夜中に突然、泣き叫んだ2歳3カ月の長女。おなかの腫瘍が体内で破裂して大量出血、肝臓に15cmもの腫瘍が【小児がん体験談】

2013年2月、腫瘍摘出手術をした直後の香鈴ちゃん。

千葉県に住む高田美香さん(40歳)は、夫と13歳の長女、11歳の長男、6歳の二女の5人家族です。長女・香鈴(かりん)ちゃんは2歳3カ月のころ、小児がんの一種である「肝芽腫」が見つかり、約10時間にも及ぶ腫瘍摘出手術を受けました。現在は中学生となった香鈴ちゃん。当時の病状などについて、母親の美香さんに話を聞きました。全2回のインタビューの1回目です。

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「なんでもいいから検査してください!」と頼んだ結果・・・

2歳をすぎたころ、闘病直前の香鈴ちゃん。腹部がまるく大きくなっています。

2010年7月に、体重3600g、身長50cmで生まれた香鈴ちゃん。予定日を数日過ぎたころ、頭が大きかったために約1日かかってやっと生まれた、少し大きめの赤ちゃんでした。

「産院の新生児室でほかの赤ちゃんたちと並んで寝ている香鈴は、どっしりと落ち着いた貫禄があって、面会に来た家族たちもその姿に笑ってしまうくらいでした。
破水して入院したときに、単身赴任中ではあったけれど出産に立ち会う予定だった夫は、名古屋から車を飛ばして帰ってきてくれたのですが、疲労のためか緊張のためか39度の高熱が出てしまい、結果、出産には立ち会えませんでした(笑)」(美香さん)

香鈴ちゃんは発達にとくに問題もなくすくすくと成長しますが、夜泣きが多かったり、1歳を過ぎて歩けるようになっても、抱っこをせがむことが多かったそうです。

「2歳ごろだったら、歩くのが楽しくて動き回るのかな、なんて思っていたのですが、香鈴は、活発に歩き回るというよりは、お散歩中とかでも抱っこをしてほしがりました。2人目を妊娠中だったこともあり『甘えたいんだな』と感じていたのですが、今思えば、体がつらいせいだったのかもしれません」(美香さん)

美香さんが香鈴ちゃんの体の異変に気づいたのは、2012年の10月初旬。2歳3カ月のころでした。

「夕方、家で横になってゴロゴロしていたと思ったら急に大泣きし始めたんです。ふだん、穏やかで泣くことは少ない子でしたが、『ターイ!! ターイ!!(痛い、痛い)』と助けを求めるような、聞いたことのない泣き方でした。熱も少しあったので、すぐに市内の夜間病院に連れていったんです。でも病院についたころには熱は下がっていて、のども腫れていないということで何もできずにいったん帰宅となりました。

ところが、その夜中に再びとてもつらそうに激しく泣いて、まったく寝つけませんでした。『どこが痛いの?』と聞くと、頭の近くで手をぶんぶん振るんです。頭なのか、どこが痛いのかよくわかりません。熱も上がったり下がったりを繰り返していました。それで、翌朝また同じ病院を受診。また熱が下がっていて何もせず帰宅となりそうだったので、私から『なんでもいいので検査してください! 絶対何かおかしいです!!』と懇願しました。

娘はつらすぎて泣くこともできない状態で、私に抱かれてぐったりしていました。前日の夕方から何も食べていなかったんですが、病院に行く途中の車中と検査中に、大量の嘔吐がありました」(美香さん)

肝臓に15cmもの腫瘍ができていた

2013年2月、腫瘍摘出手術をしたあとの香鈴ちゃん

血液検査やエコー検査をした結果、美香さんは医師から『きちんとお伝えできないのですが、お子さんのおなかの中にたくさん腫瘍があります。ここでは治療できないので専門の病院で詳しい検査をしてください』と告げられます。

