聞こえないママの子育て。活発なムスメを目で追いかけるため、帰ったらぐったりということも【耳が聞こえない漫画家・うささ】

スマホの音声変換アプリでうさささんへ「だいすき」を伝えるムスメちゃん。(出典/kodomoe web)

現在5歳の女の子のママで漫画家のうさささん。うさささんは耳が聞こえないママとして、聞こえる娘を育てるエッセイ漫画を描き、発信しています。子育てのことや、聴者に知ってほしいこと、コミュニケーションを取るための工夫などについて、うさささんに話を聞きました。

【耳が聞こえない漫画家・うささ】「救急車のサイレン音」を手を使って教えてくれた娘。それは、世界がつながった喜び・・・

公園で走り回る娘を目で追うため、目が忙しすぎてぐったり!

聞こえないぶん、見えるものから状況や情報を読み取るうさささん。自由に走り回るムスメちゃんとの外遊びがとても大変でした。(出典/『耳がきこえないママときこえるムスメのおはなし。』)

――ムスメちゃんは1歳になってすぐ保育園に通い始めたそうです。心配だったことはありますか?

うさささん(敬称略) 早生まれのため、ほかの子たちに比べて体が小さいこと・まだ歩けないことが心配でした。入園当初はクラスの中で歩けなかったのは娘1人だけだったのですが、ほかのお友だちの歩く姿を見ていい刺激を受けたようで、入園2カ月後には歩けるようになりました。歩けるようになった途端、身体も一気に成長し、年長クラスの今では、クラスで一番大きな子になりました。

また、入園前には保育園からの連絡手段がメールでも大丈夫なのかどうかがとても気がかりでした。事前に見学をし、先生に直接質問・確認することで不安を解消しました。ありがたいことに、特別にメールでの連絡のやり取りを認めてくださったので、いつ呼び出しがあってもいいようにメールチェックを怠らないようにしていました。

――ムスメちゃんは活発なタイプのようですが、子育ての中で大変だったことはありますか?

うささ 耳が聞こえない私は「見る」ことで情報を得ます。公園や歩道などで走り回る娘を見ながら、前後左右から来る自転車や車・歩行者・ランナーなども見る必要があり、目がとても忙しかったです。日が暮れるのが早い季節の秋冬はなおさらです!夕方になって暗くなると見えづらくなってきますから・・・。なので、遊んで無事に家に着くころにはぐったりしていました(笑)

伝えたいことをわかりやすく。コミュニケーションカードを作成

うさささんが作成した、聞こえない人が伝えやすいコミュニケーションカード。(出典/X@usasa21)

――うさささんは2023年12月に、耳が聞こえない人をサポートするアイテム、コミュニケーションカード(意思表示カード)を作成し、販売開始しています。作成のきっかけや反響を教えてください。

うささ 2020年9月にX(旧Twitter)のフォロワーさんから「耳が聞こえないことを伝えるカードを作ってほしい。今世の中にあるものは福祉色がどうしても強い・・・」という相談を受け、コミュニケーションカードのイラスト画像を作成したのが事の始まりです。

その投稿は非常に多くの反響がありました。イラスト画像をスマホにダウンロードし、スマホ画面を相手に見せる前提で作ったのですが、スマホを持たない方のためにカードを作って無料配布したいとフォロワーさんから申し出がありました。
そのときのカードを3年たった今でもまだ使っている方が数名いることを知ったんです。そこでリニューアルし、もっと便利になったコミュニケーションカードを作成しようと決め、商品化に至りました。

――どんなところを工夫しましたか?

うささ 3年前に作ったイラストは4種類だったのですが、商品化にあたってカードのバリエーションを増やしました。コンビニやスーパーのレジで指差しだけでほしいものを相手に伝えられるように、呼び出しモニターがない場所での呼び出しをお願いできるように、今よく使われるようになった音声認識アプリをお願いできるように、感謝の気持ちを伝えられるように・・・などなど。

また、見やすくわかりやすく、相手に優しくお願いする文章であるよう気をつけました。そして、出す自分も見る相手もホッコリするようなデザインをめざしました。
作ってみたら「カードのおかげでお買い物がしやすくなった」、「『耳が不自由です』ではなく『耳が聞こえません』だからわかりやすい」、などうれしい反響がありました。

昔に比べてオンラインやアプリで情報が得やすくなった

筆談やアプリを使うと柔軟に受け入れてくれる人もいれば、逆にツールがあってもコミュニケーションが難しい場合もあると感じこともあるそうです。(出典/kodomoe web)

――うさささんが子どものころと現在とで、暮らしやすさの変化は感じますか?

うささ 情報保障(※1)がとても進化したと思っています。たとえば、昔は遠く離れた人との連絡手段が手紙しかなかったのが、FAXに、ガラケーに、PCのメールに、スマホにと進化しました。字幕がないのが当たり前だったテレビは今やほとんどの番組に字幕がつくようになりました。まだ少ないですが、手話通訳つきの報道や、音楽のコンサートなども。

声でしか電話ができなかったものが、テレビ電話で対面でき、字幕つきのオンラインミーティングで会議ができ、スマホの音声認識アプリで相手の言いたいことを知れるようになり、情報が得やすくなったと思います。最近はコンビニのレジにも、レジ袋やカトラリーが必要かを指さしして伝えられる「指さしシート」が設置されている話も聞きました。

聴覚障害者への理解も深まってきたと思うのですが、聴覚障害者にどう接していいかわからない聴者もまだまだ多くいるのが現状です。もっと理解が広がり、お互いに思いやれる社会になれたらいいなと思っています。

――聞こえない親をもつ聞こえる子どものことをCODA(コーダ:Chidren of Deaf Aduts)というそうですが、うさささんはムスメちゃんがCODAであることで心配していることはありますか?

うささ まわりの大人たちが娘を通訳者にしてしまわないか心配しています。実際、5歳の娘に聞こえない私たち(私や夫)への通訳をお願いした聴者が何人かいました。筆談、ゆっくり話す、指さし、身ぶりで伝えたり、今の時代ではスマホのメモ帳や音声認識アプリなど、伝える手段はいくらでもあります。

聴者は伝えることをあきらめないで、頑張ってコミュニケーションを取ってほしいと思っています。でも、娘自身が通訳をしたいと言ったのなら、通訳したい娘の気持ちを尊重したいです。でも頑張りすぎないでほしいな、と思っています。

※1 情報保障とは、聴覚障害などがある人が情報を入手するために必要なサポートのこと。

お話・イラスト提供/うさささん、取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部

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ムスメちゃんの子育てによって、知らなかった音のことを知ることができた、といううさささん。それと同じようにうさささんのエッセイ漫画やお話からは、聞こえる者の想像がおよばない世界を知ることができます。

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2024年1月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

うささ

PROFILE
わんぱくすぎるムスメに振り回されながら、ツイッターをメインにムスメの子育て日記、きこえないことに関するエッセイなどを発信。

kodomoe web「耳がきこえないママときこえるムスメのおはなし。」

X(旧Twitter):@usasa21

Instagram:@usasa21

ブログ「うささかふぇ」

「耳がきこえないママときこえるムスメのおはなし。」

生まれつき耳がきこえない母の住む「音のない世界」と、きこえるムスメの住む「音のある世界」。2つの世界が交わったとき、見えてくる景色とは!? 笑って泣けて温かな気持ちになる子育てエッセイ。うささ著/1210円(白泉社コドモエCOMICS)

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