10ヵ月待った50代一人娘、同居の年金月15万円・要介護3の80代母の〈特養入所〉がようやく叶うも…わずか3ヵ月で“退去”のワケ「一生看てもらえるはずが」【CFPが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

高齢化が深刻度を増す近年、親を預ける介護施設の需要が高まっています。なかでも、利用料の安い「特別養護老人ホーム(特養)」は特に人気です。しかし特養は、全国でも25万3,000人が入居待ちという状態。そう簡単に入居はできないようです。さらにはせっかく入居できても、退去せざるを得ないケースもあるようで……。本記事では、Aさんの事例とともに、特別養護老人ホームの実態についてCFPの伊藤貴徳氏が解説します。

同居の母を看ながら働く一人娘

Aさん(女性/50歳)は、80代の母と二人暮らしをしています。都内のマンションに住み、母の世話をしながら働いています。 母は現在要介護3で、日常生活にほぼ介助を必要とする状態です。日中はデイサービスに介助を頼み、夜はAさんが母の世話を行っています。

Aさんは正社員としてフルタイムで働きながら母の介護を行なっているため、仕事を終えたあと、母の身の回りの世話を行うという生活を数年続けています。父が数年前に他界してからというもの、母の体調は徐々に変化していったのでした。

「残された母のためにも、私が世話をしてあげないと」そんな気持ちで母の介護を続けていたAさんでしたが、やはり仕事と介護の両立は1人では難しく、介護施設へ入所を検討することにしました。

できれば安い介護施設に入所させたい…

特養とは、要介護状態の高齢者が入所できる介護施設のことをいいます。地方自治体などが運営することが多く、利用料が比較的安いのが特徴です。

<メリット>
・入居費用が安い
・介護を受けながら入居できる
・入所したら一生涯入居できる

<デメリット >
・待機者が多い
・原則要介護3以上でなければ入居不可

特養は、入居費用が比較的安いことで知られています。介護報酬の算定構造によると、要介護3から5までの月額利用料はおよそ10万円前後となっています。要介護3以上の状態の方が入所することができますが、入所すると一生涯入居することができるという点が選ばれる理由のひとつとなっています。

Aさんの母は、現在およそ15万円の年金を受け取っているため、特養の利用料は母の年金で賄うことができるとわかりました。しかし住まいの最寄りの特養に問い合わせると、こんな回答が。

「現在入居待ちの状態となっていまして、空き次第のご紹介となります」

特養の問題点

都市部では、特養へ入居希望しているにも関わらず、希望者が多いために待機期間が発生していることも問題となっています。

厚生労働省 特別養護老人ホームの入所申込者の状況(令和4年度)によると、特別養護老人ホームに入所を希望しているものの、入所していない方は25万3,000人に上ります。 2015年に入居者を原則要介護3以上としてからは待機者は減少傾向にありますが、それでもなお待機者は高い水準となっています。

結果、Aさんの母は特養に入所することができましたが、10ヵ月の待機期間を要しました。そのあいだはもちろんAさんが介護を続けました。

「いつになれば待機が解消されるのだろうという不安のなか、介護を続けるのは大変でした」とAさん。

やっとのことでAさんの母は特養に入所することができました。しかし、ほっとしたのも束の間、たった3ヵ月で退去をしなくてはならない事態となるのでした。

母の退去の理由

母が特養に入所してからおよそ3ヵ月後のある日、Aさんの携帯に着信がありました。 発信先は母の入所する特養からでした。

「お母様の体調がすぐれないので病院へ搬送します。すぐに来てもらえませんか」

診断は軽度の脳梗塞。幸いにも発見が早かったため大事には至りませんでしたが、長期の入院が必要とのことでした。 Aさんは母の無事が判明してとりあえずはひと安心。ただ次に頭をよぎったのは「治療費」でした。

母は病院に入院していますが、特養にも入所している形となっています、そのため入院費と特養の利用料を両方支払うこととなってしまうのです。 その総額はおよそ30万円。母の年金では賄いきれず、Aさんの収入のほとんどを使うこととなってしまうのでした。

入居者が病気や怪我により入院の必要が出てくると、家族は病院の入院費と特養の利用費の両方を払わないといけないことになります。 また、長期の入院となると、規約により退所となる施設もあるため確認が必要です。

Aさんは資金的な問題から、結果として入所まで10ヵ月待った特養を退去せざるを得ませんでした。

「一生看てもらうつもりでしたが、仕方ありません。まずは母の体調の回復が最優先で考えたいと思います。体調が戻ればなんとかなりますから。いざとなれば私は介護に戻れますし、少しでも母が元気になれるようにサポートしていきます」 。

<参考>

伊藤 貴徳

伊藤FPオフィス

代表

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