妻の「衝撃の告白」を機に一家離散…「全ては後の祭り」4LDKに1人で暮らす夫の悲痛

<前編のあらすじ>

専業主婦だった妻が一変したのは、10年ほど前に母方の伯母から6000万円以上の遺産を相続したことがきっかけでした。

それまでは子育てや家計のやりくりに精いっぱいで、とても自分のことまで手が回らないようでしたが、「伯母さんがせっかく私に残してくれたお金なんだから、これは自分のため使うつもり」と宣言した後は都心の美容院やエステに通い始めて見違えるほど若々しくなり、外食や旅行を楽しんだり、習い事を始めたりと人生を謳歌(おうか)しているように見えました。

●前編:【遺産相続で人生が一変。“普通の主婦”が突然「6000万円」を手にした結果…】

妻がハマってしまった贅沢ざんまいの日々

お茶の教室で知り合ったという業界関係者のグループと付き合い始めると、家ではジャージでいることも多かった妻が、ブランド品の服やバッグを身に着けるようになりました。ミシュランガイドの三ツ星レストランでヴィンテージワインを飲んだとか、歌舞伎座の桟敷席に行ったとか、妻の話題に家族が着いていけないこともしばしばでした。

妻のあまりの変わりように正直私や子どもたちも戸惑いましたが、「お母さんはこれまで頑張ってくれたのだから、自分のお金で好きな暮らしをするくらいはよしとしよう」という気持ちでいたのです。

ですから、1年前に妻から「伯母さんの遺産が底を突いて銀行のカードローンが300万円、さらに、クレジットカードのリボルビング払いの残高も200万円を超えている」と聞かされた時は驚愕(きょうがく)しました。

6000万円以上あった遺産を10年足らずで使い切るなど、平凡なサラリーマンの私には想像もできません。しかも、500万円を超える借金をしてまで、贅沢ざんまいの生活が止められないと言うのです。

思わず、「ふざけるな!」と妻を罵倒していました。この10年間無我夢中で働いてきた自分が、あまりにみじめに思えたからです。

仕事で余裕のない時期での出来事

私の勤務先はいわゆる斜陽産業の小さな機械メーカーでした。右肩下がりの業績を何とかしようと10年前には創業社長が退き、コンサルティング会社に勤務していた2代目が跡を継いだのですが、業界に疎く専門分野の知識もあまりない2代目は経費削減やリストラくらいしか手を打てず、社内の雰囲気は悪くなる一方でした。

創業時からのベテラン社員が次々と去り、給料が下がっているのに一人ひとりの業務負担は重くなる中で、中間管理職の私たちは会社だけは絶対につぶしてはならないと必死でした。しかし、コロナ禍の経済活動の制限がとどめとなり、とうとう元受けの会社に吸収されることになりました。

不幸中の幸いで極限まで減らされていた人員がこれ以上カットされることはありませんでしたが、給料や退職金の水準は元受けの規定で大きく引き下げられました。

そういう状況ですから、この10年間を振り返ると私自身も仕事で手一杯で、正直、家庭や妻のことを振り返る余裕などほとんどありませんでした。妻や子どもたちのために頑張っているんだと、自分をごまかしてきたのです。

今思えば、そんな私が偉そうなことを言える筋合いではないのですが、私は1年前のあの日、「妻失格」「母親失格」「依存症ではないのか」と妻を傷つけるような発言を連発し、妻は家を出ていきました。

後始末に追われて募る妻への怒り

心配した長女が妻と連絡を取り、妻が神奈川の実家に身を寄せていることを教えてくれましたが、私が妻に直接連絡することはありませんでした。

金融トラブルの相談窓口に問い合わせ、定期預金を解約してカードローンの返済に充て、リボルビング払いの残高を一括返済するなど妻の失態の後始末に追われ、むしろ、私の中では妻への怒りを募らせていたのです。

妻に同情的な長女からは「お父さんは冷たい」と責められ、中立的な立場の長男からも「お父さんもお母さんもいい年なんだから、いい加減止めてくれる?」と苦言を呈されました。しかし、私の方から妻に歩み寄る気持ちにはなれませんでした。

別居から3カ月で離婚へ

3カ月後、妻の両親がわが家にやって来て、私が返済した500万円と、妻が署名・押印した離婚届を置いていきました。妻は精神的に不安定で、心療内科に通っているとのことでした。

子どもたちと話をした上で、離婚届を提出しました。長男は無言でしたが、長女には「本当にそれでいいの?」と何度も詰問されました。しばらくして長男の地方支社への赴任が決まると、長女は「お父さんと2人だと息苦しい」と言って家を出ていきました。

そういうわけで、家族のために購入した4LDKのマンションに今は1人で暮らしています。4人での生活が長かったせいか、堅牢なマンションなのに隙間風が吹いているような寒々とした毎日です。

2年後には定年を迎えますが、家のローンはまだ1000万円以上残っています。世の中では株価が上がって2年連続の大幅賃上げへの期待が高まり、職場でも若手社員が新NISA(少額投資非課税制度)の話で盛り上がっていますが、私自身は経済的にも精神的にも、とてもそんな余裕はありません。

お金はないと困窮する一方で、ありすぎても人の心を容易に狂わせてしまう恐ろしい存在だと妻の1件で痛感しました。いまさらながら、妻がそばにいてくれたら、あの6000万円が残っていたらと思わないでもありませんが、全ては後の祭りです。

※個人が特定されないよう事例を一部変更、再構成しています。

森田 聡子/金融ライター/編集者

日経ホーム出版社、日経BP社にて『日経おとなのOFF』編集長、『日経マネー』副編集長、『日経ビジネス』副編集長などを歴任。2019年に独立後は雑誌やウェブサイトなどで、幅広い年代層のマネー初心者に、投資・税金・保険などの話をやさしく、分かりやすく伝えることをモットーに活動している。


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