体重管理を栄養課で行っていることもあり、食事に関することや体重の変化などは、管理栄養士から医師や看護師に情報提供するようになりました。
嘱託医や看護師長が変わっても、当施設における管理栄養士の回診参加は「日常のこと」として現在まで続いています。

回診で管理栄養士が行っていること

嘱託医の回診は診察前に、医師、看護師、当該ユニットの介護リーダー、ケアマネジャー、生活相談員、管理栄養士といったメンバーで、ご利用者ごとにカンファレンスを行うことから始まります。管理栄養士はその回診前のカンファレンスから参加し、栄養ケアに関連する次のような報告や提案などを行っています。

①食事摂取量や体重の変化などの報告

食事摂取量が著しく低下している場合や体重変化が激しい場合に報告します。また、食事摂取量(提供量に対する摂取割合や摂取栄養量)、体重変化については事前にデータを準備し、嘱託医からの問い合わせに備えます。
このほか、食事内容の変更について報告を行うのは、嚥下調整食の変更、補助食の追加や計算上の栄養必要量に対して提供が不十分な場合などです。これは、予後に影響してくるため情報共有の目的もあります。

食事については、事前に問題点に気づき、管理栄養士の判断ですでに食事内容の変更が終わっていることもあるので、その場合は変更した内容を併せて報告しています。施設によって異なると思いますが、当施設では疾患に影響しなければ、ある程度の食事内容の変更は管理栄養士の裁量に任されています。

②栄養ケアに対する提案や確認

看取りケアのご利用者において摂取量の低下を避けることはできません。提供時間の調整や食事回数の減少などで、栄養必要量を大幅に下回るような場合には変更する前に嘱託医へ報告しています。
また、本連載でも何度か紹介しているような、食事制限を超える本人の希望については、管理栄養士の考えも含めて伝え、嘱託医に指示を仰いでいます。
さらに、体調変化に伴った一時的な食事制限については、今後の変化を考慮し、どのような場合に制限の解除が可能であるといった目安を聞いています。

③経管栄養剤の提案

経管栄養剤については、基本的に医薬品扱いのものを使用しています。これは当施設の開所にあたり、ご利用者の自己負担額を軽減する目的で決まりました。現在、経管栄養を実施しているご利用者9人のうち、経管注入用の栄養食品を使っている方は1人です。

このような背景があり、経管栄養の選択・処方は嘱託医が行いますが、時折「○○な栄養剤はないかな?」と食品の経管栄養剤について開かれることがあるため、こ利用者の状況や金銭負担に合わせて提案しています。

その人らしいケアを実現させるために

カンファレンスで議題に上がらなくても、回診後に診療方針が変更になる場合もあります。その際も栄養ケアにかかわる項目について積極的に質問や提案などを行い、そのあとのケアに展開させています。
提案がそのまま採用されるわけではありませんが、嘱託医とこのようなやりとりを繰り返すことで、信頼していただいていると感じています。
また、嘱託医に相談する前に看護師をはじめとする他職種へも、同様の相談をしています。カンファレンスおよび回診前に施設内のケアの方向性をある程度まとめておくことで、嘱託医とのやりとりもスムーズになったり、提案の際に他職種から助け舟を出してもらえたりすることもあり、カンファレンス・回診前の重要な準備の1つとなっています。やむを得ず回診に参加できない時でも、看護師から嘱託医へ伝えてもらったり、伝えたいことをまとめた“お手紙”をつくって渡しておくと、嘱託医からコメントが返ってきます。

今号は、特養における回診をきっかけとした医師とのかかわりについて紹介しました。
先日行われた、『ヘルスケア・レストラン』トークライブ第10弾を視聴していて、宮澤靖先生が「栄養療法を医師に提案できる管理栄養士になろう」とおっしゃっていたことが印象的でした。
特養では日常的に医師がかかわる事例は多くはないかもしれません。しかし、宮澤先生のお言葉を特養の栄養ケアに展開してみると、「ご利用者・ご家族・他職種への栄養ケアの提案」と言い替えることもできるのではないでしょうか。
“その人らしい”生活をサポートする1人として、自分の考えを持って業務にあたっていきたいです。(『ヘルスケア・レストラン』2023年5月号)

横山奈津代
特別養護老人ホーム ブナの里
よこやま・なつよ
1999年、北里大学保健衛生専門学校臨床栄養科を卒業。その後、長野市民病院臨床栄養研修生として宮澤靖先生に師事。2000年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院に入職。同院の栄養サポートチームの設立と同時にチームへ参画。管理栄養士免許取得。08年、JA茨城厚生連茨城西南医療センター病院を退職し、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里開設準備室へ入職。09年、社会福祉法人妙心福祉会特別養護老人ホームブナの里へ入職し、現在に至る

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