精神科医に聞く 自分の病気やコンプレックスを伝えるべき? 言葉にできない悩みを伝える方法とは

「自分の悩みを伝えるのがこわい」「相手からどう思われるだろうか」など、話すことに悩みを抱えている人は多いのではないでしょうか。精神科医・産業医の井上智介先生がラジオ番組に出演し、リスナーから寄せられた悩みに答えました。

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◆「昨年脳梗塞を起こし、いまも後遺症で軽い言語障害が残っています。さらに、突発性難聴を起こした左耳もほとんど聞こえなくなりました。普段の生活でよく会う人には『聞こえない』『話しづらい』ということが知られているので気をつかっていただけるのですが、初めて会う人にも伝えたほうがいいのか迷っています。患ってすぐのころは皆さんに伝えていたのですが、伝えることにより聞こえることも聞こえなくなり、話せることも話しづらくしてしまっているような気もしています」

【井上智介先生(以下:井上先生)】 僕の意見としては、周りの人に言ったほうがいいんじゃないかと思います。この後の人生が生きやすくなると思うからです。左の耳がほとんど聞こえないということであれば、左側に立ってほしくないと思うこともあるかと思います。知らずに横に立った人からしてみれば、「避けられた」と思ってしまう可能性もありますよね。そうなったとき、知らぬ間に損していることになってしまいます。

【近藤夏子(以下:近藤)】 自分が気にしていることでも相手は知らないし、どちらも悪くないのに嫌な思いをしてしまうこともあるかもしれないですよね。全部を言うべきとは思わないけど、人に言うことによって、言ったほうも言われたほうも生きやすくなることはあると思います。

【井上先生】 とはいえ、おっしゃる通り、病気のことを何度も話していると暗示のように思ってしまうというのも理解できます。しかし、回復がなかなか難しいということであれば、それを受け入れたうえでの幸せな生き方を探していくのも大切なのかなと思います。

【近藤】 今の話は、私にも置き換わるなと思って。このリスナーさんは病気のことですけど、コンプレックスとか悩みも同じだと思うんですよね。私は最近、話すことによって改めて認識して、自分を認めて、その自分で生きていこうと思うことがよくあるんですよ。たしかに、「聞こえにくい」「話しづらい」と人に話すことで意識してしまって、「もっとそうなるんじゃないか」と不安に駆られることもあると思うんです。でも、そうなったとしても「そういう自分で楽しく生きていこう」と思えたときが一番楽しく、自分にとって幸せでいられるんじゃないかと思うんですよね。

私も、生きることが辛い時期があったという話を何度もラジオでしているんですけど、何度も何度も話すことによって自分にもそういう時期があったことを認めて、その弱さを強さに変えて生きていけているんですよね。話すことによって同じ気持ちの人に寄り添うこともできているので、人に話すのはいいことなんじゃないかと思います。

【井上先生】 その通りですね。信用できる人からでいいので伝えてほしいと思いますね。

【春名優輝アナウンサー(以下:春名)】 でも、相談が苦手な人もいると思うんですよ。「話すときに心が折れてしまうんじゃないか」と思って言えなかったり、言わないことで自分を保っている人もいると思うんですよね。

【井上先生】 そこまで不安が強いのであれば、相談する必要はないと思います。たしかに、言葉で伝えるというのはかなり勇気のいることですよね。そんなときは、文字で伝えるのもありだと思います。言葉は即時性があるので、相手の反応がこわかったりしますよね。会った次の日など、時間が経ってからでもいいので「実は今こういう問題を抱えていて……」というように伝えてもいいのかなと。話しづらいときには、文字で伝えることも選択肢のひとつに入れてもらえたらいいと思います。

【近藤】 私も文字にするのはいいことだと思っていて。思っていることを書き出すことによって、自分が今どんなことに悩んでいるのか・不安に思っているのか、ということに気づけるんですよね。

【井上先生】 そうですね。実は、こうしてラジオ番組にメッセージを送るというのもかなりいいことなんですよね。考えていることを文字に起こして、時系列に並べて、しっかり分かりやすく人に伝えるということを、まさにこのメールでしてくださっていますよね。ラジオにメールを送ること・人に手紙を書くことには“相手に伝える”という目的があるため、自分のなかである程度整理しなければなりません。それにより、自分自身と向き合うことにもなると思います。

◆「月に1度精神科に通院していて、先生に1か月の経過を話しています。しかし、自分の症状をアウトプットすること・先生との対話が心理的にきつく、早く話を切り上げようと考えてしまいます。アウトプットや対話など、きっちりと症状と向き合うためには、どのようなことが大事でしょうか?」

【井上先生】 あまり知られていないかもしれませんが、実は、この悩みは精神科では“あるある”なんです。何も話せない人や、診察室に入って最初のあいさつの声が出ないという人も多くいます。先ほどお話しした通り、“話す”ことにはかなり勇気がいるんですよね。特に、初対面の医者や距離がある医者に自分のことを話すのはかなり勇気がいると思います。だから、決してめずらしいことではないということを分かってほしいと思います。

そのうえでの向き合い方としては、事前に書いていくのがラクです。声が出ないときは、症状を書いたメモを渡すだけという人もいます。まさに、主治医への手紙のような感じですね。

症状と向き合うためのアウトプットのコツとしては、回数や時間についてある程度具体的に書いていただきたいと思います。たとえば「眠れない」という相談でも、1週間のうち2日だけなのか、毎日なのかで対応や考え方も変わってくるので、具体的に教えていただければ主治医としては助かります。文章としてきれいに書かなくても、「毎日3時間くらいしか眠れない」「夜になると不安になる」など、伝えたいことの箇条書きで大丈夫です。

【近藤】 私の友人に、子どもがひどいいじめによって傷を抱えているため精神科に通っているという人がいるんですけど、子どもは先生の前では「大丈夫だから! 全然傷ついてないから!」と強がってしまうみたいなんです。家ではあきらかに様子がおかしいので心配して連れていくんですけど、いつも話してくれなくてそのまま帰るというのが続いているみたいで。子どもの場合はどうしたらいいのでしょうか。

【井上先生】 これも非常によくあることなんです。大人でさえ自分の気持ちを言語化することは難しいため、お子さんにとってはなおさら難しいと思います。その場合も、親御さんが自宅での様子をメモし、事前に受付に渡すという方法をとっても良いかと思います。事前に知っているからこそ対応できることもありますし、伝えやすい方法を取っていただけたらと思います。

【近藤】 本来は、自分が傷ついていることを認めて、話すことができて、そこからどうしていくかということだと思うんですけど、そこに立つまでが難しかったりしますもんね。

【春名】 うまく伝えられなかったとしても、相談しようと行動しているだけで素晴らしいですよね。自分で抱え込まずに人に頼るということも強さなんだと思いました。

【近藤】 先生に言われてハッとしたのが、人に話すというのも勇気がいること、そしてそこも強さだということ。こうしてメールを送ってくれたり、人に話そうと思って考えを書くだけでもすごいことなんだと思いました。

※ラジオ関西『Clip月曜日』2024年1月29日放送回より

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