ノザワの肥料「マインマグ」のアスベスト検出 同社分析でも実際には基準超の可能性

大手建材メーカー・ノザワ(神戸市)が製造し、全国展開していた肥料「マインマグ」のアスベスト(石綿)問題について、2023年12月13日、同社は1年近くにわたる“検証”の結果、基準超の含有は「確認されませんでした」と発表。一部メディアはそのままたれ流した。同社の“安全宣言”にどの程度の信頼性があるのか。今回は国への説明から同社の主張を読み解く。(井部正之)

筆者が2022年3月に購入して分析したところ、基準超のアスベストを検出したノザワの肥料「マインマグC」と「マインマグmini」。同社は基準超ではないと新主張(井部正之撮影)

◆「厚労省も承諾」と説明か

マインマグは石綿を含む廃棄物「鉱さい」を高温で焼成処理し、「完全無害化」したと謳う同社の肥料。筆者が購入した2製品を分析依頼したところ、基準超のクリソタイル(白石綿)を検出した。同社の主張も含めて2023年1月に記事を出した結果、同社は同1月30日に自主回収を発表。その後1年近く経って12月に同社は検証結果を発表した。

同社は12月の発表で、「法令の基準を超える石綿(アスベスト)が含有されていることは確認されませんでした」とマインマグに石綿が含まれている事実を暗に認める一方、基準超ではないと強調した。

ところが報告書など裏付けは公表されず、取材も拒否。1年近くかかったという同社の検証は完全に“ブラックボックス”である。 一方、同社は重量の0.1%超の石綿や石綿含有製品の製造や使用などを禁止する労働安全衛生法(安衛法)を所管する厚生労働省などに検証結果を報告したという。一体どのような説明がされたのだろうか。

マインマグを製造していた同社フラノ事業所(北海道富良野市)の所轄で、安衛法違反の疑いに関連して対応しているはずの旭川労働基準監督署に問い合わせると、「署として今回の件について直接(試料の)分析とかは行っていないので、お伝えできることはない。本省(厚生労働省化学物質対策課)で対応されている」と回答した。

だが、名指しされた同省化学物質対策課は「個別の案件にはお答えできない」の一点張りだ。 マインマグを製造する「無害化」処理施設の許認可を出している経済産業省は同社の訪問を受けたとしてこう説明する。

「今回ノザワがマインマグについて分析をした結果、石綿が(基準超)含まれているという結果は、認められなかったというような内容ですね。それに関して、(同社から)聞いたところによりますと、かれらがJIS(日本産業規格)の方法に基づいて分析し、得た所見について、厚労省に見解を説明したところ、その事実について承諾を得たというような話を聞いております」(北海道産業保安監督部鉱害防止課) 厚労省の「承諾を得た」とはどういうことか。

「かれら(同社)が出した(基準超の石綿は「確認されませんでした」との)結論について、厚労省が異論を挟まなかったというふうに我々は聞いている」(同) 経産省によれば、国際標準の「JISA1481-1」と日本独特の簡易分析法「JISA1481-2」で石綿の有無を調べる定性分析をしたところ、「定性的にありますよという結論が出てしまう」。その後、石綿の含有率を調べる定量分析について、国際標準の「JISA1481-4」と「JISA1481-5」で調べたが、「定性的に(石綿と)認められるけれども、定量的に規制値に至っていないというような結論が出た」という。

それはどういうことかと聞くと、「繊維状の(石綿とみられる)ものはあるんですけれども、実際には高温で焼成することによって、なんとなく形はあるんだけども石綿の組成ではないというようなものがあるという説明を受けている」(同)と話す。

そして、こうも明かす。

「伝聞なので(本当か)わからないですが、厚労省もかれらが用いたやりかたでやってみた結果、同じ結論が出たと(ノザワが)言ってましたね」(同) 経産省の話からも、同社はマインマグの石綿含有を認めつつも基準内と主張していることがわかる。 そして同社の報告に対し、厚労省は異論を唱えなかったと同社は説明。さらに厚労省の検証でも同社と同じ結論だったというのだ。本当だろうか。

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石綿の分析や無害化処理技術に詳しい方なら経産省の証言をすぐ理解できるのだが、一般にはわかりにくい部分もあるので、もう少しかみ砕いて解説していこう。 ノザワが厚労省に説明したとされる内容を整理すると、

(1)マインマグに基準超の石綿は「確認されませんでした」との結論について、「厚労省が異論を挟まなかった」

(2)国際標準の「JISA1481-1」と日本独特の簡易分析法「JISA1481-2」で石綿の有無を調べる定性分析をしたところ、マインマグから石綿検出。国際標準の「JISA1481-4」と「JISA1481-5」で定量分析したが、「定量的に規制値に至っていないというような結論が出た」

(3)厚労省も同社が用いた方法で検証した結果、同じ結論が出た ──となる。

まず(1)だが、同社の説明に対し、厚労省がその場では単に聞いていただけということはごくあり得る行政対応である。仮に異論を唱えなかったとしても、必ずしも同省がノザワの主張を鵜呑みにしていると判断はできないし、安衛法違反疑惑の捜査が終了したとも限らないだろう。同社が都合良く解釈しただけにすぎないのではないか。

次に(2)である。国際標準の「JISA1481-1」と日本独特の簡易分析法「JISA1481-2」のいずれの定性分析法でも石綿含有との結果が同社の検証においても出ていたことは重大だ。マインマグの石綿含有が同社による検証でも裏付けられたことになる。

