オタク女がドイツに移住したら…屈強なアニオタどもと宮殿で『ゆるキャン△』談議に花を咲かせた話

アニメや漫画などをはじめとした日本のサブカルチャー文化は国内だけにとどまらず、いまや世界中で高い人気を誇っています。では海外のアニメファンは普段、オタクとしてどのように過ごしているのでしょうか?

ドイツ在住ライターでオタクのヤマコシさんは、ひょんなことから現地のアニメサークルの活動に参加することに。サークルではみんなで集まって日本食を楽しんだり、宮殿の庭で熱く語り合ったり……? そんな、(日本人にとっては)非日常でシュールな活動の様子をお伝えします。

ドイツでアニメサークルの活動に参加することになったわけ

そもそもなぜアニメサークルに参加しようと思ったのか。実はドイツに引っ越したのはつい最近の話で、住んでいる街に友達がほぼいない状態なのだ。

筆者はオーストリアの首都・ウィーンにも5年近く住んでいたことがある。ウィーン大学には日本学科が存在し、そこで開催される学生問わず参加可能な集まりにて、簡単に日本好き・アニメ好きの友達を作ることが出来た。

そこで出会ったオーストリア人に「『CLANNAD』を観ていないなんて人生損している!」と熱弁され、のちに作品を観て人生の尊さを感じ号泣したのはいつぞやの話か……。

もしウィーンに住んでいる、もしくは住む予定のある日本人ですぐに友達が欲しい人は、ぜひその集まりへの参加をおすすめする。そうして皆、だんご大家族になるのだ。

CD『メグメル/だんご大家族』(Key Sounds Label)

……話は戻るが、残念ながら現在住んでいる街の大学には日本学科はなく、仕事も在宅。そもそも人と出会う機会がない。そこで10年前から利用している言語交換アプリのタイムラインに「この街に住むアニメ好きな友達が欲しい!」と思いの丈をぶちまけてみた。

すると、ひとりのドイツ人男性からメッセージが。「今週末、自分の住んでいる街でアニメ好きが集まるサークルの集まりがあるから参加してみないか」とのことだった。月1で開催されているその集まりでは、まず日本食レストランで昼食を楽しんだ後にアニメショップを物色、宮殿の庭で歓談して最後はレンタルルームでさまざまな催しをすると言う。

サークルの拠点は筆者の住む街から電車で1時間程度のところ。サークルのホームページも確認し「行く!」と早々に返事をして、いざ現地へ!どんな人がいるかな、「YAOI(やおい)」好きな女の子いるかな!とワクワクしながら足を運んだ……のだが。

屈強なアニオタ男性陣の中に、小さな日本人の女ひとり

いざ現地の街に着き、アプリにて声をかけてくれたドイツ人男性と待ち合わせ。「アイコンでしか顔知らないし、すぐに見つけられるかな」と不安に感じていたものの、そんな心配は杞憂だった。人混みのなかでひとり、エヴァのTシャツを何の違和感もなく着た男性がその彼だった。

ユニクロ『エヴァンゲリオンUT』(販売終了)※写真はイメージです

これは筆者の勝手な所感なのだが、外国人のアニメ好き男性はロン毛の割合がかなり高い。当の彼も男性にしては長い髪の毛をひとつに束ねていた。なぜなのか、理由を今度アンケートにでも取ってみたいものだ。

ちなみに外国人のアニメ好き女性は、髪を奇抜な色に染めている割合とゴスロリ系服装を好む割合が多く見られる気がする。

さて、迎えに来てくれた彼とともにドイツ語と日本語を交えた会話をしながら、一番最初の活動の目的地であるレストランに到着、和食とベトナム料理が楽しめるお店だ。彼に導かれ席へ行くと、そこにいたのは屈強な男性4人のみ。

「……いやぁ、きっとこのあと女性も来るよね?そうだよね?」と言い聞かせているうちに続々と集まるサークル参加者。到着するのはガタイの良い、時々小柄な、しかし男性ばかり。

