国立音大卒・実家暮らしの30代女性、「ワーホリしたいけど、いきなり海外は不安」…練習先として選んだ、月10万円以上貯蓄できる“仕事先”とは

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旅するように働き、稼ぐ。リゾート地での仕事を通じて、そんな生活を満喫する人たちがいる。サラリーマンを卒業して精神的に豊かな暮らしを取り戻した人、勤務したリゾート地が気に入って移住してしまった人。リゾート地での仕事を転々としながら日本一周を目指すインフルエンサー。旅するように働く人たちの形はさまざまだ。この連載では、リゾート地での仕事を通じて精神的にも金銭面でも豊かな生活を目指す人たちを紹介する。

プロの音楽家としては生きられない…音大卒の将来への迷い

「ワーキングホリデーに行くために『経験』と『資金』が欲しかった。それがリゾートバイトで一挙に実現できた」。曽我汐里さん(31)は2023年に約1年間、リゾートバイトに挑戦した理由をこう話します。

曽我さんは福島県の出身。高校を卒業して上京し、国立音楽大学を卒業しました。名門音大卒とはいえ、「プロの音楽家として生きていくのは容易ではない」と感じていた曽我さん。卒業後は中学や高校の音楽の先生になろうと考えていました。

しかし、教員免許を取得したあと、「本当に教育現場で何十年も務められるのかどうか」と迷いが出てきました。教員の母親を見てきて「安定してはいるが、良くも悪くも大変な仕事だ」と感じていたからです。

そんなとき、オーストラリアに初めて1人で旅行に行ったことを思い出しました。海外では、話す言葉も違い、見える景色も違います。「海外で非日常の世界を経験することで、自分の世界が広がったように感じた」と言います。

「短期間の海外旅行ではなく、一定期間、海外で暮らしてみたい」と思い、ワーキングホリデーを目指すようになったそうです。

リゾートバイトは月10万円以上貯蓄ができる

とはいえ、曽我さんには「ワーキングホリデーは言葉も違う新しい環境で、たった1人で暮らす。そんなことが自分にできるのか」という不安がありました。これまで実家で両親と一緒に暮らしてきたこともあり、新しい土地に物怖じして立ち止まったのです。

そこで考えたのが、行ったことのない国内の土地で働けるリゾートバイトを経験し、事前に練習することでした。特にワーキングホリデーでの海外生活に馴染めるように、神奈川県・箱根町など外国人観光客の多い場所で働くことを希望していました。

もう1つはワーキングホリデー向けの資金を増やすことでした。曽我さんは経験者から「リゾートバイトは予想以上にお金を貯められる」と聞いていました。

実際、曽我さんが最初に働いた箱根の高級旅館は、住居費は無料、賄いが出るため食費もほとんどかかりませんでした。

月収は25万円前後でしたが、「大きな旅行をしなかったこともあって、1ヵ月あたり10万円以上も貯蓄することができた」と話します。結果として年間で100万円ものお金を貯めることができたのです。

リゾートバイトについては将来的な年金受給を心配する人もいますが、雇用契約の期間や労働時間など一定の要件を満たせば、社会保険や雇用保険に加入できます。こうした制度が整備されていることも、一定の安心感がありました。

外国人との交流も貴重な経験に

リゾートバイトでは副産物もありました。その1つが人とのコミュニケーションです。

曽我さんが思い出すのは、箱根の旅館で宿泊したシンガポールから来た50代の夫婦です。配膳でメニューを覚えたての英語で必死に説明していたところ、夫婦の方から「どうしてあなたはそんなに英語を話せるの」などと話しかけてくれ、頻繁に話をするようになりました。

曽我さんが「いつかワーキングホリデーでオーストラリアに行きたい」と将来の夢を話すと、夫婦は「息子がオーストラリアにいるので、現地でまた会いましょう」と言ってくれました。

宿を出る際には夫婦が手紙をくれ、そのなかには「あなたの接客や前向きな姿勢が大好きです」と書いていたそうです。曽我さんはこの手紙をお守りとして自分の部屋に置いており、今もこの夫婦とフェイスブックのメッセンジャーでやり取りをしているそうです。

旅館からも近い箱根強羅公園や箱根神社、芦ノ湖などに行ったのも良い思い出ですが、曽我さんにとってはリゾートバイトで多くの外国人観光客と打ち解けて話すことができたのが何より大きな財産となりました。

「仕事を通じて外国人とも仲良くなれる」経験を経て、ワーキングホリデーに行くための自信と心構えが徐々にできたからです。

繁忙期のシフトでは苦労も

とはいえ、苦労がなかったわけではありません。箱根の旅館では繁忙期だったこともあり、朝に数時間、夜に数時間働く「中抜けシフト」が導入されていました。給料は高いのですが、体力的にはつらい仕事です。

曽我さんにはこのシフトが合わず、生活リズムが崩れてしまいそうでした。悩んだ末に派遣元のダイブ社の担当者に相談したところ、勤務時間を調整できるか派遣先と交渉してくれました。

曽我さんの場合、あくまで目標は海外でのワーキングホリデーの実現です。忙しくても英語の勉強は欠かせません。このため、仕事が終わったあと、海外生活に向けた英語の勉強時間を確保しなければなりませんでした。

多くの同僚が休んだり、遠出の旅行を楽しんだりするなか、「きちんと時間の枠を決めてネットの英語講座などを受講した」と言います。

23年11月、曽我さんは念願のオーストラリアでのワーキングホリデーに旅立ちました。オンラインで現地の曽我さんと話をしたところ、「いまは日本食レストランで寿司を巻いています」と笑顔でした。

さぞや海外生活を満喫しているのかと思いきや、「海外は文化の違いがあり、いまはまだ慣れる段階」だそうです。

しかし、「リゾートバイトを経験したおかげで、どうすれば新しい土地でも心地よく過ごせるかを見つけられるようになった」と自信に満ちた表情で語ってくれました。曽我さんにとって、リゾートバイトは「資金」と「経験や自信」を一石二鳥で得られた貴重な場になったようです。

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