医療職や接客業…多くの仕事で求められる「感情労働」 精神科医が教える “らしさ”との付き合い方

「感情労働」という言葉をご存知でしょうか。「肉体労働」「頭脳労働」に並ぶ労働カテゴリーの一つなのですが、この感情労働には多くのストレスが伴います。精神科医の井上智介先生がラジオ番組に出演し、現代において多くの職業で必要とされる「感情労働」について話しました。

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「感情労働」とは、感情の表現やコントロールによって価値提供を行う仕事を指します。「肉体労働」「頭脳労働」と並び、第三の労働の在り方として近年注目を集めていますが、実は、40年ほど前から定義されているといいます。

具体的には、看護師などの「医療職」、介護士など福祉の現場で働く「介護職」のほか、客室乗務員や販売員を含む「接客業」「サービス業」などが挙げられます。しかし、すべての職業が「肉体労働」「頭脳労働」「感情労働」に区分されるわけではありません。人と接する機会の多い職業のほとんどが感情労働に当てはまるだけでなく、特に近年は、求められる「感情労働」の比率がどんどん重くなっているといわれています。

番組パーソナリティーでシンガーソングライターの近藤夏子は、「私自身、ありのままの自分で仕事をしているつもりだけど、そうではない瞬間ももちろんあって。たとえば、つらいことがあったからって泣きながら食リポするわけにはいかないし、感情をある程度コントロールしないと成立しない」と、人前に立つ仕事ゆえの悩みを吐露しました。

「今まではあまりフォーカスが当たらなかったけれど、実は、感情労働を求められる仕事はとても多い」と語る、井上先生。「特に日本には“おもてなし”の文化があるので、本来はそこまで求められていなくても、同調圧力というか勝手に思い込んでしまうことで“スマイル100円”を売ってしまっているんですよね」と説明したうえで、「求められることに必死に応えようとすることで気づかないうちにプレッシャーがたまり、つぶれてしまうことがある」と話しました。

近年は、男性らしさ・女性らしさなどの“らしさ”を求めることをなくそうという動きがありますが、職業においてはあまり浸透していないのが現実。「こう振る舞うべき」というプレッシャーを自然と感じとってしまうこと、実際に現場にいるとそう振る舞わざるを得ない場面があることが原因だと考えられています。

とはいえ、職業ならではのある程度の基準や“らしさ”があるのは当然のことで、そこに誇りを持って仕事をしている人も多いはず。“らしく”振る舞うことが悪いわけではなく、「とらわれすぎたり、プレッシャーに感じて追い込んでしまわないようにすることが大切」と井上先生は話します。

「それぞれの職業ごとに“らしさ”があるからこそ、やりがいがあったりイメージ像を作りやすかったりするので、決して悪いことではないと思います。仕事とプライベートの境界線を分けずにプライベートまで引っ張られてしまうことが問題だと思うので、仕事は仕事でその役割に徹して、それ以外のところで発散しましょう。プライベートでは、自分らしくいられる人と一緒に過ごしたり、自分にとって心地いいコミュニティを持って過ごすことが大切です」(井上先生)

感情労働は、自身の感情をコントロールしながら相手の感情を満足させる仕事。ストレスや負担を伴う一方、相手から感謝や喜びの言葉・反応を受け取ることでモチベーションが上がるなど、肯定的な影響も持っています。

「作り笑いをするのに疲れた……」など、仕事や生活のなかで日々生まれてくるネガティブ感情。ネガティブ感情そのものは決して悪いものではなく、適切な方法でコントロールすることが大切といえるようです。

※ラジオ関西『Clip月曜日』2024年1月29日放送回より

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