“2代目”ドンキーコング活躍の歴史と新展開への期待 リメイク版『マリオvs.ドンキーコング』発売を機に振り返る

2月16日より、『マリオvs.ドンキーコング』がNintendo Switch向けに販売開始となった。本作は2004年6月10日、ゲームボーイアドバンス向けに発売された同名タイトルのリメイク。キノコ王国で人気を博しているアクションフィギュア「ミニマリオ」欲しさに工場へと乗り込み、その製造分すべてを奪い去ったドンキーコングをマリオが追いかける、ステージクリア型パズルアクションゲームだ。

本作が初お披露目されたのは、2023年9月14日のオンライン配信番組「Nintendo Direct」。ちょうど2024年でオリジナルのゲームボーイアドバンス版発売から20年が経つタイミングのリメイクは、視聴者にはいろいろな意味で予想外に映ったと思われる。そもそも、オリジナル版の存在そのものを知らない人も、少なからずいたかもしれない。

少々厳しいことを書くと、オリジナル版の『マリオvs.ドンキーコング』はそこまで大きなヒットを飛ばした作品ではない。どちらかというと中規模のヒットを記録した、知る人ぞ知るタイトルである。

ただ、マリオシリーズおよび『ドンキーコング』シリーズ全体で見ると、本作は歴史的にも大きな転機となる重要な作品でもあった。2代目のドンキーコングとマリオの初対決が描かれたからである。

そもそも、現在のドンキーコングが2代目とはどういうことか? ドンキーコングが世代交代してから2024年で30年を迎えるこの機会に、その歴史を振り返ってみたい。

■初代ドンキーコングの復活と引退から新時代が始まった

ドンキーコングが現在の2代目に交代したのは、1994年のことだ。実のところ1994年は、『ドンキーコング』シリーズにおける重大な出来事が2つ起きた年でもあった。

ひとつは初代ドンキーコングの復活と引退。初代ドンキーコングとは、1981年のアーケード版『ドンキーコング』にてデビューを飾ったドンキーコングである。

初代ドンキーコングはアーケード版『ドンキーコング』でデビューを飾ったのち、『ドンキーコングJR.(ジュニア)』、『ドンキーコング3』といった続編、スピンオフ作品に出演。マリオのほか、スタンリーなる青年との対決を演じた。

しかし、1985年にファミリーコンピュータ(ファミコン)で発売された『スーパーマリオブラザーズ』の大ヒットでマリオが国内外で飛躍し、同作で新たなライバル「大魔王クッパ」が誕生して以降、ドンキーコングの出番は減少。あわせて『ドンキーコング』シリーズの新作も発売されなくなった。

久しぶりに動きがあったのは、1994年6月14日。ゲームボーイおよびその周辺機器『スーパーゲームボーイ』対応のシリーズ最新作『ドンキーコング』(以下、ゲームボーイ版)が発売されたのだ。同作において、初代ドンキーコングは息子の「ドンキーコングJR.(ジュニア)」(以下、ジュニア)と一緒にマリオとの対決を久しぶりに演じた。

ちなみにジュニアは、ゲームボーイ版に先んずる形で1992年8月27日、スーパーファミコン向けに発売された『スーパーマリオカート』にドライバーのひとり(一匹?)として参戦している。それから約2年後の1994年、父親もマリオのライバルとして復活した。

そんなゲームボーイ版は『ドンキーコング』10周年記念で、ドンキーコングを主役にしたゲームを作ろうという話が発端になったという。『任天堂公式ガイドブック ドンキーコング』(※小学館刊、現在絶版)の104ページ記載の開発スタッフインタビューにおいて、ゲームボーイ版のプロデューサーを務めた宮本茂氏が語っている。しかし、10周年当時は『スーパーマリオカート』にジュニアを出すことが限界で、結果として13周年記念という形のゲームボーイ版が生まれるに至ったようだ。

ゲームボーイ版はステージ0こそアーケード、ファミコンで発売された『ドンキーコング』のリメイクとなっている。しかし、ステージ1以降はパズル性の高いアクションゲームへとその様相をがらりと変え、アーケードでもファミコンでも見たことのない、新しいマリオとドンキーコングたちの追いかけっこが描かれた。

このゲームボーイ版こそ、後の『マリオvs.ドンキーコング』の原型である。ステージ内に置かれた「カギ」を持ち、それを出口の扉にまで運ぶという遊びから、「逆立ち」「バック宙返り」といったアクション、ステージ終盤のドンキーコングとの直接対決(ボス戦)はゲームボーイ版にて誕生したのだ。特にマリオのアクションは本家本元の『スーパーマリオブラザーズ』シリーズに限らず、ゲームボーイで展開されていた『スーパーマリオランド』シリーズを上回る多彩さで、一部は1996年6月23日発売の『スーパーマリオ64』にも採用されている。そのようなことから、ゲームボーイ版は『スーパーマリオ64』におけるマリオのアクションの基礎になった作品と言えなくもない。

