<ウクライナ>戦う女性たち「故郷守る」と防衛隊に (写真17枚)

ロシア軍との戦闘を想定した訓練を受ける市民防衛隊(オデーサ・玉本撮影)

◆ロシア軍との戦闘も想定、防衛隊の訓練現場

ウクライナ各地で続く戦闘。ロシア軍の侵攻後、市民防衛隊が編成され、そのなかには女性も加わっている。防衛隊の女性たちや、元ウクライナ軍狙撃兵として戦った女性を昨夏、オデーサで取材した。(玉本英子・アジアプレス)

英国人義勇兵(右)の教官から訓練を受ける防衛隊。ロシア軍はどんな爆破物のトラップを仕掛けるかのビデオ講習を受け、実際の訓練に臨んだ。(2022年7月・オデーサ・撮影:玉本英子)

敵が潜伏する想定で、突入訓練をする市民防衛隊。部屋を制圧し、敵や不審物がないと確認できると、チースタ!(=クリア!)と声を上げていく。(2022年7月・オデーサ・撮影:坂本卓)

昨夏、ウクライナ南部オデーサ市内の工場地帯。戦闘服姿で訓練を受ける市民防衛隊の姿があった。 「それじゃダメだ! 敵に撃たれちまうぞ!」 教官が声を荒らげる。

前方の敵を確認し、制圧しながら進むクリアリングの訓練。カッティングパイやクイックピークなどの基本動作を習得。(2022年7月・オデーサ・撮影:坂本卓)

廃虚ビルにロシア兵が潜んでいるとの想定で、小銃タイプのエアガンを手にチームが突入し、制圧を目指す。屋内の階段を駆け上がる防衛隊に向けて、教官が模擬の手榴弾を次々に投げ込む。爆発音と煙のなか、ガス圧を強化したエアガンの弾が飛び交った。

この日の訓練では、エアソフトガンが使われた。突入する隊員に向け、教官が模擬の手榴弾を次々と投げ込む。炸裂音と煙のなかを進む。(2022年7月・オデーサ・撮影:坂本卓)

◆「自分が銃を持つなんて」

この日参加したのは、20~50代の男女で、学生や会社員、主婦らだ。数カ月にわたる訓練を続けてきた。 建築士の女性、マリアさん(30)は、ロシア軍の攻撃で友人を亡くしたことから、防衛隊に志願。実銃を撃つ訓練を重ねた。 「自分が銃を持つなんて思いもしなかった。でも故郷を守るためには必要と感じています」

建築士のマリアさんは、ロシア軍の攻撃で友人を亡くしたことから市民防衛隊に志願。「自分が銃を持つなんて思いもしなかった。でも故郷を守るためには必要」と話す。(2022年7月・オデーサ・撮影:玉本英子)

侵攻が始まって以降、各地で市民防衛隊が編成された。自発的な市民からなり、要請があれば、検問やパトロールも担う。 ビクトリアさん(52)の職業は服飾デザイナー。2カ月前に防衛隊に登録した。黒海沿いの美しい浜辺で泳ぐのが毎年の楽しみだったが、いまはそこに飛んでくるミサイルに怯えなければならないと憤る。 侵攻が始まり、毎日、市民の命が奪われるなか、意識が変わったという。 「私はもう『平和な市民』でいることはできなくなった」 ミサイルや砲撃による民間人の犠牲は絶えない。ロシア軍が再び攻勢に転じれば、近隣都市への進撃もありうる。どの隊員の表情にも切迫感があった。

ビクトリアさんは服飾デザイナー。侵攻が始まり、市民の犠牲が絶えないなか、「私はもう『平和な市民』でいることはできなくなった」と話した。(2022年7月・オデーサ・撮影:玉本英子)

市民防衛隊の訓練は、定期的に実施される。数日にわたる泊りがけの訓練もあり、実弾演習のほか、救護活動なども学ぶ。(2022年7月・オデーサ・撮影:玉本英子)

訓練用のエアガンを準備する英国人義勇兵の教官。圧力と発射速度を調整して威力アップしているとのことだった。BB弾で負傷して出血する隊員もいた。(2022年7月・オデーサ・撮影:玉本英子)

