<北朝鮮内部>農場現地からの最新報告(2) 収穫は軍への引き渡し最優先 「栄養失調の兵士が多いから」 異例にも畑でそのまま納入 (最新写真4枚)

軍人が畑でトウモロコシを引き渡されているようだ。量りを持ち出して収穫量を記録しているように見える。2023年9月下旬に平安北道の朔州郡を中国側から撮影(アジアプレス)

<北朝鮮内部>農場現地からの最新報告(1) 収穫は昨年より好転も不作か 深刻な営農資材不足で限界 (最新写真4枚)

北朝鮮では9月半ばから全国の協同農場で収穫作業がたけなわである。アジアプレスでは9月後半に咸鏡北道(ハムギョンプクド)の協同農場を取材協力者が現地調査した。また同時期に中国人の協力者が鴨緑江沿いで収穫期の平安北道(ピョンアンプクド)の農場の様子を撮影した。連載の2回目は軍隊に納める「軍糧米」について報告する。(カン・ジウォン/石丸次郎

咸鏡北道に住むアジアプレスの取材協力者A氏が現地調査したB協同農場は、農場員数約500人。主に主食のトウモロコシを栽培している。咸鏡北道では平均より若干小規模 だが、山がちで水田の少ない北部地域の典型的な農場だ。

写真撮影は、中国人の取材協力者が9月後半に行った。国境の川・鴨緑江で遊覧船に乗って平安北道の朔州(サクジュ)郡に接近して撮影した。ちょうどトウモロコシの収穫のただ中であった。

なお「軍糧米」とは、白米だけでなくトウモロコシや雑穀も含めた軍用食糧全般を指す。

道路脇に建てられた粗末な警備哨所の横を通り過ぎるのは、収穫支援に動員された都市住民か。2023年9月下旬に平安北道の朔州郡を中国側から撮影(アジアプレス)

◆兵士の栄養失調多発で軍に畑で引き渡し

以下は、現地調査したA氏との一問一答である。訪問時、B農場はトウモロコシを収穫している最中だった。

――「軍糧米」の収穫状況についてお聞きします。
今年は真っ先に「軍糧米」から収穫が始まった。理由は軍部隊の食事事情が悪いからだそうだ。

――軍兵士に食糧が足りていないと?
夏の間とても悪かった。栄養失調で虚弱になって家に戻される若い兵士が多い。

――軍隊が農場に引き取りに来ているのですか?
今年は例年と違って、収穫したトウモロコシを畑で収穫高判定して、穂付きのまま軍隊に引き渡している。農場の脱穀場で別途に管理や作業をしなくてもよいので、農民たちは楽だ。生産物の管理をより効率的にするためだそうだ。農場では、あらかじめ 「軍糧米」用の畑の面積が決められている。脱穀せずにその場で軍隊が収量を確認して引き取っている。

※9月末に中国側から撮影した平安北道の別の農場の写真に、まさに軍人が畑でトウモロコシを量りチェックしているような様子が写ってていた。(写真1)

次のページ: ◆「軍糧米」の行方は?... ↓

鴨緑江から見た農村。国境を監視する警備哨所が見える。「刈り取りと穀粒集めをしつかりやろう」というスローガンが見える。2023年9月下旬に平安北道の朔州郡を中国側から撮影(アジアプレス)

◆「軍糧米」の行方は?

――農場員の反応はどうですか?
(郡の)農村経営委員会が、収穫高の判定基準で水分減耗を多く見積もっていることに不満が強い。B農場で調査した作業班の場合、「軍糧米」の収穫高を、1町歩(約1ヘクタール)当たり4.1トンに低く判定したうえ、(含まれる)水分を15%と高めに設定した。それで、作業班長が実際にトウモロコシを乾かしてキロ数を見せながら抗議したそうだ。農村経営委員会ではこれを受け入れて、水分減耗を少し下げて13%にしたそうだ。

※収穫した穀物の水分量を多目に設定されると、収穫高は低く判定され、農場員の分配量は減ることなる。

――軍隊は畑で受け取ったトウモロコシの搬出をどうやっていますか?
軍部隊の輸送車両が来ることになっているのだが、燃料不足で苦労している。これから「軍糧米」を運ぶための燃油 が追加で供給されるので、機関や企業所所属の車両も利用して「軍糧米」を輸送するそうだ。

――畑から搬出したトウモロコシはどこに運ぶのですか?
今年から、収穫した「軍糧米」は郡や市単位でいったん集めて、咸鏡北道内の旅団、連隊級 に移し、そこで脱穀作業を経て大隊に供給するそうだ。

続く 3へ >>

※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。

北朝鮮地図 製作アジアプレス

あわせて読みたい記事- <北朝鮮内部>農場現地からの最新報告(7) 豊作のジャガイモ収穫に住民を大動員 「でも保管不良で毎日数トンずつ腐っている」

© アジアプレス・インターナショナル