ロシア野党指導者ナワリヌイ氏が死亡、死亡確認と同氏の広報担当

ロシアの刑務所当局は16日、近年のロシアで最も著名な野党指導者だったアレクセイ・ナワリヌイ氏(47)が、収監されていた北極圏の刑務所で死亡したと発表した。ナワリヌイ氏の広報担当キラ・ヤルミシュ氏は17日、死亡を確認したと発表した。

ナワリヌイ氏の母リュドミラさんに渡された書類には、同氏は現地時間16日午後2時17分に死亡したと書かれていたと、ヤルミシュ氏は明らかにした。

ヤルミシュ氏は後に、ナワリヌイ氏の遺体が安置されていると当局に言われた刑務所近くの遺体安置所にリュドミラさんと弁護士が向かったものの、安置所は閉じていて、そこにナワリヌイ氏の遺体はないと言われたとソーシャルメディアで明らかにした。

ヤルミシュ氏はさらにBBCに対して、ナワリヌイ氏の遺体が今どこにあるか分からないと話した。当局は、捜査が終わるまで遺体を家族に引き渡せないと話しているという。

ヤルミシュ氏は「単なる死亡ではなく殺人だと確信している」と述べ、ウラジーミル・プーチン大統領が死を命じたのだと思うと話した。

前日は笑顔

プーチン大統領を最も声高に批判していた政治指導者だったナワリヌイ氏は、禁錮19年の実刑判決を受けて収監されていた。収監理由となった罪状は、プーチン政権の政治的狙いによるものと、広く受け止められていた。

ナワリヌイ氏は昨年末、モスクワ近郊の刑務所から、最も警備が厳重とされる、北極圏にあるヤマロ・ネネツ自治管区の刑務所に移されていた。

ヤマロ・ネネツ自治管区の刑務所当局は、ナワリヌイ氏が16日に散歩した後、「気分が悪く」なったのだと説明した。

刑務所当局は、ナワリヌイ氏はそれから「ほぼすぐさま意識を失った」とコメント。救急医療チームがすぐに呼ばれ、蘇生しようとしたものの、ナワリヌイ氏は回復しなかったという。

「救急チームの医師が、受刑者の死亡を宣告した。死因は現在、確認中」だと、刑務所は発表した。

ナワリヌイ氏は15日にも、刑務所から動画リンクで審問に参加したばかりで、映像では元気で、笑っていた。

ロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は16日、ナワリヌイ氏の死去は「大統領に報告済み」だとのみ述べた。プーチン氏は、中部チェリャビンスクを訪問中という。

ミュンヘンで開かれている安全保障会議に出席していたナワリヌイ氏の妻ユリアさんは同日、満場のスタンディングオベーションを受けて登壇し、「プーチンと彼の政権は常にうそをつくので(訃報を)ただちには信じられないが」としたうえで、「(訃報が)もしも本当なら、プーチンと仲間たちに知っていてほしい。連中がロシアと私の家族と夫にしたことについて、裁きを受けることになると。その日は素早くやってくる。あの独裁政権とプーチンは、これまでのあらゆる恐ろしい行動について、個人的な責任を負わされなくてはならない」として、「私たちにしていることについて独裁政権を罰するため、国際社会には団結して助けてほしい」と述べた。

ナワリヌイ氏の広報担当キラ・ヤルミシュ氏は1月、ナワリヌイ氏が独房で過ごした日数は280日以上に上ると明らかにしていた。

ロシアの人権活動家でジャーナリストのエヴァ・メルカチェワ氏は16日、ナワリヌイ氏は少なくとも27回にわたり独房に入れられており、それが死去に「影響しなかったわけがない」と話した。

「プーチンの責任だ」=バイデン米大統領

アメリカのジョー・バイデン大統領は同日、ホワイトハウスで記者会見し、「伝えられているアレクセイ・ナワリヌイ氏の死去の知らせに、世界中の何百万人の人たちと同様、文字通り驚いていないし、同時に激怒している」と述べた。

「プーチン政権によるあらゆる腐敗や暴力や悪行に、彼は立ち向かった。それに対してプーチンは彼に毒を使い、逮捕し、でっちあげの犯罪で起訴した。実刑を与え、独房に入れた。それだけの目に遭わされても彼は、プーチンのうそを非難するのをやめなかった。刑務所の中にいてもなお、彼は真実を口にする強力な声だった」とバイデン氏は述べた。

ナワリヌイ氏は2020年の暗殺未遂を受けてそのまま外国にとどまることもできたが、「代わりに彼はロシアに戻った。自分がおそらく投獄され、このまま活動を続ければ殺されることもあり得ると知っていながら、ロシアに戻った。それでも彼は、自分の国を、ロシアを、深く信じていたから戻った」のだともバイデン大統領は指摘した。

「彼の死去の情報が本当なら、そして本当ではないと思う理由は何もないが、もし本当なら、ロシア当局は独自の話を展開するはずだ。しかし、間違えないように。間違えないように。ナワリヌイの死亡はプーチンの責任だ。プーチンの責任だ」と、バイデン氏は強調した。

「プーチンに殺された」=ゼレンスキー氏

刑務所当局の発表を受けて国際社会はただちに、プーチン大統領にとってロシア国内で最大の政敵だったナワリヌイ氏をこぞって称賛した。

フランス政府は、ロシアの「抑圧」に抵抗したナワリヌイ氏が自分の命でその代償を払うことになったとコメント。ノルウェーのエスペン・バット・アイデ外相は、ナワリヌイ氏の死去にロシア当局が多大な責任を負うとコメントした。

北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長は、「ロシアからの情報に悲しみ、動揺している」と述べた。