最終的に10人前後集まったものの、その日の参加者はすべて男性。屈強なドイツ人男性の中に、身長150㎝前半の小柄な日本人女性がひとり。そう、完全に「囚われの宇宙人」状態なのであった。(ただヨーロッパ女性も基本的に体格が良いため、女性がいても私が宇宙人であることに変わりはなかったかもしれない)

メンバーが集まり各々が近くの人と話をし始めるなか、女性がいると想像していた私は完全に萎縮モード。
誘ってくれた彼は「いつもは女性もちらほらいるんだけど……ごめんね」と謝罪してくれたのだが彼のせいではない、これもまた時の運だ。そんな彼は申し訳なさからか私に必死に話しかけてくれるが、アニメの趣味が合わないのか好きなアニメや観ているアニメで共通作品がなかなか見つからないという残念な状態。

レストランには鉄火巻きも。

ちなみに彼が2023年春に観ていたのは『魔法少女マジカルデストロイヤーズ』『天国大魔境』『機動戦士ガンダム 水星の魔女 Season2』など。私が観ていたのは『【推しの子】』『僕の心のヤバイやつ』『山田くんとLv999の恋をする』など……。

彼とそういう話をしている時に、隣に座っている男性が合間合間で気を遣って英語で話に参加してくれていたのだが、残念ながら私がドイツ語しか話せないということはしばらく切り出せなかった……。

ドイツのアニメショップは当たり前だがどれも高い

ドギマギしつつも腹が軽く膨れたところで、次の催しへ。街にある小さなアニメショップへと向かった。

お店に入るとまず大量の漫画や雑誌が並んだ複数の棚が。お店の奥には、ラバーストラップやキーホルダーなどの小物やぬいぐるみから、フィギュアにゲームソフトまで、あらゆるものが雑多に陳列されていた。

当たり前だが、どれもこれも日本より値段が高い。2倍か、2.5倍くらいはするのではないだろうか。円安ユーロ高が続いているのもあるが、それでもアニメ・漫画オタクとして日本に生まれたことを喜ぶべきだと感じた。

そうして筆者がひとり店内を物色しているとき、サークル参加者は何やらガンプラを手に、誰がそれを買うか楽しそうに話し合っていた。屈強なドイツ人男性がガンプラを前にはしゃぐ姿は、少し可愛らしくも感じられた。

宮殿の庭でアニメ談義に花を咲かすドイツ人

さて、アニメショップの次に向かったのは街のシンボルである宮殿だ。1715年にとある辺境伯によって建てられたバロック様式の宮殿は現在州立博物館となっており、宮殿内を見学することができる。しかしアニメサークルが宮殿内を見学するわけがなく、我々が向かったのは宮殿の広大な庭だ。

カールスルーエ宮殿

写真を見てわかる通りこの日は雲一つない快晴で、宮殿の庭はピクニックや散歩を楽しむ人々で賑わっていた。そんな中、アニメサークルのメンバーは庭に到着するやいなや、各々のカバンからおもむろにピクニックシートを取り出し、円になって座り始めた。

まず始まったのはメンバーの自己紹介。なぜさっきのレストランでしなかったのかという疑問はさておき、メンバーはそれぞれ今観ているアニメや漫画、おすすめしたい作品を挙げていく。ちなみに日本人のオタクと同様ドイツ人オタクも総じて話すスピードが速いが、そもそもドイツ人は基本的に早口なので、アニオタだからというわけではないかもしれない。

そこでおすすめされた作品のひとつが『ジャンボマックス(JUMBO MAX)』。幻のED薬を作ることを決意したEDの男が、ED薬を巡って危険に巻き込まれていく姿を描いたクライムストーリーだ。

青年コミック誌「ビッグコミック」にて連載されている本作。決して作品を貶めているわけではないのだが、恐らくnuman読者でこの作品を知っている人はなかなかいないのではないだろうか。

