「ゾンビ企業」の市場への悪影響、36.2%が「感じる」 各種支援の是非の判断は慎重さが必要

~ 「ゾンビ企業」に関するアンケート調査 ~

いわゆる「ゾンビ企業」が市場環境を歪めていると感じる企業は36.2%で、3社に1社にのぼることがわかった。日本の名目GDPが世界4位に転落し、企業の生産性や稼ぐ力の向上が再びテーマに上がることが必至な状況下で、企業向け支援のあり方にも一石を投じそうだ。

東京商工リサーチは、財務面の定義ではなく、一般的なイメージで語られる「ゾンビ企業」(不健全な経営にもかかわらず融資や補助・助成金によって市場からの退場を免れている企業)について、2月1~8日にアンケート調査を実施した。それによると、市場環境を歪めていると感じている企業は36.2%にのぼった。理由のトップでは、「ゾンビ企業が不当に安い単価で受注(販売)し、適正利益が取りにくい」の79.4%だった。
「適正利益を取りにくい」と回答した企業の産業別では、不動産業は55.1%と半数にとどまったが、「2024年問題」に直面する運輸業は95.3%、建設業は85.1%と高率に達した。産業ごとに企業支援のボリュームや取引先との深化が異なることなどが背景にあるとみられる。
また、「ゾンビ企業が業容よりも過大に人材を抱え、業界内の採用難に拍車をかけている」は24.8%だった。情報通信業は48.3%に達し、成長途上の産業でも、新陳代謝のメカニズムが企業が考えるほど機能していない構図を浮き彫りにした。
※本調査は、2024年2月1日~8日に、インターネットによるアンケート調査を実施し、有効回答4,584社を集計・分析した。
※資本金1億円以上を大企業、1億円未満(個人企業等を含む)を中小企業と定義した。


Q1.健全な経営状態ではないにもかかわらず、融資や補助・助成金などにより倒産や廃業を免れている企業を「ゾンビ企業」と呼ぶことがあります。こうしたゾンビ企業により、貴社業界の市場環境が歪められていると感じることはありますか?(択一回答)

「感じる」が36.2%
ゾンビ企業の自社業界への悪影響について聞いた。「感じる」は36.2%(4,152社中、1,503社)、「感じない」は63.8%(2,649社)だった。
各回答を業種別で分析した(中分類、回答母数10以上)。
「感じる」では、「政治・経済・文化団体」の69.5%(23社中、16社)が最も多く、次いで「倉庫業」の66.6%(12社中、8社)だった。
「感じない」では、「協同組合」の87.5%(24社中、21社)が最も多かった。次いで、「電気機械器具製造業」の78.4%(93社中、73社)だった。

Q2.Q1で「感じる」と回答された方に伺います。どのような点で市場環境が歪められていると感じますか?(複数回答)

「適正利益が取りにくい」がトップ
Q1で「感じる」と回答した企業に、その理由を聞いた。
トップは「ゾンビ企業が不当に安い単価で受注(販売)し、適正利益が取りにくい」の79.4%(1,217社中、967社)で、次いで「ゾンビ企業が業容よりも過大に人材を抱え、業界内の採用難に拍車をかけている」の24.8%(302社)だった。「ゾンビ企業の幹部が業界団体で幅を利かせている」も15.5%(189社)にのぼる。
「その他」では、「偽りのPR資料により顧客を騙している」(産業機械器具卸売業、資本金1億円未満)、「自社の補助金採択率が下がる」(半導体素子製造業、資本金1億円未満)、「結果的に倒産して工事中のお客様が困っている」(木造建築工事、資本金1億円未満)など。
各回答を産業別で分析すると、「適正利益が取りにくい」は、「不動産業」が55.1%と低位だったのに対し、「運輸業」では95.3%にのぼった。
また、「業界団体で幅を利かせている」は、「農・林・漁・鉱業」では33.3%だった。

Q3.貴社は、融資や補助・助成金などがなければ、事業の継続が難しい状況にあると感じますか?(択一回答)

「感じる」は31.2%

融資や補助・助成金への依存について聞いた。これらがないと事業の継続が難しい状況であると「非常に感じる」との回答は10.7%(4,584社中、491社)だった。「少し感じる」の20.5%(943社)を含めると、合計31.2%の企業が融資や資金的支援がないと存続が難しいと回答した。
規模別では、大企業で「感じる」は18.4%(439社中、81社)なのに対し、中小企業では32.6%(4,145社中、1,353社)だった。
各回答を業種別で分析(中分類、回答母数10以上)すると、「感じる」のトップは「社会保険・社会福祉・介護事業」の68.1%(22社中、15社)、「感じない」(全く感じない+あまり感じない)では「保険業」の100.0%(12社中、12社)が最も多かった。


人口減少や賃上げ、海外企業の台頭などを背景に、生産性や稼ぐ力の向上が注目されている。こうした議論の際、「ゾンビ企業」には厳しい視線が向けられがちになる。ただ、ゾンビ企業の定義は様々で、ひとつの基準でゾンビ企業を切って捨てたり、支援の是非を問うことは難しい。
今回の調査では、Q1で「健全な経営状態ではないにもかかわらず、融資や補助・助成金などにより倒産や廃業を免れている企業」と定義した上で、自社が属する業界に「ゾンビ企業」の影響を聞いた。この結果、36.2%の企業が市場環境を歪めていると「感じる」と回答した。
一方、Q3で自社の状況について、ゾンビ企業との単語は出さずに「融資や補助・助成金などがなければ、事業の継続が難しい状況」とだけ提示して実感を聞いた。継続が難しいと「感じる」との回答は31.2%だった。両者の差は5ポイントにとどまるが、「感じる」と回答した業種は異なる。Q3では、「社会保険・社会福祉・介護事業」や「洗濯・理容・美容・浴場業」など、公定価格や物価統制の影響を受けやすい業種が上位に並ぶ。各種支援を受けながら健全性を指向するのも経営のあり方のひとつだ。
政策的に産業や企業を支援してきた背景には、それぞれ理由がある。利益率や財務内容が見劣りしたり、資金的に自立(自律)出来ていないだけで、ゾンビ企業と安易に批判はできない。
一方、今回のアンケートでは「全体から吸い上げて補助・助成金を配分するのではなく、吸い上げる税金を少なくするべき」(電気機械器具卸売、資本金1億円未満)との意見も寄せられた。市場原理にどこまで介入するのが全体最適となるのか、「ゾンビ企業論」は社会のあり方も問いかけている。

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