新潟市・保育園天井で危険性高いアスベスト検出 濃度を大幅偽装する分析法採用し“安全宣言”

新潟市は市立七浦保育園(市西蒲区越前浜)の遊戯室天井から危険性の高いアスベスト(石綿)を検出した問題で11月2日に「飛散がないことを確認」したと“安全宣言”したが、実際には濃度を大幅に低く偽装する分析法を採用していたことが明らかになった。園児らの石綿ばく露リスクが見逃された可能性がある。(井部正之)

新潟市による11月2日発表の一部。アスベスト濃度を大幅に低く偽装する分析法を採用し“安全宣言”していた

◆10~100分の1に「偽装」

もともと10月24日、同保育園の遊戯室天井に埋め込まれた電灯の蛍光管を交換する際、天井仕上げ材の一部がはく離し落下した。

天井の仕上げ材はひる石(バーミキュライト)で、石綿を含む場合、危険性の高い吹き付け石綿に該当する。ところが市の資料では、仕上げ材について現在の基準で調べていなかった。市は同26日に改めて分析が必要と判断した。 同27日に天井仕上げ材の分析調査に加えて、園内6カ所で空気環境測定を実施した。 同29日、仕上げ材のひる石から基準超のクリソタイル(白石綿)を検出した。一方で11月2日、市は「空気環境測定結果から飛散がないことを確認」したと発表し“安全宣言”した。

ところが筆者が市に確認したところ、石綿濃度を大幅に低く偽装する分析法が採用されていたことが判明したのである。 じつは11月2日の市の発表では、10月29日に「空気環境測定結果から飛散がないことを確認」としか記載されておらず、測定の場所や数、実測値が不明だった。そのため市西蒲区役所健康福祉課に尋ねたところ、園内6カ所で測定し、「すべて測定の下限値の(空気1リットルあたり)0.1本未満」と説明された。

石綿の空気環境測定で一般的に使われる分析法では定量できる下限値は同0.056本など、0.1本よりはるかに小さいことが多い。それで定量できる下限未満というのは違うのではないかと聞いたところ、間違いないという。

不審に思って分析法を確認したところ、「違法業者御用達」といわれ、石綿濃度を実際より10~100分の1に偽装する「位相差分散顕微鏡法」を採用していた。

環境省が2010年6月に公表した「アスベストモニタリングマニュアル4.0」以降、この分析法は「微細なアスベストを精度良く計測しにくい」との理由でマニュアルから除外されている。つまり、石綿濃度を実際より大幅に低く偽装してしまう不正確さゆえに国が使用しないよう求めている代物なのだ。

◆市は「把握せず」と回答

市西蒲区役所健康福祉課は「検査方法はこちらの指定ではなく、空気に石綿が含まれているか1日でも早く結果を出して欲しいとお願いしました」と説明。 石綿濃度を実際の10~100分の1に偽装するためマニュアルから除外され、国が使わないよう求めていることを指摘すると、市は「把握してなかった」(西蒲区役所健康福祉課)として、「決して隠ぺいするつもりはない」(同)と釈明した。

市によれば、最初に「位相差顕微鏡法」で石綿を含むすべての繊維を調べ、空気1リットルあたり0.1~1.7本の総繊維数濃度だった。マニュアルでは総繊維で同1本超の場合に走査電子顕微鏡(SEM)で石綿の有無や濃度を調べることになっているのだが、その際に市が「1日でも早く結果を出して欲しい」と要求し、分析機関が位相差分散顕微鏡法を選定したのだという。

位相差顕微鏡法による分析結果報告書には、「アスベストモニタリングマニュアル4.2」に基づくことが記載されているが、位相差分散顕微鏡法の石綿濃度にはマニュアルについての言及がないと市は認める。 市から測定を請け負った分析機関に連絡すると、位相差分散顕微鏡法の使用を提案したことを「それは事実です」と認めた。

この分析法がマニュアルから除外されていることも認識していた。だが、その理由の「微細なアスベストを精度良く計測しにくい」ことは「それは見方によって違うんで、なんとも私どもはお答えできません。私の見解はそうとは限らない」(請負分析機関)という。

環境省のマニュアルで除外されたことやその理由をあらかじめ説明したのか聞くと、「なんとも答えられない。すいませんけど、検査機関としてお伝えできることはこれ以上ない」(同)などと答えなかった。分析機関が必要な情報を伝えていなかった可能性がある。

少なくとも分析機関は市に対して、マニュアルから除外され、環境省が使わないよう求めている分析法であることを説明する責任があるのではないか。また発注した市もどのような分析法なのかきちんと確認する義務があったはずだ。

まして石綿濃度を10~100分の1に偽装する分析法による測定結果では安全確認ができていないといわざるを得ないが、市は「その後の対応を1日でも早くしなくてはならない状況だった」「調査会社にお任せじゃないですけど、きちっとした方法で検査結果をだしていただいていると認識している」などと強弁した。

その対応が適切だったのか尋ねると「適切だったかは、すいません」と明言を避けつつ、「1つ安全対策をとったということではないかと思っています」と主張した。 総繊維数濃度で最大1.7本/リットルだった以上、市が採用した分析法で0.1本未満だったとしても、現場に1.7本/リットルの石綿が飛散していた可能性がある。つまり安全対策になっていないのは明らかだ

しかも誰もいない静穏時の測定であり、園児らが出入りすればもっと高い濃度になってもおかしくない。市による11月2日の“安全宣言”は実際には石綿飛散を見逃したままだった可能性があるといわざるを得ない。

◆園児らが石綿ばく露の可能性

そもそも今回明らかになったのは危険性の高い吹き付け石綿が見落とされ、しかもその一部が天井からはがれ落ちたという飛散事故である。園児らが石綿を吸ってしまった可能性のある重大事案だ。