当該雑誌が販売されている日本ならまだしも、本作をおすすめしたドイツ人はどこでこの作品を知ったのか。聞くところによるとインターネットでたまたま発見したらしい。好感の持てる主人公と、彼を利用しようとする人たちのやり取りが刺激的なんだとか。

もうひとつ、他のメンバーによりおすすめ作品として名前が挙がったのは映画『ゆるキャン△』。これは筆者も視聴済みだ。本作をおすすめした彼はもともと本作漫画とアニメのファンであったそうだが、彼が映画で何より感銘を受けたのは大人になった彼女たちの姿だ(※以降、『ゆるキャン△』の若干のネタバレを含む)。

映画では登場人物が教師として働いている学校の閉鎖や、キャンプ場作りの断念など、さまざまな困難に直面する。決してハッピーエンドなだけでないが、彼女たちはそれを受け入れ、試行錯誤し前へと進んでいくのだ。それは人生においてとても大切なことだと、彼は言った。もう……わかりみがマリアナ海溝。

Blu-ray『映画 ゆるキャン△』(フリュー)

ひとしきりアニメ談義に花を咲かせ、筆者も多少彼らとの交流に慣れてきたところでふと我に返った。

周りを見回せば、かたやひとりは先ほどアニメショップで買ったゲームを何やら真剣に見つめ、かたやひとりはヴァイスシュヴァルツ(Weiβ Schwarz)のカードを取り出し並べ……立派な宮殿の新緑まばゆい広大な庭で、何ともシュールな絵である。

日本で言えば、皇居や姫路城の庭園でヴァイスシュヴァルツを広げているようなものではないか?(いやちょっと違うか)

ちなみに余談だが、ヴァイスシュヴァルツという名前についてどう思うか彼らに聞いてみた(※ドイツ語で白「Weiβ」と黒「Schwarz」という意味)ところ「最初『ポケモン』のゲームかと思った」「カードに白と黒の要素なくない?」「日本人はドイツ語が好きだからね」とのことだ。

カールスルーエ宮殿の庭

部屋の一室でクイズ大会、あらゆるアニメを網羅しているドイツ人たち

さて、最後の催しとして向かったのは、学生向けのカルチャーセンターのような場所の一室。

いつもここでアニメや漫画に関連したクイズ大会や、アニソンカラオケ大会をしているらしい。ちなみにカラオケはもちろん日本語だそうで(日本語を話せる人はあまりいないのだが)、ぜひ一度彼らの歌を聴いてみたいものだったが、今回おこなわれたのはクイズ大会だった。

クイズ自体は「アニメミュージッククイズ」という名前のインターネット上にあるもので、アカウントを登録すれば誰でも遊ぶことができるようだ。サイトはすべて英語表記だが、気になる人は検索してみてほしい。

さて、そのクイズではアニソンの一部が流れ、提示される4択の選択肢から正しいものを選択するといったものなのだが……。最近のアニメはあまり出題されず、古いものは恐らく1960年代頃ものから、新しいものは2000年代~2010年代前半のものが多かったと思われる。

しかし、彼らはどこでそんなにたくさんアニメを観ているのか、当てても当てられなくても「ああ、それね」といった反応。このクイズ大会でも思ったが、今回のサークルに参加している彼らは、総じて私よりもアニメに詳しい。アニメライターとして、なんだか悔しい結果となってしまった。

そんなこんなで夜も更け、別の街に住んでいる筆者は他の参加者よりも早く帰路についた。最初はあまりの宇宙人状態にミスディレクションを発動しそうになったが、皆とても親切で優しく、アニメに国境はないなと改めて思わせてくれた機会となった。

ちなみにこのあと、自分が住んでいる街にもアニメサークルがあることを知った。もし機会があったら、今度そちらのサークル活動にも参加してみたいと思う。

(執筆:ヤマコシショウコ)

© 株式会社マレ