「家でゴロゴロしていたときにいくつもある腫瘍の一部が破裂してしまったらしく、体内で大量に出血していたそうです。痛がって泣いたのはそのせいだったのだと思います。娘の全身状態はどんどん悪化して、すぐに輸血を行いました。娘は寝ているのか起きているのかわからないような状態で、表情もなくぐったりしていました。

まったく活気がなくなってしまった娘に何もしてあげることもできず、あまりに急なできごとに気持ちも追いつきません。この状況を理解することも難しいくらい、心の中がパニックになっていました」(美香さん)

香鈴ちゃんの転院先としていくつか候補があがりましたが、実は美香さんには持病があり、都内の大学病院に定期的に通院していました。そこでその大学病院の小児科を希望することにします。
幸いにも小児科に1床空きがあり、翌日には受け入れてもらえることに。香鈴ちゃんは救急車で都内の大学病院に転院し、さらに詳しい検査を受けます。

「いろいろな検査を受けた結果、小児がんの一種、肝芽腫(かんがしゅ)という病気だと診断されました。娘の肝臓に悪性の腫瘍(しゅよう)がいくつもできていて、大きい腫瘍は15cmもあったそうです。2歳のこんなに小さな体に、15cmもの腫瘍があったなんて・・・。

すぐに抗がん剤治療が必要な状態でしたが、娘は検査を受ける数日で腹水がたまってしまい、おなかがパンパンに張って腹囲が58cmにもなっていました。おなかの皮膚がテカテカに光るほどふくれたおなかのせいで、寝返りも打てない状態。苦しくて笑うこともできません。どんなに楽しいテレビを見せても、うつろな目をしていました。

腹水がたまっていると抗がん剤治療ができないので、腹水が抜けるまで2週間ほど待って、10月中旬から抗がん剤治療が始まりました」(美香さん)

夫と2人、心を無にして千羽鶴を折り続けた

生後数週間してやっと会えた弟。沐浴をお手伝いする香鈴ちゃん。

手術前に腫瘍をできるだけ小さくしてから手術をしたほうが体への負担も少ないという説明で、香鈴ちゃんは腹水が抜けてから抗がん剤を使った化学療法を行いました。
1カ月のうち3日間の抗がん剤投与を行う治療を2回行ないましたが効果がなく、さらに違う抗がん剤を5日間投与する治療を2クール行いました。しかし腫瘍はなかなか小さくなりません。

そして2013年2月に腫瘍を摘出する手術をすることに。

「手術に向かう娘に、ほかの病室のお子さんやママさんが『いってらっしゃい』『頑張ってね』と声をかけて見送ってくれました。私は『大丈夫、きっと大丈夫』と、できるだけ前向きな気持ちで娘を送り出しました。そうしないと、取り乱してボロボロと泣いてしまいそうだったんです。待合室で夫と一緒に待つ間、私たちはずっと無言で千羽鶴を折り続けていました。
どうか元気に無事に手術を終えて帰ってきますように! と手を休めることなく願いを込めて待っていました。

手術は朝の8時から夕方18時すぎまで、10時間におよびました。手術前の検査では、肝臓だけでなく腹部に腫瘍が転移している可能性があるけれど、実際の状況は開腹してみないとわからないことでした。
おなかを開けてみたら肝臓に15cmくらいの腫瘍がぶら下がっているような状態だったそうで、幸いなことにほかの部分への転移は見られなかったそうです。それで、肝臓を8割ほど残して腫瘍は全摘出した、という話でした。全部取れたということと、肝臓の8割が残せたということは明るい結果でした」(美香さん)

手術後にも、再発を極力防ぐために抗がん剤を使った化学療法が3~4カ月間行なわれました。血液検査の値がやっと正常値になったのは7月のこと。前年10月に緊急入院をしてから9カ月がたっていました。

2人目を妊娠中だった美香さん。予定日2日前まで付き添い入院

香鈴ちゃん(3歳・右)と弟の斗眞くん(1歳・左)を抱っこする美香さん。

香鈴ちゃんが緊急入院をしたころ、美香さんは妊娠8カ月でした。病状が重かった香鈴ちゃんは個室に入院し、美香さんはそこで24時間の付き添い入院を、出産予定日のぎりぎりまで続けたと言います。

