「受刑者を『さん』づけ」にネット上で集まる賛否 元受刑者は「刑務官と受刑者に上下関係はないはず」

名古屋刑務所職員による暴行事件では、名古屋矯正管区の幹部が記者会見で謝罪する結果となった(写真・時事通信)

2021年から2022年にかけて、名古屋刑務所の刑務官が、受刑者に暴行や暴言を繰り返した問題を受け、法務省は2月15日、不祥事を招く一因とされた受刑者の「呼び捨て」を4月から全面的に廃止し、名字に「さん」をつけた呼称を用いることを発表。刑務官の行動を記録するとともに、通信機能を使った遠隔サポートが可能な装着式カメラを8施設に配備するという。

「名古屋刑務所では、受刑者を『懲役』と呼ぶなど、不適切な呼称が横行。法務省の第三者委員会は2023年6月、『人権意識が希薄』と問題視し、各施設で一般的な、呼び捨ての再考を促していました。一方、受刑者にも刑務官を、これまで使っていた『先生』と呼ばず、『職員さん』『担当さん』にするよう求めていくようです」(事件記者)

この発表について、ネット上では賛否がわかれている。

《そもそも日本の刑務所の居心地の良さには問題があると思うのだが、刑務官が己の立場を勘違いして人権意識を見失うのはもっと違う。従ってこの変更は、受刑者にとってではなく刑務官にとって良いことというのであれば賛成》

と、賛同する声もあるものの、

《初犯者なら「さん」付けの呼び方も理解出来ますが、累犯者までも「さん」付けの呼び方をすることには違和感があります》

《日本の司法制度は加害者に甘すぎるし、被害者にはやたらと厳しいのは大問題だと思う。刑務所は罪を償う施設であって、受刑者が快適に過ごす場所ではない》

《受刑者がまた入りたくなる刑務所になることでしょうよ。罪を犯した人間に税金で衣食住の心配のない生活をさせ、「さん」付けか。真面目に生きてるのがイヤになるね》

など、批判の声のほうが圧倒的に多く寄せられている。

では、元受刑者は、今回の決定をどう思うのか? 2023年まで長野刑務所に服役していた、元受刑者の男性に話を聞いた。

「『さん』呼びは、基本的には賛成ですね。自分は刑務官から『お前』とか『お前さん』とか呼ばれてましたけど、受刑者の中には気が強い人間もいるから、自分よりも若い刑務官に『お前』とか呼ばれると、カチンと来る人もいるんですよ。自分も内心ではそう思ってたんで。そういう意味では、『さん』づけにすることで、無駄な軋轢が減る、という面はあると思います。

ちなみに自分は、刑務官のことは『先生』と呼んでいました。刑務官を『おやっさん』とか『親父』と呼ぶ人も多いですね」

被害者がいる罪で服役したわけではないこの男性は、ひとつだけ言わせてほしいことがあるという。

「そもそも、刑務官と受刑者の間に上下関係はないじゃないですか。だって、向こうはただの仕事であって、刑務所で働いている職員なだけですよね。懲役刑を受けたからといって、刑務官から下に見られた扱いを受けなきゃいけない、という決まりなんてないし、法で定められた刑期をつとめている受刑者に対して、刑務官が上からものを言うこと自体が違うと思うんですよ。僕が見た限りでは、若い刑務官ほど、受刑者を見下した態度を取ってくる感じがありました。年配の刑務官のほうが、まだ人間としてのリスペクトを持って接してくれるんですよ」

受刑者の立場からすると「仮釈放」を含め、少しでも刑期を短くしたいため、刑務官にいくら理不尽な態度を取られたとしても、言い返すこともできず、我慢するしかないのだという。

「もちろん、世間が『お前らは悪いことしたんだから、責められて当たり前。我慢して当たり前』っていうのもわかるし、当然だと思います。でも、その『我慢』って、判決のなかには含まれてませんよね? 刑務官が受刑者にどんな口を聞いてもいい、とはならないはずなんですよ。

たとえば、これが外の世界だったら、相手の名字や名前に『さん』づけが普通でしょう。それが、なぜ刑務所に入った途端に、若い刑務官から『お前』とか、呼び捨てにされるのか。僕らは、たしかに法律を守らなかったから、法に則った刑罰を科されているわけですけど、受刑者だから侮辱していいとか、受刑者のプライバシーは保護しなくていい、ということじゃないと思うんですよね。

そういう意味で『さん』づけはいいと思いますが、個人的には、番号呼びで統一してもいいと思います。もしかしたら、名前を知られたくない受刑者もいると思うし、やっぱり有名な事件の人もいるので」

この男性が語るように、「さん」づけで、一部の刑務官の意識が変わるといいのだが――。

© 株式会社光文社