それに続く、「定量的に規制値に至っていないというような結論が出た」との言い方も重要だ。「規制値に至っていない」のではなく、「結論が出た」としていることがポイントである。 実際に基準超との分析結果が出ていないのであれば、「すべて基準値以下だった」と明記するはずだ。そうではないということは、同社による定量分析でも実際には軒並み基準超だったとしてもおかしくない。少なくとも基準超との分析結果もあったはずだ。 発表でも「基準である0.1%を超える石綿が含有されているとの事実は確認されない、との結論に至り」としている。基準超との「事実は確認されなかった」ではなく、基準超の「事実は確認されない」との「結論に至り」とわかりにくい説明になっているのも同様だ。

ではなぜ基準超ではないとの「結論」になるのだろうか。 建材などの石綿分析で使う「既存の検査方法ではその石綿の含有を正確に測定することができないことが分かり、分析結果が得られるまでに時間を要しました」と2023年12月に発表している部分が関係してくる。

「繊維状の(石綿とみられる)ものはあるんですけれども、実際には高温で焼成することによって、なんとなく形はあるんだけども石綿の組成ではないというようなものがあるという説明を受けている」との経産省証言から、焼成処理で無害化され、繊維状だが実際には「石綿の組成ではない」との解釈をノザワあるいは第三者の専門家が示し、その結果、基準内と主張するようになったことが推察される。

焼成により白石綿が別の鉱物(フォルステライト)になって無害化されていることを高倍率で繊維ごとの元素組成などを調べることのできる透過電子顕微鏡(TEM)で確認したとの主張だろう。焼成などの高温処理により白石綿が無害化され、フォルステライトに変異することは過去の研究でも報告されている。

たしかに無害化された石綿繊維もあるかもしれない。だが、本当にすべての石綿が無害化されているのだろうか。それをどこまで徹底的に調べた結果なのか。こうした当たり前の疑問について同社は一切明らかにしておらず、発表の信頼性は不明というほかない。

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最後に(3)だが、検証とまでいえるかは不明だが、厚労省委託で分析した形跡がある。 同省は2020年末にけい藻土バスマットなどから石綿が検出され、大きな問題になったことを受けて製品の買い取り試験を開始しており、その一環として分析させたと筆者は考えている。 実際に2023年8月に情報公開請求したところ、2023年2~3月に「肥料製品」2試料を同省の指示で分析させていた。製造メーカー名や製品名は黒塗りされていて判別できないが、筆者が報じた1~2カ月後というタイミングからもまず間違いなくマインマグだろう。

分析結果も黒塗りされているが、国際標準の分析法で調べた報告書をみると、2試料とも「JISA1481-1」で定性分析した後に、「JISA1481-4」で定量分析をしている。この分析法では、定性分析で石綿が検出された場合にだけ定量分析することになっていることから、いずれの試料からも石綿が検出されていることは間違いない。

またおそらく黒塗り作業の不備だろうが、定性・定量分析結果として「クリソタイル」、つまり白石綿が検出されていることがわかる箇所もあった。定量分析の結果(含有率)は黒塗りされていて判別できなかった。 問題は定量分析の結果である。すでに述べたように黒塗りのためはっきりしないが、少なくとも国際標準の分析法では筆者依頼の分析結果と同様に定量でも基準超の石綿が検出されていてもおかしくない。黒塗りされた内容をみれば、ノザワの主張の一端がつかめる可能性があるが、現在、製品名や分析結果などの開示を求めて審査請求中である。現段階では、マインマグの分析結果だろうことは筆者の推測にすぎず、確定していない。

同社と「同じ結論」かどうかは不明だが、国の分析でも石綿の有無を調べる定性分析では白石綿が検出されている可能性がありそうだ。 ちなみに同省は2023年度にも買い取り検査を実施しており、そこで同社と同じようにTEMによる分析をしている可能性がある。こちらは報告書がまだ提出されていないとして開示対象にならなかった。審査請求の結果とあわせて入手したい。

この間の取材で明らかになったのは、ノザワはマインマグの購入者や利用者に対しては、あいまいな記載の「お知らせ」で石綿含有の有無すら明らかにしていない一方、国に対しては詳細に説明しているとみられることだ。こうした同社の“二枚舌”ぶりは不誠実きわまりない。

そして石綿含有は経産省への説明から、より明確になったといえよう。仮に基準内だったとしても国際標準の定性分析法「JISA1481-1」で石綿含有だった以上、有害性は間違いない。にもかかわらず、発表ではそれがわかりやすく示されていない。

同社発表後、筆者に連絡してきたマインマグを使っていた農業従事者(44歳)は発表を読んでいたが、石綿含有はまったくないので安全だと誤解していた。説明したところ、驚いていた。 しかも同社が発表で詫びたのは「分析結果が得られるまでに時間を要した」ことだけ。同社の製品を購入・利用した結果、石綿ばく露したであろう農業従事者らに対しては一切謝罪していない。 「ノザワの説明は誠意がない」と前出の農業従事者は憤慨していた。

同社は検出されている石綿が無害化され、繊維状だが実際には「石綿の組成ではない」との解釈により、基準超ではないと主張しているようだが、本当に徹底した実証があるのか。国際的に認められた定性・定量分析法で間違いなく石綿と判定されているものに対し、無害化されたものだと主張している以上、同社には検証報告書を公表し、丁寧に説明する義務があるはずだ。現状では裏付けも示さず、都合の良い主張をしている不誠実な会社にしかみえない。

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