イギリスのリシ・スーナク首相は、ナワリヌイ氏の死去は「ひどい知らせ」だとして、ナワリヌイ氏が「目覚ましい勇気を終生示した」とたたえた。

ドイツのオラフ・ショルツ首相は、ナワリヌイ氏が「勇気の代償を自分の命で払った」と述べた。

ドイツ・ベルリンでドイツとの安保協定に署名し、ショルツ首相と共同記者会見に臨んでいたウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ナワリヌイ氏が「プーチンに殺されたのは明らか」で、「プーチンは自分の地位が安泰な限り、誰が死のうとも気にしない」と批判。だからこそ「プーチンを今の地位にとどめてはならない」し、「責任をとらせなくてはならない」と述べた。

は、ナワリヌイ氏の「悲劇的な死」の責任を負うべきはロシアだけだとソーシャルメディアに書いた。

ミシェル議長は、ナワリヌイ氏が「自由と民主主義の価値のために闘い」、自分の理想のために「究極の犠牲を払った」と述べた。「最も暗い状況で民主主義のため、世界各地で闘う人たち。戦士は死ぬ。しかし、自由のための戦いは決して終わらない」とも、議長は書いた。

アメリカのカマラ・ハリス副大統領は、「(ナワリヌイ氏の死去が)確認されれば、プーチンがいかに残酷か、またしても示すことになる」、「責任はロシアにある」と述べた。

アメリカのアントニー・ブリンケン国務長官は、ロシア政府がナワリヌイ氏を「迫害し、毒を使い、投獄」してきたと述べ、同氏の死去が確認された場合それは「たった一人の男がいかに(ナワリヌイ氏に)こだわり恐れていたか」の表れで、「プーチンが築いた体制の中心にある弱さと腐敗を強調するだけだ」と批判。その上でブリンケン長官は、「この責任はロシアにある」と強調した。

近年のロシアで最も著名な野党指導者

プーチン大統領に批判的な政治やマスコミ関係者のほとんどは、すでにロシアから脱出している。

しかし、ナワリヌイ氏は2020年8月に西シベリアからモスクワに向かう機内で意識を失い、ロシア国内の病院に搬送された。治療のためその後移送されたドイツの当局は同年9月、神経剤「ノヴィチョク」が使用されたと発表した。

ナワリヌイ氏はその後、2021年1月に帰国。モスクワ郊外のシェレメチェヴォ空港の入管窓口で警察に拘束され、それから3年1カ月にわたり拘束され続けた。

ナワリヌイ氏はかねて選挙でプーチン氏を倒そうとし続けたものの、2018年の大統領選には出馬を禁止された。

ロシアでは今年3月に次の大統領選が予定されているが、プーチン氏に対抗する候補は実質的にいない状態での選挙となる。

ロシアの中央選挙管理委員会は8日、来月の大統領選挙に関し、ウクライナ侵攻に反対するボリス・ナデジディン元下院議員(60)の候補者登録を認めないと決めた。

ナワリヌイ氏は1月にも刑務所から支持者あての動画で、自分がいる刑務所は「とても遠い」のでまだクリスマスの郵便物が届いていないのだと冗談を言い、笑っていた。

ナワリヌイ氏は刑務所からも、弁護士にメッセージを託して、世界に自分の言葉を届けていた。弁護団が代理でアップロードした2月14日のインスタグラムの投稿は、妻ユリアさんへのバレンタインのメッセージで、「私たちは何千キロも隔てられている」けれども、「君はいつでも僕の近くにいると感じるし、僕はますます君のことを愛している」と書いていた。

<解説> 帰国の危険性を承知し、刑務所から挑戦し続けた――サラ・レインズフォードBBC東欧特派員

神経剤ノヴィチョクで暗殺されかかったナワリヌイ氏は、自分にとってロシアがいかに危険な場所か、承知していた。自分にとってロシアに安全な場所などないと。

それにもかかわらず、ドイツで治療を受けて回復した彼は、帰国を選んだ。

ロシアの政治家として彼は、亡命生活を続けることが受け入れられなかった。ロシアを離れ、国内事情がわからなくなり、ロシア政治にとっての存在意義を失うなど、彼には考えられなかったのだ。

どんなに危険が高くても、自分はロシアにいなくてはならない。それが、ナワリヌイ氏の思いだった。

しかし、とんでもなく危険なことだった。

2021年1月にモスクワに着陸して、彼はただちに逮捕され、以来ずっと拘束され続けた。

複数の罪状に問われた彼の姿は、刑務所からの動画でしばしば見ることができた。数々の罪状は、ナワリヌイ氏を拘束し続けるための口実だった。

刑務所での彼は、やせ細っていた。髪をそって、囚人服はぶかぶかだった。それでも、その発言は以前と変わらず、力強く挑戦的だった。

ナワリヌイ氏は「未来の美しいロシア」への希望と信念を、決して失わなかった。彼を支えるチームが使うそのフレーズは、長年続く抑圧的なプーチン独裁体制の終わりと、ロシアの政治的変革を期待してのものだ。

しかし、ナワリヌイ氏の逮捕を経て、プーチン氏はウクライナでの戦争を始めた。ナワリヌイ氏の政治団体は「過激主義」を理由に活動を禁止され、メンバーは逮捕され、プーチン氏を批判する主立った人たちは国を逃れるか拘束された。

拘束されているほかの反政府活動家の家族はいま、震えあがっていることだろう。

その人たちにとって、そして今とは違うロシアを想像した全員にとって、今の展望はかつてないほど暗い。

(英語記事 Navalny's death confirmed / Putin critic Alexei Navalny dies in Arctic Circle jail / Jailed Russian opposition politician Alexei Navalny dead, says prison service

© BBCグローバルニュースジャパン株式会社