ゲームボーイ版は収録ステージ総数も多く、その数なんと100。それもあってか、本編での初代ドンキーコングはそれまで出番がなかった鬱憤を晴らすかのように暴れまわった。とりわけ終盤のステージ9においては、バックに流れる音楽の勇ましさとシリアス感も相まって、ジュニア共々、まさに因縁の対決と言わんばかりの熱い展開が繰り広げられる。

最終的な勝敗は大体ご推察の通りになるのだが、久しぶりの出演ということもあり、初代ドンキーコングは申し分ない暴れっぷりと活躍を同作にて見せた。そして、ここからジュニアと同じく、マリオシリーズへの出演が始まるのかと思いきや、このゲームボーイ版を最後に現役から退くことになった。

その引退を決定付けたのが、2つ目の出来事。『スーパードンキーコング』の発売だ。

■世代交代から様々な経緯を経てのマリオとの共演。そして……

ゲームボーイ版の発売から約5ヶ月後、11月26日にスーパーファミコン向けに発売された『スーパードンキーコング』。同作は当時としては驚異的なグラフィックの美しさもさることながら、ドンキーコング自身が主人公(プレイヤーキャラクター)として活躍する内容が大きな特徴となっていた。前述の10周年記念として、ドンキーコングを主役にしたゲームを作るという企画が別の形で実現したタイトルでもあったのだ。そして、同作においては世界観とキャラクター設定面の大幅な一新も特徴のひとつになっている。

とりわけ大きかったのがドンキーコングだ。見た目はゲームボーイ版の初代ドンキーコングと似ているが、実際はその親戚。容姿が同じ新キャラクターだったのだ。

この設定は本作の説明書に記載されたオープニングストーリーのほか、キャラクター&アクション解説にも記されている。事前にゲームボーイ版を遊んでいた人ほど、この設定の一新には、結構驚いたと思うのだがいかがだろうか。

「ジャングルの王者、ゴリラの中のゴリラ、それがオレ様、ドンキーコング!でも、キミのお父さんの知ってるドンキーコングとは違うゾ!オレ様はゲームセンターに昔よくいたコングとは親戚だけど、まったく新しいキャラクターなんだ。ルックスも新しい。動きも新しい。そして、考え方も新しい」
(『スーパードンキーコング』取扱説明書12ページより引用)

かくいう初代ドンキーコングは「クランキーコング」に改名。その姿も長老という立場がこれ以上なく似合う姿になり、2代目とその相棒であるディディーコングを説教したり、時々アドバイスするキャラクターとしての出演になった。

以降、『ドンキーコング』の名を冠した作品では2代目が主人公および、シリーズ全体のシンボルとして活躍するように。このように30年前の1994年は、まさに『ドンキーコング』シリーズの一時代の終わりと新時代の始まりが同時に起こった年だったのだ。

そして、20年前の2004年もまた、2代目ドンキーコングとマリオの初対決を描いた作品『マリオvs.ドンキーコング』発売という、大きな出来事があった。そもそも、2代目ドンキーコングはデビュー当初、マリオとの共演がほとんどなかった。

なぜ共演がなかったのかは、「スーパードンキーコング」シリーズとマリオシリーズの関連性が当時は希薄だったこと、同シリーズの開発をイギリスのレア社が請け負い、オリジナルの世界観を作り上げていたのが大きい。厳密には関連性皆無というわけではなく、『スーパードンキーコング2 ディクシー&ディディー』にはマリオとヨッシーがゲスト出演しているほか、3作目の『スーパードンキーコング3 謎のクレミス島』には『スーパーマリオ64』のピーチ城のアレンジ楽曲が収録されている。クランキーコングが昔、マリオと戦った初代ドンキーコングであるという設定も関連性を指すひとつだ。

また、2代目ドンキーコングも1996年12月14日にNINTENDO64向けに発売された『マリオカート64』にて、マリオとの初共演を果たしている。以降もNINTENDO64向けに発売された『マリオパーティ』、『マリオテニス64』などのマリオシリーズ作品に出演したほか、『ニンテンドウオールスター!大乱闘スマッシュブラザーズ』ではファイターとして参戦している。反面、ディディーコングを始めとする新キャラクターたちの多くはレア社のオリジナルであったことから、なかなか活躍の場を持てなかった。

転機は2002年、任天堂がレア社の株をマイクロソフトへと売却し、その子会社になってからだ。その後、『スーパードンキーコング』で初登場したキャラクターたちの多くはマリオシリーズにも出演するようになって関連性が一層濃くなり、2003年9月5日発売の『マリオゴルフ ファミリーツアー』(ニンテンドーゲームキューブ)にてディディーコングがマリオシリーズ作品に初出演。同年11月7日発売の『マリオカート ダブルダッシュ!!』にも続くように出演し、2代目ドンキーコングとの共演を果たした。そして翌年の2004年、マリオと2代目ドンキーコングの本格的な共演作として『マリオvs.ドンキーコング』が誕生し、マリオとの直接対決が実現したのである。

このように歴史を遡ると、いかに『マリオvs.ドンキーコング』がシリーズ全体の歴史で見ても転機に当たる作品であるのかが分かるだろう。そのような作品のリメイクが20年後の2024年になって発売し、復活するのもある意味、運命的と言える。

■アニバーサリー尽くしの2024年。またも大きな転機が……?

