80歳 多良久美子さんの「先のことを思いわずらわない」生き方とは?眠りにつくときのコツ

気がかりや心配事を抱えたまま、日々を過ごしている人は少なくないと思います。80歳の多良久美子さんは、苦労の連続、決して「安泰な老後」といえないなかでも笑顔を失いません。話題の新刊『80歳。いよいよこれから私の人生』から、前向きに生きるコツを紹介しましょう。多良久美子さんの姉は、12万部のベストセラー『87歳、古い団地で愉しむ ひとりの暮らし』の多良美智子さんです。

プロフィール
多良久美子さん
(たら・くみこ)
昭和17年(1942年)長崎県生まれ。8人きょうだいの末っ子。戦死した長兄以外はみな姉妹。2歳のときに被爆。翌年母を癌で亡くし、父と姉たちに育てられる。
高校生のときに父の会社が倒産し、進学を断念。24歳で結婚後、4歳で麻疹により最重度知的障がいとなった息子を育てる。娘は早逝。80歳を前に、長く携わってきた社協の仕事を引退、「障がい児・者の親の会」は相談役に。「これからは私の時間!」と、これまで忙しい日々で細切れにしかできなかった趣味の織物やピアノに、どっぷりつかる日々。料理やインテリアなど「家時間」を楽しむのが好き。姉は、12万部のベストセラー『87歳、古い団地で愉しむ ひとりの暮らし』(すばる舎)の多良美智子さん。

先のことを思いわずらわない。 今日1日乗り切るのを毎日くり返して

元々、私は引っ込み思案な子どもでした。学校の通信簿では、「答えがわかっていても手をあげない」と毎年のように書かれていました。

しっかり者の姉たちの後ろに隠れて生きていました。何かあれば姉たちが守ってくれますから、甘ったれでもありました。

そんな私ですが、息子が障がい児となったことで強くならざるを得なくなりました。
どう自分を前向きな態勢にしていくか。私がつぶれたら、家族がばらばらになってしまいます。落ち込んではいられません。

もちろん、悩みや不安は湧いてきますが、それに飲み込まれないように意識してきました。

「どうしよう」ではなく「どうしたら良くなる?」と考えるクセをつけました。それは息子の養護学校で、教えられた視点でもありました。

ああでもないこうでもないと悩む代わりに、自分に何ができるか。どんなことをすれば、少しでも良い方向に進めるか......。そう考えるのは、前を向いているということで、活力になります。

大事なのは、前向きな気分で眠りにつくことだと思っています。
悩みや不安が大きくて、なかなか眠れないときもありました。けれども、だんだん経験的に気づいてきたのです。

今ここであれこれ考えたところで、答えが出るわけじゃない。それに夜、頭が疲れているときに考えても、良いアイデアは浮かばないもの。だったら寝よう。睡眠は大事。貴重な睡眠時間を削っている場合ではない、と......。

気がかりなことがあっても、寝る前には「明日はこうしよう」と考えるようにしています。すると、気分も前向きになり、心地良く眠ることができる。そして、翌朝目覚めたときも、前向きに1日のスタートを切れる。

そんなことを毎日くり返して、ここまで来ました。

1日1日を乗り切るのに精一杯でしたから、あまり先のことは考えません。まずは今日を。あとは明日、明後日くらいまで。カレンダーも、せいぜい2ヵ月先までしか予定が入っていません。

社協の仕事で高齢者の生活サポートをしていましたが、お年寄りはみな「将来を心配する病気」にかかっているな、と思いました。訪問するたびに、「これからどうなるんだろう?」と言われます。

そんなときは「明日、楽しいことを1つやろうと思ったら、どうですか?」と提案しました。そして、「次回来るときまで元気でいてくださいね」と別れます。次回訪問したとき、まずは「元気でしたか?」と言いました。

どうなるかわからない先々のことを考えても、答えは出ません。不安が大きくなるばかり。それよりも、今日・明日にできること、「1ヵ月後(1週間後)まで元気でいよう」と、近い将来のことだけ考える。それが前向きに生きるコツかなと思います。

撮影/林ひろし

※この記事は『80歳。いよいよこれから私の人生』多良久美子著(すばる舎)の内容をWeb掲載のため再編集しています。


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