コーヒーの風味は「豆の挽き目」で決まる!自宅でおいしいコーヒーを飲むための「ミル」の選び方【専門家が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

コーヒー豆のひき具合で、コーヒーの濃度は変わります。自分好みのコーヒーを飲むために、コーヒー豆を挽くミルの選び方をみてみましょう。家庭でも挑戦できるおいしいコーヒーの淹れ方について、著書『至高のコーヒーの淹れ方』(エクスナレッジ出版)より、畠山大輝氏が解説します。

コーヒー豆は粉にすると劣化が早まる

コーヒーを淹れるとき、豆の状態ではなく、粉の状態にするのはなぜでしょう。

コーヒー豆の中にはハニカム(蜂の巣状)構造の部屋が無数にあり、その1つ1つにコーヒーの成分が収まっています。コーヒーを淹れるとき、コーヒー豆を挽いて(粉砕して)粉にしてからお湯を注ぐのは、無数に連なるハニカム構造の部屋の壁を破壊することで、中にあるコーヒーの成分とお湯とを触れ合いやすくするためです。

[図表1]コーヒー豆の中はハニカム構造 出所:『至高のコーヒーの淹れ方』(エクスナレッジ)より抜粋

これは見方を変えれば、コーヒー豆は挽いたときから急速に劣化が進行するということでもあります。この劣化には2つの面があって、1つは酸化、もう1つはコーヒー豆に含まれるガスとともに香りの成分も抜けてしまうことを指しています。

こう聞くと、「豆の状態でも酸化やガス抜けは起こるのではないか?」と思われるかもしれません。それも確かにありますが、実は、コーヒー豆は粉の状態に粉砕されると、その表面積は豆の状態と比較して1,000倍近くにまで広がるともいわれています。つまり、それだけ広い面積に対して酸化(風味の劣化)とガス抜け(香り抜け)が起こってしまうわけです。

買ってきてすぐはいい香りがして、淹れるとおいしかったコーヒーの粉が、1週間、2週間と日にちが経つにつれてどんどん香りがなくなり、おいしくなくなってくる理由はここにあります。お店でコーヒー豆を買うときに、「豆のままか、粉に挽くか」と聞かれることがあると思いますが、酸化や香り抜けが起こりにくいという意味でいえば、豆のままで買ったほうがベターといえるでしょう。ただし、お店で挽いてもらって、粉の状態で買ったほうがいい場合もあります。

細挽きと粗挽きでコーヒーの濃度は変化する

次に、コーヒー豆の「挽き目」について。挽き目とは、コーヒー豆を粉砕するときの粒の大きさ(粒度)のことで、「メッシュ」といういい方をすることもあります。

挽き目には大きく6段階があって、粒が大きい順に「粗挽き」「中粗挽き」「中挽き」「中細挽き」「細挽き」「極細挽き」というふうに分けられますが、実際にはミル(グラインダー)の設定によって、もっと細かく調整することも可能です。

この挽き目によって何が変わるかというと、コーヒーの濃度(コーヒーの成分が引き出される量)が変わってきます。

コーヒー豆の内部はハニカム構造が連続した部屋になっているという話をしましたが、この部屋は、挽き目(粒度)が細かければ細かいほどたくさん破壊されることになり、内部にあるコーヒーの成分がお湯に溶け出しやすくなります。

つまり、細挽きのほうが成分が溶け出しやすいぶんコーヒーの濃度は高くなり、粗挽きのほうが成分が溶け出しにくいぶんコーヒーの濃度が薄くなるわけです。

いうまでもなく、コーヒーの味は濃度によって大きく左右されます。

同じ条件で抽出している場合、濃度が高いということは、それだけいろいろな成分が溶け出しているので、コクやボディを感じる一方で、雑味などのネガティブな要素が出ている可能性も高くなります。

