年金「月17万円」でも…70代の独身男性、20年住んだ「賃貸アパート」から立ち退き要求、他の賃貸からも入居拒否の残酷

年金はそれなりにある、貯蓄だって贅沢はできないかもしれないが問題ない! それほどお金に不安のない高齢者であっても「家が借りられない!」という事態に直面しています。高齢者の住宅難民問題……みていきましょう。

高齢者は収入があっても家は借りづらい

――20年以上住んでいるアパートから立ち退きを迫られている

東京西部在住の70代男性。住んでいたのは築50年ほどのアパート。老朽化で色々なところがボロボロだから建て替えるという判断はムリもありません。ただ問題なのは新しい棲家が見つからないことでした。すでに10軒以上のアパートから入居拒否をくらったといいます。

――年金だって平均くらいはもらっているし、貯蓄も贅沢ができるほどではないがある。年齢以外に断られる理由が見当たらない

退去期限まであと2ヵ月。「このままでは寒空に追い出されてしまう、どう生きていけばいいのか……」と、強い危機感を抱いているといいます。

厚生労働省『令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、厚生年金保険(第1号)の老齢給付の受給者の平均年金月額は、併給の老齢基礎年金を含めて老齢年金が14万4,982円。65歳以上の受給権者の平均年金月額は、男性が16万7,388円、女性が10万9,165円でした。男性が平均的な年金を手にしているなら、月17万円弱。手取りは14.2万〜15.0万円ほどでしょうか。決して多いわけではありませんが、年金なら一定額がきちんと振り込まれます。それでも「高齢者は家を借りづらい」というのが現状です。

株式会社R65が行った『65歳以上が賃貸住宅を借りにくい問題に関する実態調査』によると、65歳を超えて賃貸住宅の部屋探しを経験した高齢者は35.7%。その理由のトップは「家賃の低い物件に住み替えるため」で36.6%。「適切な広さの間取りに住み替えるため」32.2%、「子どもの近所に住み替えるため」10.8%と続きます。さらに「オーナーや不動産会社から立ち退きを促されたため」が7.6%でした。

また「年齢を理由に不動産会社に入居を断られた経験はありますか?」の問いには、26.8%が「ある」と回答。断られた回数は「1回」が最も多く44.8%、「5回以上」は11.9%でした。また収入別にみていくと「年収200万円未満」で27.7%、「年収200万円以上」で26.4%となり、収入による差がほぼないという結果に。「高齢者は家を借りづらい」のは「とにかく年齢がネック」という事情が見えてきます。

高齢者に家を貸したくない…不動産会社の言い分

不動産会社側の声も聞いてみましょう。

同じく株式会社R65が行った『高齢者向け賃貸に関する実態調査』によると、「管理戸数全体のうち、高齢者入居可能な賃貸住宅の割合」をたずねたところ、「ない」が25.7%、「0~20%」28.9%と合わせると半数を超えます。

また「直近1年間で年齢を理由に入居を断ったことがあるか」の問いに対しては、「断ったことがある」が28.3%。4社に1社以上が年齢を理由に入居を断っています。

高齢者の入居、何が不安なのかを聞いてみると、「入居前の不安」として最も多かったのが「孤独死による事故物件化」で37.9%。「死後の残置物の処理」「家賃滞納」「火災」「近隣住民からの苦情」と続きます。一方「入居後のトラブル」として最も多かったのも「孤独死による事故」で21.9%。「家賃滞納」「死後の残置物の処理」と続きます。

今後、高齢化の進展とともに高齢者の受け入れを強化すべきと考える不動産会社は4割弱になるものの、リスクの大きさから中立的な立場の不動産会社が多いのが現状です。

高齢者の住まい探し…「老人ホーム」もひとつの選択肢

なんとしてでも家を借りたい高齢者と、貸したくない不動産会社。両者の溝はそうそう縮まるものではありませんが、高齢者が賃貸を借りるためのポイントを押さえていけば、入居拒否の回数を減らすことができるでしょう。

まず重要なのは「健康面に不安がないこと」を伝えること。不安があるなら家族がケアマネージャーのサポートが得られることを伝えます。また「金銭面に不安がないこと」もポイント。年金額や貯蓄額を証明する書類を準備します。連帯保証人を立てることがベストですが、立てられない場合は「家賃債務保証」など入居審査に通りやすくなる制度を利用する方法もあります。

最近はシニア向け分譲マンションなど高齢者専用物件も増えているので、このような物件に絞って探すのも手。ただ費用は高めであることがネックです。

いっそのこと「老人ホームに入居する」というのも有効な選択肢。たとえば「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」は自宅とほぼ変わらない自由度の高い暮らしができる老人ホーム。また基本的に外部の介護サービスを利用する「住宅型有料老人ホーム」は、比較的自立の高齢者が多いのが特徴。自立していれば、利用料金を抑えることができるのも魅力のひとつです。

気になるのは費用。国土交通省の資料によると、サ高住の月額費用は平均10.8万円。初期費用は保証金(敷金)のみで、10万~30万円程度が相場。賃貸物件に引越しをするのとほぼ変わらない程度の費用で、老人ホームへの入居が叶うのです。

高齢者の住宅難民問題。このように選択の幅を広げると、問題解決に向けて大きく前進することができるかもしれません。

[参考資料]

厚生労働省『令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況』

株式会社R65『65歳以上が賃貸住宅を借りにくい問題に関する実態調査』

株式会社R65『高齢者向け賃貸に関する実態調査』

国土交通省『家賃債務保証の現状』

国土交通省『高齢者の住まいに関する現状と施策の動向』

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