「付き添い入院では親の食事は出ないので、ほかのママたちは自分の食事を買いに行っていました。でも、娘はそのとき食事もほとんど食べられない状態で、そんな娘を見ている私も、ちっとも食欲がわきませんでした。それに私が買い物に出かけた少しの間に、もし病状が急変してしまったら、と怖くて怖くて。片時も娘のそばを離れたくありませんでした。私は娘が食べられなかった2歳の娘用の病院食を食べていました。

そんな私の様子を見た家族が『おなかの赤ちゃんのために少しでも食べて』と軽食を用意してくれたり、ほかの病室のママさんたちもとても親切にしてくれたんです。不安でたまらなかった付き添い入院中、周囲の人たちのあたたかさにすごく支えられました。看護師さんたちにもとてもよくしてもらいました」(美香さん)

美香さんは第2子の出産予定日の2日前まで付き添い入院を続けました。そして2013年12月、弟の斗眞くんを出産します。

「香鈴の付き添い入院は仕事を休んだ夫にバトンタッチ。帰宅してバタバタと出産準備をし、予定日を1日過ぎて前駆陣痛が来たかな?と思い産院に行ってみたら、なんと子宮口は9cm大に開いていました。あれよあれよとお産が進み、2時間ほどで出産。

あまりに安産すぎて、赤ちゃんが『お母さん、早くお姉ちゃんのところに戻りなよ』と言ってくれているような気がしました。1週間ほどで退院してすぐに、下の子は同じ市内に住む夫の両親に預けて、私はまた香鈴の付き添い入院に。看護師さんたちには『もう戻ってきたの?!大丈夫なの?』とすごく心配されました(笑)」(美香さん)

そのころ夫の眞政樹さんは実家から通勤し、仕事を終えると赤ちゃんの世話をしてくれていたそう。休みの日には、斗眞くんを連れて大学病院の近くにあるマクドナルドハウスに来て、美香さんと香鈴ちゃんはそこで斗眞くんと面会することができました。

「2012年の10月に緊急入院をし、手術や抗がん剤治療を行った数カ月。これほどまでに命と向き合ったことはありませんでした。だから香鈴と過ごす間は、できるだけ楽しい計画や目標を立てて、1分1秒を楽しい時間にしたいと思っていました」(美香さん)

2013年7月、ちょうど3歳のお誕生日に香鈴ちゃんは退院となりました。

お話・写真提供/高田美香さん、取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部

小児の肝腫瘍は、小児の悪性腫瘍の中で1%程度のまれな病気です。腫瘍が小さいうちは何も症状がないことがほとんどで、非常に大きくなってから見つかることが多いそうです。
次回の内容は、がんが再発し肝移植が必要となってからの香鈴ちゃんの様子について聞きます。

現在は中学生となった香鈴ちゃんは、2024年2月15日の国際小児がんデーに行われる「小児がん治療支援チャリティーライヴ」のダンスパフォーマンスに出演します。ダンスが大好きな香鈴ちゃんの出演は、2023年に続き2回目だそうです。

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2024年2月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

小児がん治療支援チャリティーライヴ「LIVE EMPOWER CHILDREN 2024 supported by 第一生命保険」

2024年2月15日、18:00からABEMA、LINE VOOM、U-NEXT、Lemino、TikTok、YouTube、Z-aNの7つのサービスでオンライン配信が実施されました。参加アーティストは、きゃりーぱみゅぱみゅ、倖田來未、ゴスペラーズ、SAM・ETSU・CHIHARU・DJ KOO from TRF、Da-iCEほか。2月15日以降は、U-NEXT、YouTube、Z-aNの3プラットフォームでアーカイブ配信が視聴可能。公式サイトより寄付もできます。

小児がん治療支援チャリティーライヴ公式サイト

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