「時間銀行」活用じわり 共助社会の後押しへ注目 茨城・下妻で県事業 信頼構築に課題も

時間銀行の通帳を手にする登録者と運営団体の小笠原紀子代表(中央奥)=下妻市内

時間を交換単位として登録者同士がサービスを提供し合う「時間銀行」の茨城県モデル事業が同県下妻市内で行われている。市民団体が運営し、90人近くが利用。登録者からは歓迎のほか、「信頼関係がないと依頼しづらい」との声も聞かれる。事業の狙いは安心して暮らせる「共助社会」の後押し。定着するかどうか、課題の解消とともに注目される。

■年齢や国籍幅広く

「日本の料理や文化を教えてもらった。良いシステムと感じた」

1月末、下妻市内で開かれた時間銀行の登録者の集い。インド出身のアンブラジ・レジリンさん(27)は、黄色い通帳を手に笑みを浮かべた。母国の文化を教える代わりに日本になじむ機会を得たという。

時間銀行は、誰もが持っている「時間」を交換単位として、サービスを提供し合うのが一般的。県福祉政策課によると、スペインでは人が支え合う一つの仕組みとして浸透するものの、日本での取り組みはまだ珍しい。

茨城県では、県助成のモデル事業が昨年8月に始まった。市民団体「しもつま外国人支援ネットワークTOMODACHI」(下妻市、小笠原紀子代表)が手を挙げた。

銀行の拠点は、子ども食堂や宿題サポート、外国人の生活相談などを行う交流拠点「お茶NOMA」(同)。ボランティアや利用者を軸に登録を広げ、子どもから高齢者まで、国籍も多様な市民88人が登録する。

■「徳」を積み立て

地域の人のつながりが希薄になりつつある現代で、県は「共助」の社会づくりの後押しを事業の趣旨に掲げる。

同課の担当者は「行政の支援が行き届かない困り事に対し、住民同士が支え合う仕組みの構築を促し、地域課題解消につなげたい」と期待を寄せる。

今回の取り組みでは、登録者に通帳とカードを交付。サービスの実施や利用の申し込みは、口頭や電話、交流サイト(SNS)などで受け付ける。各自が事前に登録した「できること」「やってほしいこと」を参考に需要と供給を一致させる。

通帳を開くと「徳」の欄があり、サービスを行うごとに1回積まれる。詳しい時間の交換状況は、事務局のパソコンで管理。小笠原さんは「時間を返すことに重圧を感じてほしくない。徳を積むイメージにしたい」と説明する。

■つながりを大事に

交換された総時間は、1月25日現在で約545時間。お茶NOMAの交流の中でのやりとりが軸となっている。個人間の依頼は1割程度にとどまり、家庭の草取りや病院の付き添い、家庭菜園での収穫など。

登録者の渡辺節子さん(78)は「時間銀行はいい発想。ただ、個別依頼は信頼関係がないと難しい」と指摘。お茶NOMAの交流で「徐々に関係を構築していきたい」と話す。

いかに多くの人に時間銀行に参加してもらうか「課題は少なくない」と小笠原さん。「人のつながりを深めることを大切に、良い形に近づけていきたい」と話し、時間銀行の在り方を模索する。

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