◆元英軍特殊部隊員の義勇兵が教官

教官のひとりは、義勇兵としてウクライナ入りした30代の英国人。元英軍特殊部隊の経験を見込まれ、戦闘教練の教官となった。 「ウクライナ兵も含めて100人以上を訓練したが、女性の方が士気は高い。銃器の扱いなど積極的に質問してくる」

元英軍特殊部隊所属の英国人義勇兵。ロシア軍のウクライナ侵攻後、すぐに義勇兵に志願し、ウクライナ入り。前線部隊で戦い、その後、ウクライナ軍と市民防衛隊の教官に。ウクライナが勝利するまでとどまると話した。(2022年7月・オデーサ・撮影:玉本英子)

英国人義勇兵の教官が、ロシア軍はどんな仕掛け爆弾を使い、どこに設置するのかを説明していた。(2022年7月・オデーサ・撮影:坂本卓)

隊員間の役割分担と屋内行動での導線について、教官が指導。「それじゃダメだ! 敵に撃たれちまうぞ!」 と、ときに教官の厳しい声が飛んだ。(2022年7月・オデーサ・撮影:坂本卓)

◆ドンバス戦線で負傷の元ウクライナ軍狙撃兵

ウクライナ軍では、女性兵士の割合は2割におよぶ。ベロニカ・バトリさん(33)は6年前に陸軍に入隊し、狙撃兵となった。 東部ドンバス地域の親ロシア派勢力と対峙する戦線で戦った。作戦中、仕掛け爆弾で右足に重傷を負い、除隊。今回の侵攻で戦列に加われないのを悔やんだ。

ロシア軍の侵攻後、ウクライナ軍や治安部隊を称える看板が目立つようになった。写真はウクライナ保安局のもので、男女の隊員が並び、「ウクライナをともに守る」とある。(2022年7月・オデーサ・撮影:玉本英子)

元ウクライナ軍狙撃兵のベロニカさんは大学卒業後、陸軍に入隊。東部ドンバスでの作戦中、仕掛け爆弾で右足に重傷を負った。(2022年7月・オデーサ・撮影:玉本英子)

ベロニカさんは、ロシア軍の侵攻についてこう話す。 「私たちにとって、この戦争は2014年のクリミア占領から続いているのです。さかのぼれば、300年以上も繰り返されてきたロシアによる支配の目論見の延長です。戦わずに降伏すれば、苦しみは百倍以上になって降りかかる」

ウクライナ軍兵士だった頃のベロニカさん。東部ドンバスで戦った。(写真:本人提供)

◆「祖国に尽くした傷」

故郷を守るため、愛する者のために戦闘の最前線に立つ女たちの姿は勇敢で、凛々しく映るだろう。 私はこれまで各地の戦場で銃を手に戦う女性たちを取材してきた。クルド組織のゲリラ兵やシリア北部で過激派組織イスラム国(IS)と戦った部隊。 生死の修羅場をくぐり抜けてきた女性ほど、男の兵士以上に顔つきが険しく、切り裂くような鋭い目だった。 それはたくさんの死を見てきた目であり、人を殺すことをいとわなくなった人間の目でもあった。恐怖の記憶がよみがえり、苦しむ女性も少なくない。

負傷後、ベロニカさんは除隊。軍で同僚だった兵士たちは今回のロシア軍の侵攻であいついで戦死。苦しい心情を吐露した。写真は除隊前のベロニカさん。(写真:本人提供)

足の負傷で松葉杖の生活になったベロニカさんは、公園のベンチに座り、静かに言った。 「祖国に尽くした傷だから、これも名誉」 そして、夕日で赤く染まった空をゆっくりと見上げた。 いつ終わるとも分からない戦争。ウクライナは、ロシア軍の侵攻からまもなく1年を迎えようとしている。

兵士としてドンバス戦線での作戦中に足を負傷し、松葉杖の生活になったベロニカさん。「いまでも後悔はない」という。(2022年7月・オデーサ・撮影:玉本英子)

市民防衛隊を取材したウクライナ南部オデーサ。ロシア軍が侵攻した昨年2月は、オデーサでも市内への侵攻を想定して、臨戦態勢だった。地図は、取材時の昨夏時点の状況。(地図作成:アジアプレス)

(※本稿は毎日新聞大阪版の連載「漆黒を照らす」2023年1月17日付記事に加筆したものです)

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