<北朝鮮内部調査>水産業は今どうなっているか(3) ホッケにハタハタ…隣国庶民が食べている8魚種の価格を2都市で調査 意外と高かったのは…

(参考写真)海がない平壌で魚、貝、カニが売られている。流通の中心は個人の商売人だった。2008年12月に平壌市寺洞区域の市場で撮影アジアプレス

<北朝鮮内部調査>水産業は今どうなっているか(1)コロナと資源減で打撃 金政権の統制強化で没落した漁民も

◆日本の感覚では激安だが…

北朝鮮における水産業の現状をリポートする連載3回目は、末端消費者に販売されている魚種と価格について整理・報告していく。市場や国営商店では、日本や韓国でもなじみ深い海産物が小売りされていた。(カン・ジウォン/石丸次郎

◆調査の概要

アジアプレスが11月末から12月初旬にかけて実施した水産業の現況調査の概要は次の通りだ。調査は、咸鏡北道(ハムギョンプクド)、両江道(リャンガンド)に住む取材協力者が、(1)日本海側の漁港の状況、(2)水産物の輸送と流通、(3)各種海産物の販売価格─の3点について行った。国内の移動統制が厳しく、取材協力者たちは直接漁港のある現地に赴くことができず、漁業と水産物流通に携わる業者に国内電話で話を聞くとともに、協力者の居住地の水産物商人と会った。情報が得られたのは咸鏡北道の清津(チョンジン)と金策(キムチェク)、明川(ミョンチョン)郡、咸鏡南道の咸興(ハムン)。西海岸の黄海については十分な調査ができなかった。

◆国営商店の復活図る金正恩政権

咸鏡北道のA市と両江道の恵山(ヘサン)市の国営商店と公設市場で価格調査を行った。

この数年、金正恩政権は物資流通の国家統制を強めており、漁業事業者は国が運営する流通網を通じて国営商店に海産物を納入するよう指示されている。市場の商人は国営商店から卸売りしてもらって販売することが原則になっている。

傷んでいたり消費期限を過ぎていたりするもの以外は、概ね国営商店が定めた卸値で購入するしかない。かつてのように市場の商人が自分の裁量で自由に仕入れ・販売することは困難になっており、利が薄くなって商売をやめる人が増えているという。一方の国営商店では、魚介類は常時販売されているわけではなく、大量に入って来る時もあれば、品切れが続くこともあるそうだ。

国営商店と市場で販売されていた海産物の価格一覧。2023年11月末から12月初旬にかけて調査した。(アジアプレス)

◆8魚種の価格…日本の感覚では激安

販売されている魚種と価格は、2地点に大差はなかった。調査時は、朝鮮半島の東側で獲れたものしかなかった。すべて乾物か塩漬けで、鮮魚、活魚はないとのことだった。各々の魚の大きさ、カニの種類は不明。スルメが高いのは、不漁が続いているためだろう。

以下は11月末から12月初旬かけての価格の一覧である。単位は北朝鮮ウォン。国営商店と公設市場で調べた。

〇恵山市
ホッケ2匹 3000、ハタハタ1キロ 2100、ニシン1キロ 6100、カレイ2匹 5000、明太2匹 10000、マス2匹 8000、カニ1キロ24000、スルメ1キロ 61000

〇咸鏡北道A市
ホッケ2匹 3200、ハタハタ1キロ 2400、ニシン1キロ 5800、カレイ2匹 5200、明太2匹 9000、マス2匹 7500、カニ1キロ 24000、スルメ1キロ 58000

※北朝鮮の1000ウォンは日本円で約18円

(参考写真)恵山市場の一角で女性たちが魚を売っている。彼女たちは幅80センチほどの売り場の「店主」であり、仕入れと販売は自己責任だ。2013年8月に撮影アジアプレス

日本や韓国の相場と比べるととても安い。だが、現地の人の感覚からするとコロナ以前より上がったという。調査期間中の食糧価格は概ね白米5000ウォン、トウモロコシ2000ウォン(いずれも1キロ)で、「多くの庶民は生活が苦しいので、食糧の値段と比べて考えるので高く感じるのは当たり前だ」と、A市の協力者は言う。

両江道の協力者によれば、「淡水魚や養殖したドジョウの方が海の魚よりが安くてよく売れている」とのことだった。

恵山市で調査した協力者は、「売られている海産物はすべて東海岸側の咸興、金策、明川産だった」と述べた。中国に近い辺境都市の恵山市は、西側の黄海方面との交通アクセスが悪いためだと考えられる。咸鏡北道のA市は東海岸に距離的に近く、多くの漁業拠点がある清津と付近産のものが販売されていた。(了)

※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。

<北朝鮮内部調査>水産業は今どうなっているか(1)コロナと資源減で打撃 金政権の統制強化で没落した漁民も

<北朝鮮内部調査>水産業は今どうなっているか(2)金政権の厳格規制で国内流通は不振 個人を徹底排除する理由は?

あわせて読みたい記事- <北朝鮮内部>農場現地からの最新報告(1) 収穫は昨年より好転も不作か 深刻な営農資材不足で限界 (最新写真4枚)

© アジアプレス・インターナショナル