マシュー・ヴォーン監督最新作『アーガイル』サム・ロックウェルも満身創痍なアクション撮影秘話とは

映画『ARGYLLE/アーガイル』場面写真(C)Universal Pictures

マシュー・ヴォーン監督の最新作『ARGYLLE/アーガイル』が、3月1日から全国公開される。この度、発想の限界を突き破る、スタイリッシュ&クレイジーなアクションシーン撮影秘話が明かされた。

『キック・アス』ではカットを入れずに撮影したニコラス・ケイジが暴れ回る暴行シーンやクロエ・グレース・モレッツのキュートすぎる殺りくシーン、『キングスマン』ではコリン・ファースが教会に単身突入する驚きのシークエンスに、パブのドアに鍵をかけ地元の不良たちに“マナーが人を作る”と教える印象的なシーン…。これまでのマシュー・ヴォーン監督作品では、大胆かつ驚異的、そして今までスクリーンで見たことのないような過激なアクションシーンが描かれてきた。最新作『ARGYLLE/アーガイル』でも、キレッキレのマシュー・ヴォーン節は健在。音楽と騒乱、陽気さとスタイリッシュさを融合させた上に高尚な暴力性を用いて、これまで築き上げてきた表現をさらに上回るシーンを作り上げた。

本作で最初に撮ったアクションシーンは予告編にも登場する、列車の中で作家エリー・コンウェイ(ブライス・ダラス・ハワード)が刺客たちに命を狙われる場面。狭い列車内で繰り広げられたため、スタントチームはカメラを置く位置を確保するとスタントを行うスペースが限られてしまうという物理的な課題に直面しながらも撮影が進められた。マシュー・ヴォーンにとって、アクションとは物語や登場人物を描き出すことで、ただ人がお互いをたたき合う以上の意味があるのだという。「単純な格闘は面白いと思わない。新しい形で行われるアクションでない場合、また何を賭けて戦っているのかが分からない場合、私は興味を引かれないね」

そして、エリーの座席の向かいに座っていたスパイを名乗る男・エイダンを演じたサム・ロックウェルは、本作のアクションシーンでスタントの仕事のすごさを改めて実感したよう。「あるシーンで足を痛めてしまい、数日間痛みが続いた。スタントの1人に愚痴を言うと、彼はこう答えたんだ。『私はゲーム・オブ・スローンズの撮影で溺れたことがある』と。彼は3分間仮死状態だったそうだ。それを聞いて、愚痴るのをやめたよ。複数人の男女で構成されるスタントチームは本当に凄い人達なんだ」と、マシュー・ヴォーンの代名詞でもある超過激で規格外なアクションシーンが完成するまでの裏側を明かしている。

そんなマシュー・ヴォーン作品のアクションの中で大きな役割を果たしているのが、スタントコーディネーターのブラッド・アランさん。オーストラリア出身のアランさんは、成家班(ジャッキー・チェンが率いるスタントチーム)初の非アジア人メンバーとして知られている。近年は、ハリウッドの大作でも活躍を重ね、マシュー・ヴォーン作品でも『キック・アス』以降の全作品でスタント監修を務め、『キングスマン』シリーズでは第二班監督を担当してきた、まさにヴォーンの相棒であり右腕ともいえる盟友だ。本作でもスタントシーンの構想を共に練り始めていたが、病のため、2021年8月に48歳の若さでこの世を去った。

「ブラッドは真の相棒だった。私がクレイジーなアクションのアイデアを思いついても、彼は瞬き一つしないんだ。私達はいわゆる陰と陽の関係で、素晴らしい形でお互いを補っていた。『これはブラッド・アランが振付を考えた最後のアクションシーンになる。彼が誇りに思うような出来にしよう』と言ったよ。ブラッドは決して諦めないことを得意としていた。彼は一緒に作るアクションに大きな情熱を傾けていた。天才だったよ。彼亡き今、とても寂しいよ」とヴォーンは振り返っている。

後進の育成にも意欲的だったというアランさんの亡き後は、『キック・アス』や『キングスマン』にも参加していたロイ・テイラーが、本作のスタントコーディネーターを務め、第二班監督のダミアン・ウォルターズと格闘シーンコーディネーターのギレルモ・グリスポの2人も、アランさんが生前考え始めていたアクションシーンを完成させ、その他のスタント構想の手助けも行った。間違いなくアランさんのDNAと魂がこの作品にも息づいており、前述のアムトラック列車での格闘シーンをはじめ鑑賞後に「あのアクションシーンが!」と語らずにはいられない興奮が次から次にスクリーンで展開される、まさにマシュー・ヴォーンのアクションここにあり! と唸らせてくれる仕上がりだ。

映画『ARGYLLE/アーガイル』は3月1日から全国公開。

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