ところが市の認識が甘く、対応が鈍い。 筆者が取材した段階で事故から約1カ月半が経過しているにもかかわらず、落下した吹き付け石綿の量は「ごくわずか」(同)というだけで面積や量も不明。おまけに交換した蛍光灯の数や吹き付け材に何カ所触って落下させたのかといった基礎的な事実関係すら確認できていなかった。

吹き付け石綿の落下事故後の清掃について聞くと、「職員が掃いて捨てています」(同)と回答。ぬれぞうきんで拭き掃除もしたのか尋ねると、「おそらく拭き取りもしていた」(同)というので、事実か改めて問うと「確認をとっていない」と認めた。

仮にほうきで掃いただけの場合、むしろ石綿をまき散らした可能性が高い。園児らが出入りすれば、少しずつ石綿を吸わされていてもおかしくない。 市によれば、現場の立ち入り禁止を決めたのは10月26日夜。翌27日から当面の間、保育場所を別の施設に変更した。事故後、同25~26日の2日間は遊戯室を園児らが使用していた。しかも廊下のようになっていて使用頻度が高いという。吹き付け石綿の落下量しだいではあるが、少なくとも2日間は園児らのばく露が懸念される状況だったといわざるを得ない。

結局市はその後、天井にある吹き付け石綿の除去を決め、現場での保育を再開しなかった。これは運が良かった。実際には安全確認ができていない以上、再開していたら園児らの石綿ばく露がさらに増えた可能性があったからだ。

今回の件では、もう2つ重大な問題が放置されている。 1つは、吹き付け石綿の調査が適切にされないまま放置され、園児らの石綿ばく露も見落とされていたことだ。 市によれば、石綿含有の基準が重量の1%超だった2005年に天井の吹き付け材を採取して分析したが、不検出だった。翌2006年9月に重量の0.1%超に強化されたが、それ以降は分析調査していなかった。

その結果、実際には吹き付け材に石綿が含まれていたにもかかわらず見落とされることになった。2005年7月に施行された労働安全衛生法(安衛法)石綿障害予防規則(石綿則)により、建物に吹き付け石綿があり、損傷・劣化などで石綿などの粉じんを発散させ、労働者がばく露するおそれがある場合、除去や囲い込みなどの措置を講じる義務(第10条)が設けられた。また2006年9月以降はそこで働く労働者には防じんマスクや防護服などを着用させなければならない規定も施行された。

◆市が法令違反の可能性も

石綿則施行により、通常吹き付け石綿がある場合、除去あるいは、天井板を入れる囲い込みで石綿の落下を防止する措置などが講じられるようになった。 ところが新潟市の七浦保育園では、吹き付け石綿が見落とされた結果、そうした適切な管理がされず、天井に吹き付け石綿があるのに園児らがその下に居続けることになった。その間石綿飛散がないかの調査もされていない。当然そこに居る園児らに石綿ばく露リスクがあったことになる。

これまでにも蛍光灯の交換といったメンテナンスに加えて、場合によっては改修工事で天井の吹き付け石綿を一部除去して飛散させるようなことがあったかもしれない。

吹き付け石綿のある部屋で働いていただけで中皮腫(肺や心臓などの膜にできる非常に予後の悪いがん)を発症し、労災認定を受けた事例がすでに100件超に上る。吹き付け石綿の下に「居るだけ」でもそれほど危険なのだ。まして年齢が若いほど、石綿ばく露による健康リスクは上昇することが判明している。

まず10月の蛍光灯交換作業時における吹き付け石綿の落下とその後の対策が不適切だったことによる園児らのばく露だけでなく、労働者のばく露をきちんと調べて当事者に知らせる必要がある。さらに過去のメンテナンスや修繕、改修をはじめ、天井を触る可能性がある作業や行為を徹底調査し、石綿ばく露リスクを推計したうえで、過去に在籍した園児や保護者にも知らせる必要があろう。

もう1つは、市が上記に紹介した石綿則第10条の管理義務に違反してきた可能性があることだ。市は吹き付け材に基準を超える石綿が含まれる可能性を知りながら、2006年以降、分析調査すらせず放置してきた。法で定められた管理義務を適切に履行したとは言い難い状況だ。

また吹き付け石綿を触る可能性のある作業の場合、現場の隔離や負圧除じんなどが求められるが、市はそうした対策を講じるよう発注しておらず、請負業者に法違反をさせたことになる。石綿則では、適切な費用や工期で発注するよう「配慮」するよう求めている(第9条)が、それも履行できていない。関連して発注者が発注の際に石綿の使用状況を通知することが努力義務ながら課されている(第8条)が、これにも実質的に違反したといえよう。

こうした複数の法令違反の可能性がある状況だが、市は所轄の労働基準監督署に相談もしていなかった。指摘すると、市は「相談させていただきます」(西蒲区役所健康福祉課)と回答した。きちんと検証し、再発防止を講じる必要がある。

さらに重大なのは10月の事故時や過去に在籍した園児らの石綿ばく露リスクの検討などの対応がされるのかだが、現状ではまったくわからない状況だ。ほかの自治体では第三者の有識者による徹底調査や検証、リスク評価が必要と判断される事案だが、新潟市はどうするのだろうか。 現状で保護者の納得が得られる対応とはとても思えない。また園児が成人してこの件を知った際にどう思うだろうか。新潟県内ではかつて佐渡市がそうした対応をしている。同市よりはるかに規模の大きい政令指定都市の新潟市ではずさんな対応のまま放置するとすれば情けない限りである。第三者による徹底した調査と検証などが市には求められているのではないか。

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