他人とは衝突しないのに…大人になった今、「親子喧嘩」が起きるワケ【Xフォロワー1.5万人・心理カウンセラーが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

親や家族に対してイライラしてしまうという “怒り ”に悩んでいる方は、本当に多いと感じる…。Xフォロワー1.5万人の心理カウンセラー・寝子氏は、このように語ります。成長して大人になった今、なぜ親とケンカになるのか。なぜ、他人であれば決して言わないような言葉や態度が出てしまうのか。寝子氏の著書『「親がしんどい」を解きほぐす』(KADOKAWA)より一部を抜粋し、解説します。「今のしんどさ」を軽くするヒントとしてお役立てください。

親とケンカになってしまうのはなぜ?

前回記事で触れた“怒り”に関係しますが、親との関わりで大きなストレスになることの1つに、「ケンカになってしまう」「酷いことを言ってしまう」という他人との間には生じない激しい衝突があります(⇒関連記事:『多くの人が悩んでいる…「親にイライラして仕方がない、つい怒ってしまう」の“隠れた原因”【Xフォロワー1.5万人・心理カウンセラーが解説】』参照)。

酷い言葉を投げつけてしまったり、あちらから怒りをぶつけられてしまったり、決して他人には言わないような言葉や態度が出てしまいます。

親子ならではの激しい衝突は、良い意味でも根本的に「甘え」があるからでしょう。家族以外に出さないのは、他人に同じ言動をしたら許されないからで、相手が親、あるいは子どもであれば、許してもらえるとどこかで感じているからだと思います。

その意味では、酷い言動のすべてがネガティブなわけではなく、親子ならではの「甘え」と「信頼」「絆」があるからこそかもしれないという側面も意識していけたら、負の感情の軽減の一助になるかもしれません。

しかしながら、酷い言動は、言われた側は親も子も関係なく傷つきます。言った側もスッキリしたと思えることはほとんどなく、かえって後味が悪く、何日も引きずってしまうほどの自己嫌悪感や不快感となってしまいますよね。

さらに、自分でも「どうして言いたくないことを言ってしまうのか」わからず、わからないからまた繰り返してしまいます。

このように不必要に傷つけあうことを防ぐために、言動がエスカレートしてしまう理由を整理していきます。

衝突するのは、互いに「わかってほしい」と思うから

親側も子ども側も言い合いになってケンカをしてしまう場合は、まずお互いが相手を理解しようと思う気持ちよりも、“自分の主張をわかってほしい”という気持ちのほうが勝っている状態のときに生じます。

これは親子ゲンカに限らず、夫婦間など特に近しい間柄で認められます。

お互いに“自分のことをわかってほしい”と強く相手に求めていて、相手の言い分を聞く心境ではありません。そのため、お互いに「わかってくれない」思いを強めて、お互いが不満を募らせ、「なんとか相手にわからせないと」とヒートアップしていってしまうのです。

さらに、親子関係に焦点を当てると、子ども側は親に対して「親なのだからわかってくれるはず」という期待を抱き、親側は子どもに対して「もう大きくなったんだから親の気持ちをわかってくれてもいいでしょ」という期待を抱いています。

つまり、お互いに「こう対応してほしい」と、自分の中での相手がとるべき「正解」を暗に求めてしまっているところがあるように感じます。

だからこそ、相手の対応が自分の納得するものではなかったときのガッカリ感は深くなり、「できるはずなのに」と怒りになってしまうのかもしれません。

相手の存在が大きいほど、期待も大きくなる

“わかってほしい”が強くなる理由は、それだけ相手の存在が自分の心の状態に影響するからでしょう。

お互いの存在によって心のバランスが保たれたり乱れたりしていて、関係性が近過ぎているのかもしれません。

だから「わかってくれたら好きでいられるのに」「あなたさえわかってくれたら、私は癒されるのに」と強い思いになるのだと思います。

この思いが悪いわけでは決してありません。

ただ、ケンカが頻発してしまうのであれば、お互いに相手の感情や言動に反応し過ぎてしまっているのかもしれません。

ヒートアップを防ぐことが重要

このような場合、わかり合おうとする前に、ケンカをヒートアップさせないことがまず大切になることが多いように感じます。

「自分も相手もわかってほしい気持ちが強いのかも」と考えてみるだけで、ケンカになったときに冷静さを取り戻せる確率が上がります。言い合いになっても、エスカレートしてしまう理由を知っていれば、それだけでさらに傷つけ合ってしまうことの歯止めになります。

加えて、「“自分をわかって”と思っているから衝突してしまうのだ」と思い当たったら、お互いに落ち着いた状態のときに、この心境を相手である親とも共有するとさらに効果的です。お互いに自分の心境に気づく関わりを共有できると、激しい衝突は防げるようになり、双方の理解が深まることで関係性が良い方向に向かうように思います。

そうはいっても、冷静な話し合いは親に期待できないことも多いですし、言い合いはそれぞれの大切な気持ちがあるからこそ生じるものです。そのため、初めから「こちらが折れよう」と決めるのではなく、「親には伝わらないかもしれない」ことも踏まえたうえで、改めて自分の行動を検討する段階が必要になります。

激しい言い合いになることも覚悟で言い続けるか、徒労を避けて穏やかな関わりを優先するか、感情は込めずに淡々と言うことを試してみるか…。自分はどう思っていて、相手と今後どうなりたいかによって行動を選択できれば、結果的に以前と同じ行動になったとしても、納得感はまるで変わってきます。

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<本稿のまとめ>

●ケンカするのは、お互いに“わかってほしい”と思うから。

●ケンカをエスカレートさせない気づきが大切。

●自分の気持ちや思いを知って、親への行動を改めて選択する。

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心理カウンセラー 寝子

臨床心理士。公認心理師。スクールカウンセラーや私設相談室カウンセラーなどを経て、現在は医療機関で成人のトラウマケアに特化した個別カウンセリングに従事。トラウマの中でも、親子関係からのトラウマケアと性犯罪被害者支援をライフワークとしている。

臨床業務の傍ら、X(旧Twitter)で心理に関する発信をし始め、フォロワー1.5万人超え(2024年1月時点)。対処法よりも自分を理解することに重きを置いた内容が支持され、ブログ記事は「探していた答えが書いてあった」「自分の状態がクリアに理解できた」と評判になっている。

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