なお、マリオと初対決を果たして以降の2代目ドンキーコングは、「スーパードンキーコング」シリーズの流れを汲まない新たな主演作で活躍。『マリオvs.ドンキーコング』も続編『マリオvs.ドンキーコング 2 ミニミニ大行進!』(ニンテンドーDS)が2007年4月12日に発売され、シリーズ化を遂げた。ほかにマリオシリーズへの出演も広がっていった。

しかし、結果的にマリオシリーズとの関連性が強まって以降、最も大きな成功を収めたのは、2010年12月9日にWii向けに発売された元来の主演作、「スーパードンキーコング」シリーズの正統続編『ドンキーコング リターンズ』。その成功から、2014年2月13日には続編『ドンキーコング トロピカルフリーズ』がWii U向けに発売され、久々にシリーズとしての動きを見せている。ちなみに『ドンキーコング トロピカルフリーズ』も、2024年で発売から10年の節目を迎えた。

逆に『マリオvs.ドンキーコング』は続編以降、自走する「ミニマリオ」たちを導きながらゴールを目指すパズル寄りのゲームになり、最初の『マリオvs.ドンキーコング』のようなアクション性を持った新作は出なくなってしまった。

この路線の新作は2015年3月19日発売の『マリオvs.ドンキーコング みんなでミニランド』(Wii U、ニンテンドー3DS)まで続いたが、その売上はマリオシリーズ、ドンキーコングシリーズ全体で見ても大変厳しいものになってしまい、以降、シリーズ展開は止まってしまっている(※『ドンキーコング』の名は冠していないが、2016年1月28日には関連作品として『ミニマリオ&フレンズ amiiboチャレンジ』がWii U、ニンテンドー3DS向けに配信されている)。

主演作、「スーパードンキーコング」シリーズも『ドンキーコング トロピカルフリーズ』を最後に10年以上、新展開がない。背景には『ドンキーコング リターンズ』以降、シリーズの開発を担ってきたレトロスタジオが『メトロイド プライム4』の開発に注力するようになってしまったことが影響していると推察される。

結果として、ここ10年のドンキーコングはマリオシリーズのキャラクターのひとりとしての出演が大半を占めてしまっている。2023年にも映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ ムービー』にて、マリオシリーズのキャラクターとして出演するなど、もともと主演作持ちのキャラクターであるという過去が薄れ始めている。

そんななか、発売されたこのたびのリメイク版『マリオvs.ドンキーコング』。オリジナル版は当時、そこまで大きなヒットを飛ばさなかったことから、リメイク版の発売には首をかしげたくなる面があるのも事実だ。しかし、「ドンキーコング」シリーズの歴史を振り返ってみれば、本作が何らかの転機を示唆しているような気がしてならない。

そもそも、前述したように2代目ドンキーコングは、2024年で誕生と世代交代から30年というアニバーサリーを迎える。本稿執筆時点での主演最新作『ドンキーコング トロピカルフリーズ』からも10年だ。これ以外に主演作4作目の『ドンキーコング64』(NINTENDO64)の発売、(ややマニアックだが)テレビ東京系列で放送されたCGアニメ『ドンキーコング』の放送開始からも2024年で揃って25年になる。

多数のタイトルが区切りのよいアニバーサリーを迎えるなかで、「ドンキーコング」シリーズにもなんらかの転機が訪れるのではないか。リメイク版『マリオvs.ドンキーコング』の発売は、そんなこれからの展開を示唆する初手の可能性が考えられるのだ。

実際、2024年春にはユニバーサル・スタジオ・ジャパンの「スーパー・ニンテンドー・ワールド」において、新エリア「ドンキーコング・カントリー」の開業が予定されている。「ドンキーコング・カントリー」とは「スーパードンキーコング」シリーズの原題だ。そんな名の新エリアが開業ということは、ゲームの方にも新展開があるのか? 10年にわたり、マリオシリーズへの出演が続いていた“ジャングルの王者”が本家本元に戻るときが来るのだろうか?

あくまでも推測の域は脱しないが、こんなにもドンキーコングにとってのアニバーサリー尽くしになっている2024年。このたびのリメイク版『マリオvs.ドンキーコング』を遊びながら、主演作の帰還を心待ちにしたい。

そして、仮に主演作が帰還を果たすのなら、その音楽を奏でるのは『ドンキーコング トロピカルフリーズ』に引き続き、デビッド・ワイズ氏であってほしいと切に願うばかりだ。

(文=シェループ)

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