三宅唱監督新作『夜明けのすべて』 初登場4位の快挙が持つ意義

2月第2週の動員ランキングは、『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』が週末3日間で動員24万7000人、興収4億4900万円をあげ、大差をつけて『ワールドツアー上映「鬼滅の刃」絆の奇跡、そして柱稽古へ』から首位を奪還した。累計成績は、祝日となった2月12日までに動員163万5000人、興収26億8400万円を突破。1982年に公開されたファーストガンダム3部作の完結編『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』(小学生の頃、自分も劇場に並びました)を超えて、歴代ガンダムシリーズ劇場公開作の最高興収を更新した。

今週注目したいのは、4位に初登場した三宅唱監督の『夜明けのすべて』。非大手のバンダイナムコフィルムワークスとアスミック・エースの配給による全国約200スクリーンという中規模の公開で、上映回数も決して多くないにもかかわらず、祝日を含むオープニング4日間の成績は動員13万800人、興収1億8600万円。作品の評判も極めて高く、ウィークデイに入ってからも高推移をキープしている。

三宅唱監督にとって『夜明けのすべて』は、2022年12月に公開されて多くの映画賞を獲得した『ケイコ 目を澄ませて』に続く作品。主演に松村北斗と上白石萌音を迎えた今作は、これまでの監督作では最も大きな製作規模となるが、それでもメジャー系作品と比べたらこじんまりとしたもの。題材もパニック障害やPMSの症状を抱える20代の社会人という一見地味なもので、ラブストーリーとしてのカタルシスのある展開や、難病もののようなドラマティックな展開や、タイムトラベルもののようなトリッキーな展開があるわけでもない。キャストの知名度や信頼の力もあるとはいえ、そのような作品でここまでの好成績を出せることを証明したことは、今後の実写日本映画にとって大きな希望となるだろう。

もっとも、三宅唱のような世界水準の作品を作っている映画監督が、現在の日本映画界において他にどれだけいるのかという話でもある。そして、敢えて具体名を挙げるが、三宅唱だけでなく、継続的に海外で高い評価をされている是枝裕和や濱口竜介のような監督にとって、いわゆる商業映画の枠組であったり、日本国内の映画マーケットというのは、自作を作る上での最優先事項であるとは限らない。言うまでもなく、映画にとって興行成績は一つの目安に過ぎないし、特にこれまでの活動で国内外で信頼やコネクションを築き、次作や次々作を制作する機会が約束されているような映画作家にとっては、自身の作家性を犠牲にして目先の数字を取りに行く必要はない。だからこそ、今回『夜明けのすべて』がもたらしたような作品と観客の幸福な出会いは、とても重要な出来事なのだ。

(文=宇野維正)

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