東京・上板橋再開発のアスベスト調査めぐり区議会で「報告書を開示すべき」と指摘 区の回答は?

東京都板橋区・上板橋南口駅前再開発にともなう解体工事のアスベスト(石綿)問題をめぐり11月下旬、区議会で質疑があった。区側の回答はどのようなものだったのか。(井部正之)

板橋区議会のようす(ただし撮影許可が出なかったため2020年9月撮影の資料写真)

◆国は報告書の開示推奨

石綿飛散を住民が懸念している東武東上線・上板橋駅南側の再開発は、正式名称を「上板橋駅南口駅前東地区市街地再開発」という。対象区域は駅南口に隣接する約1.7ヘクタール。住民から石綿の事前調査が不適正だったり、飛散する工事が起きているのではないかと不安の声が上がっている(詳細は11月14日アジアプレス・ネットワークやヤフーニュース掲載の拙稿「東京・上板橋再開発のアスベスト「飛散が不安」と住民懸念事業主が調査報告書を閲覧拒否」を参照)。

11月28日午前、この問題について区議会本会議の一般質問で五十嵐やす子議員が取り上げた。

五十嵐区議は、まず環境省が2017年に公表(2022年3月改訂)した「建築物等の解体等工事における石綿飛散防止対策に係るリスクコミュニケーションガイドライン」に「リスクに関する情報を関係者が適切に共有し、相互に意思疎通を図るリスクコミュニケーションは、リスクを低減する上で有効な手段」と記載していることに言及した。

そのうえで同ガイドラインの「解体等工事を実施する際には、石綿粉じんの漏えい等に対する周辺住民等の不安や懸念を解消することが重要です。提供する情報が不十分であったり、正確性に欠けている場合には、周辺住民等の不信を招きかねません。そのためには、正しい情報を適切なタイミングで正確に伝えることが必要です。また、周辺住民等からの問い合わせや意見などには、誠実に、かつ、速やかに対応することが重要です」との記載に触れつつ、「まさに今回の事例で大きく欠けていることであり、必要なことです」と指摘した。

ガイドラインは「発注者や元請業者等が伝えたい情報だけを伝達するのではなく、周辺住民等が必要とする情報をわかりやすく提供することが重要です」としている。このことから、五十嵐区議は「(石綿)事前調査結果の詳細な内容は、まさに環境省が指摘している提供すべき情報そのものです」と強調。

「事前調査で確認できなかった石綿含有建築材料を新たに発見した場合や石綿の飛散事故等が発生した場合には、追加的なリスクコミュニケーションが必須となります」とのガイドラインの記載を引きつつ、「今回のように当初と異なるアスベスト建材が見つかる場合も当てはまります」と指摘した。

五十嵐区議は、環境省との意見交換した際、同省はガイドラインを公表している趣旨から、「個人情報に配慮の上、積極的にアスベストの事前調査結果報告書を開示すべし」との見解だったことを挙げ、「地元自治体であり、(再開発に)補助金を支出している板橋区は開示を強く迫るべきと考えますが、見解を伺います」と問うた。

また再開発組合は「事前調査結果報告書、作業計画書ともに、求めがあれば行政に対しては適切に開示いたします」と7月に回答している。これを引きつつ、五十嵐区議は「必要があれば、板橋区は年度の途中であっても(報告書を)提出されることは可能です。そのうえで、板橋区が個人情報に配慮して区民に開示するといった対応が必要ではないでしょうか」とも尋ねた。

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答弁に立った坂本健区長は「(報告書の)記載内容について現地の立ち入り検査で区が確認等をしておりまして、開示につきましては再開発組合が判断するものと認識しています」「区としましては、再開発組合が解体工事の施工においてアスベスト等の飛散防止対策を適正に実施するように、引き続き指導していきたいと考えています」などと回答した。

しかし区の立ち入り検査による監視・指導が不十分だとして住民から不安の声が上がっているのであり、実態を無視した発言といえる。また国のガイドラインに反した対応について改める方針は示されなかった。

じつは板橋区では2007年以降、独自に定めた指針により、石綿の事前調査結果報告書を区に提出させていた。ところが2022年4月以降、大気汚染防止法(大防法)で事前調査結果の簡易的な報告制度が開始されたのに合わせて新たな要綱に切り替わったことで提出不要とされた。

区に報告書が提出されないため、詳細を知るためにわざわざ現場に立ち入りしなくてはならなくなった。実質的な規制緩和であり、区民を守るための仕組みとしては改悪といえる。

五十嵐区議は、兵庫県や大阪府は条例でレベル3建材の調査結果や作業方法を届け出させる制度を維持していることや、東京都内でも練馬区は一定規模以上の工事に住民説明義務などを設けるなどの拡充をしていることに言及。こうした国レベルの2020年規制改正が不十分なことを受けたほかの自治体の対応から、「板橋区でもかつてのようにアスベストの事前調査結果報告書を提出させる仕組みに戻すべき」と指摘した。

坂本区長は「従前の報告の仕組みに戻す考えはございませんが、立ち入り検査のほか、事業者への指導を通じまして、作業が安全に行われるよう、引き続き指導にあたっていきたいと考えています」などと繰り返すだけだった。

大山再開発が問題になった2020年の区議会で「アスベストに関する指針の実行性を確保するため、条例を制定すべきでは」と質問され、区は「他自治体の条例化の動向も注視しながら、より適切で実効性のある方策を研究していく」と回答。

これを受けて、五十嵐区議は「今回、制度の機能不全があったことが明確となりました。機能不全があった以上、改めて条例化により法の不備を補う必要があります」と訴えた。

だが坂本区長は「現在の要綱においては、事業者が行う周知方法の選択肢がいくつかあり、そのため条例を制定し、アスベストの指導を行う考えはございませんが、引き続き事業者の指導にあたっていきたい」などと答えた。

あたかも区の対応が万全かのような答弁である。この間の板橋区の残念な対応ぶりを知っている者としては呆れるほかない。

そもそも石綿の事前調査結果報告書は労働者保護を目的とした労働安全衛生法(安衛法)石綿障害予防規則(石綿則)だけでなく、周辺住民を含む国民の保護を目的とした大防法でも、現場に備え付けることが規定されている。いずれの規制でも閲覧を現場作業員に限定する規定はない。であれば、とくに大防法に基づき、不安に思う周辺住民に閲覧させるのは当然である。

報告書は適正に調査をした証であり、ふつうの現場では尋ねたらまず間違いなく見せてもらえる。筆者もさまざまな現場で閲覧しているが、むしろ断られた経験がない。真面目な事業者になると、住民説明会で資料として配られるほどだ。

坂本区長は「石綿調査は補助対象にしていない」などとも答弁していたが、それが石綿調査の報告書を閲覧拒否する理由になるわけがない。なにしろ、事業計画約415億円のうち、道路整備など区の負担約190億円に加えて補助約80億円の約270億円(65%)が税金なのだ。

税金が大量投入された再開発事業では、石綿の適正な調査・除去がされるのは当然であり、全国に手本となるような対応がされてしかるべきだ。国のガイドライン違反である現状を放置している状態だが、坂本区長の答弁からは反省も改善の意思もうかがえなかった。

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