新NISAで「オールカントリー」に投資―“一般的な投資信託”とは異なる、意外に知られていない方法とは

本連載ではこれまで「オールカントリー」こと「MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(ACWI)」に連動する商品についてさまざまな角度から取り上げてきた。その代表格であり、今や国内最大の残高を誇る「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」が、2024年1月に歴史的な資金流入を記録したことが話題となった。

実は、同ファンドを含む、「オールカントリー」インデックスファンドが日本の投資信託市場に登場したのは2017~2018年と、意外と遅い。にもかかわらず、ACWIをベンチマークに掲げたインデックスファンド計13本の合計残高は2024年1月末時点で約2.4兆円と、早くも日経平均株価(日経225)がベンチマークのインデックスファンド(77本)と同水準まで積み上がっている。

筆者の同ファンドに対する見解は一貫して、「『万能』ではなく、欠点もある。あくまでも万人受けする『無難』な商品」というものである。他のインデックスファンドと同様、コストを抑えながら効率的に分散投資ができるため、長期積立を前提とした資産形成において使い勝手が良いことは確かだ。

しかし、過去にも本連載で言及した通り※、近年の歴史的な円安進行によって運用成績が大きく押し上げられているという事実は粛々と受け止めるべきで、特に過去3年の成績は「追い風参考記録」程度に考えておいた方が良い。くれぐれも昨年、一昨年と同じようなリターンを得られないからといって、早々に積み立てを止めてしまうことのないようにしてほしい。

※編集部注:2023年12月公開【「新NISAはオルカン1本でOK」はホント? 向いている人・向いていない人の決定的な違いとは】ご参照

新NISA×オールカントリー投資のもう1つの選択肢、海外ETF

一方で、為替変動に一喜一憂することなく、新NISAで「オールカントリー」を保有する方法もある。成長投資枠の対象商品となっている海外ETFである。

海外ETFの解説に入る前に、まずは、新NISAで対象となった、ETF(上場投資信託)について説明しておこう。

ETFは一般的な投資信託のように、さまざまな投資対象資産をパッケージ化し、ファンドという形態で運用を行う点では共通しているが、その名称の通り、証券取引所に上場しているというところに大きな違いがある。

上場しているので、株式市場の立会時間中であれば、いつでもリアルタイムの価格で売買ができる。これこそが、ETFの最大の特徴であり魅力でもある。また、価格が下落したタイミングで買い注文を入れたり、反対に上昇したタイミングで売り注文を入れたりといった機動的な取引ができるほか、自分が買いたい(売りたい)価格をあらかじめ指定して発注する「指値注文」も可能だ。

ETFには、日本の法令に基づいて日本で組成され、日本国内の証券取引所に上場している「国内籍ETF」と、外国の法令に基づいて外国で組成された「外国籍ETF」がある。証券会社では一般的に、国内籍ETFのことを「国内ETF」、外国籍ETFのことを「海外ETF」と呼ぶことが多くなっている。

国内ETFはすべて日本の取引所に上場しているため円建てで、一般的な投資信託と同様、海外資産に投資していても、円換算で評価がなされる。対して海外ETFは、外国の取引所に上場している銘柄と、本数は少ないが、日本の取引所に上場している銘柄もある。日本の取引所に上場している海外ETFは、日本円で取引を行い、外国の取引所に上場している銘柄は、現地通貨で取引を行う。米国の法令に基づいて組成され、米国の取引所に上場する米国ETFは、米ドル建てで取引を行うことになる。

近年は、米国株人気の高まりとともに、海外ETFの一種である米国ETFの認知度も高まってきた。実は「オールカントリー」も、2008年設定の「iシェアーズ MSCI ACWI ETF」が“元祖”で、日本の証券会社でも取引ができる。なお、同ETFのティッカーシンボル(銘柄の識別コード)は「ACWI」である。

海外ETFなら、円への交換を自分のタイミングで行えるメリットも

一般的な投資信託は、良くも悪くも円換算というフィルターがかかるため、円安(ドル高)のときはプラスの、円高(ドル安)のときはマイナスの影響が出るが、米国ETFなら強制的に円換算されることなく、常にドル建てで資産が評価される。保有する米国ETFを売却しても、原則はドルのまま売却代金を受け取れるので、円資産が必要になるまでドルで保有し、自分が良いと思ったタイミングで円に交換できる(証券会社によっては、米国ETFの購入時と売却時ともに「円貨決済」を選択することで米ドル⇔日本円の両替を代行してもらうことが可能。ただし、所定の為替手数料がかかる)。

以上をまとめると、日本円に交換するタイミングを自分で見極めたいという人、資産の一部をドルのまま保有し続けたいという人は、「オールカントリー」に限らず、海外ETFを選択肢に入れてもよいだろう。ただし、ETFは成長投資枠で保有するという前提で非課税枠を管理してほしい。というのも、1日に1回公表される基準価額で取引を行う投資信託の方が、積み立てとの相性は良いためだ。実際に、つみたて投資枠の対象ETFは、投資信託と比べて極めて数が少なく、「新NISAの対象ETF」というと、事実上、成長投資枠の対象商品を指すこととなる。こうした特性を考慮に入れると、ETF全般は、成長投資枠で活用することをおすすめしたい。

かつてはコスト面で圧倒的な優位性があったため、「低コスト商品」と一括りにして語られがちなETFだが、実際にはさまざまな活用方法がある。特に近年は、投資信託の信託報酬も低下傾向にあり、表面的なコスト水準だけでETFと投資信託を比べることが難しくなっている。それぞれの特徴を把握した上で、ニーズに合わせ、両者を使い分けてみることをおすすめしたい。

篠田 尚子/楽天証券資産づくり研究所 副所長 兼 ファンドアナリスト

慶應義塾大学卒業後、国内銀行を経て2006年ロイター・ジャパン入社。傘下の投資信託評価機関リッパーにて、投信業界の分析レポート執筆、評価分析などの業務に従事。2013年、楽天証券経済研究所入所。日本には数少ないファンドアナリストとして、評価分析業務の他、資産形成セミナーの講師も務めるなど投資教育にも積極的に取り組む。近著に『【2024年新制度対応版】NISA&iDeCo完全ガイド』(SBクリエイティブ)。


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