「脚」と「塔」を切断して、地震に強く!?…なにわのシンボル「通天閣」世界初の免震化工事がすごすぎた

通天閣

大阪市の新世界にそびえ立つ通天閣。高さ108 m、大阪のシンボルとして平日でも多くの観光客が訪れる人気スポットであり、国の登録有形文化財でもある。この通天閣の展望塔が、世界に類を見ない方法で免震化工事を施されていたことをご存じだろうか。

完成している鉄塔に免震化を施す工事では世界初

通天閣にかぎらず背の高い建造物は、地震の際に上部の揺れが大きくなり、最悪の場合は破損する恐れがある。通天閣も大きく揺れた場合に、展望台のあたりが破損する恐れがあるとして、2015年に免震化工事が行われた。

通天閣観光株式会社の代表取締役社長・高井隆光氏によると、既存の鉄塔を免震化する工事は、世界で始めての取り組みだったという。

通天閣の免震化構造は、地震が発生した際に脚の部分は地面と一緒に揺れるが、その上の塔部分を脚の上で水平に滑らせて地震のエネルギーを逃がそうというもの。しかし通天閣は、もともと足元から頭頂部まで鉄骨でつながった構造だから、脚と塔を切り離さなければ免震化できない。そのため、あの巨大な構造物を建ったまま切断する必要があった。

免震化のイメージ(画像提供:竹中工務店)

高井社長の言葉を借りると、通天閣を人間の体に例えれば脚の付け根を切断して免震化構造を施し、体を乗せてあるイメージだという。だが、実際の通天閣は、脚から上の塔部分が重量3000t以上もある巨大な建造物だ。工事は、簡単ではなかったはず。

そこで、工事を担当した株式会社竹中工務店の津高達哉氏に、技術的なお話を聞いた。

まずは「基壇部」と呼ばれる脚と、その上の塔がつながった状態のまま、境目にあたる部分の四隅に、天然ゴム系積層ゴムと呼ばれる緩衝装置を設置する。ちなみにこのゴムは、1つあたり900tの荷重に耐えるそうで、それが4つなので3600tの荷重に耐えられる。

同じく四隅に、竹中工務店が独自に開発した「ジャッキ&ロックダンパー」を設置。この2つで免震装置になる。

免震化工事の手順(画像提供:竹中工務店)

次に塔部分の底面にジャッキをあてて、1脚ずつていねいに切断すると、免震装置の上に塔が乗っかっている構造になるわけだ。

通天閣の横にあるエレベーター塔に繋がる通路もいったん切り離され、あらためて伸縮性のある蛇腹で連結された。これは航空機の搭乗口でよく見かける蛇腹と同じメーカーで製造されたとのこと。

通天閣の2階とエレベーター塔を繋ぐ通路は蛇腹で繋がれている

また、脚にもコンクリートで補強が施されているという。

まったく揺れないというわけではなく、大きな揺れが来たときに塔部分を脚の上で水平に滑らせることで地震のエネルギーを分散させ、震度7の揺れにも耐え得るそうだ。

「揺れがおさまったとき位置がずれていても、ダンパーのはたらきで、ゆっくりと元の位置に戻ります」と津高氏。

工事は2014年10月1日に着工し、2015年6月に竣工した。この工事が行われている間も、通天閣の営業は続けられていた。

「これも異例のことでしょうね」と高井社長。

ただ、実際の作業は、お客さんが入っている昼間ではなく、営業が終わった後の夜間から朝にかけて行われた。

通天閣は公道をまたぐような格好で建っているが、通行止めもしなかったという。作業構台を設置して、下は車や人が通れるスペースを確保しつつ、工事作業は台の上で行われたとのこと。

工事前の通天閣(画像提供:竹中工務店)

免震化工事が施されたことによる外観上の変化は、脚に現れている。補強工事が行われたことで、スカートを履いたようなイメージになった(筆者の主観)。塔部分には、外観上の変化はない。

初代通天閣にあった天井画を復刻

現在の通天閣が建造物として2代目であることは、大阪ではよく知られている。高井社長によれば、初代の通天閣は、現在の場所から少し南にあったそうだ。

初代通天閣は1912年に完成。高さ約75mの外観は、脚部がフランスの凱旋門、上部が同じくエッフェル塔を模したと伝わっている。脚部の天井には、クジャクと花柄をモチーフにした天井画が施されていた。

初代の通天閣(画像提供:竹中工務店)

だが、1943年1月、足元にあった劇場から出火して、通天閣も大きなダメージを受けたという。

「補修するか解体するかの二者択一を迫られたそうですが、時は太平洋戦争のど真ん中です。鉄を供出しようという動きが世の中にあって、解体して戦争に回そうということになったようです」と高井社長。

1956年に再建されたのが今の通天閣だが、当時は天井画までは再現されなかった。それが免震化工事に伴って、脚部の天井に復刻されている。

初代の通天閣に描かれていた天井画(画像提供:竹中工務店)

コロナ禍が落ち着いて、インバウンドも戻ってきた。訪れる観光客のうち、3分の1は外国人だそうだ。

「コロナ前に戻りました」と高井社長。

取材した日は平日で、しかも雨が降っていたにも関わらず、通天閣の展望台へ上がるエレベーターには行列ができるほどの人が訪れていた。

免震化工事に伴って天井画が復刻された/補強された脚の様子もよく分かる(画像提供:竹中工務店)

「新しいもの好きの通天閣ですし、変わったことをするのも大好きなので、この後も50年100年200年と、地域の中で立ち続けられるようにしていきたいですね」

復刻版の天井画は株式会社クラブコスメチックスが制作して寄贈

通天閣は今年1月29日に、新たな体験型アトラクション「Dive&Walk(ダイブ&ウォーク)」の建設を発表した。中間展望台屋上の外周に、ハーネスを装着してアスレチックを体験しながら一周するアトラクションと、地上約40mのタワー中間部から垂直に飛び降りる「クイックジャンプ」で構成されるアトラクションで、今年の初夏にオープン予定だという。

通天閣がこれからどう変化していくのか楽しみだ。

▽通天閣
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(まいどなニュース特約・平藤 清刀)

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