逆に濃度が低ければ、ネガティブな要素が含まれる可能性は低くなりますが、成分があまり出ていない状態なので、味や香りに物足りなさを感じてしまうかもしれません。

だから、成分が出過ぎ(過抽出)ても、出なさ過ぎ(未抽出)てもだめで、ということは、挽き目が細かすぎたり、粗すぎたりするのもだめだということになります。

中粗挽きは、抽出のコントロールがしやすい挽き目です。

ただし、中粗挽きの基準は、人によって、あるいは使うミルによっても異なります。私が考える中粗挽きは、グラニュー糖よりも少し粒が大きい程度です。この挽き目を基準に、ミルの設定を少し粗めだったり、少し細かめだったりという具合に、粒度を調整してみるのがおすすめです。

[図表2]コーヒー粉の分量が同じでも挽き目によって濃度が変わる 出所:『至高のコーヒーの淹れ方』(エクスナレッジ)より抜粋

粉の挽き目が細かいほどお湯に溶け出す成分が多くなり、濃度が上がります。逆に、挽き目が粗いとあっさりしたコーヒーになります。

[図表3]業務用のグラインダーで挽いた中粗挽きのコーヒー粉 出所:『至高のコーヒーの淹れ方』(エクスナレッジ)より抜粋

業務用のグラインダーで挽いた中粗挽きのコーヒー粉。指でつまむとわかりますが、グラニュー糖よりも少し大きめのサイズです。

はじめは安価な手挽きミルがおすすめ

次は、ミル(グラインダー)の選び方についてです。

ミルには手挽きタイプ電動タイプがあります。より値段が安いのは手挽きのほうで、2,000円台程度から選べます。安価でもそれなりに挽くことができるので、「いつもはコーヒーを粉で買っているけれど、一度、挽きたての味を実感してみたい」という人は、まずは安い手挽きミルを買うのをおすすめします。

もちろん、手挽きミルは安いものばかりではなく、高価なモデルも存在します。値段の違いは、豆を挽いたときの粒度(粒の大きさ)の均一性です。どんなミルでも、豆を挽いたときの粒の大きさにはばらつきが生じます。このばらつきが多すぎると、自分が望む味や香りを実現するのは難しくなるため、できるだけ均一であることが求められます。高価なミルは、刃の作りや機構の精密さによって粒度のばらつきを少なくすることができます。

それに加えて高価なミルには、微粉の出る量が少ないというメリットがあります。微粉というのは、豆を挽くときに発生する非常に細かい粉のことを指しますが、この微粉は少ないほうがコーヒーの抽出がしやすくなります。

安価なプロペラ式は使い方を工夫する

手挽きミルを買った人が、次に欲しくなるのが電動グラインダーです。

手挽きミルでいちばん不満を持たれるのが、「挽くのが大変」というところです。例えば、3人家族でコーヒーを飲む場合、そのたびに30〜40グラムの豆を手回しでゴリゴリ挽くのは、いくら「挽き立てがおいしい」といっても、けっこう大変な作業です。その点、電動グラインダーであれば、まとまった量の豆を短時間で力を使わず挽くことができます。

[図表4]ミル(グラインダー)の刃の種類 出所:『至高のコーヒーの淹れ方』(エクスナレッジ)より抜粋

電動グラインダーで最も安価なのはプロペラ式の刃が付いているタイプ。料理で使うキッチンミルとほぼ同じタイプで、5,000円くらいから手に入ります。

ただし、このタイプは挽く前に粒度の設定ができないので、挽く(プロペラ刃を回転させる)時間の長さで調整するしかありません。粒度は時間が短いほど大きく、長いほど細かくなります。また、プロペラ刃への豆の当たり具合にばらつきが出るため、粒度の均一性も取れません。

つまり、挽くたびに粒度が変わりやすく、均一性も取りにくいため、毎回同じ条件でコーヒーを淹れるのが難しくなるのです。

ただ、すでにプロペラ式のグラインダーを持っているという人も多いでしょう。その場合は、以下の2つの点を実践してください。

1つは、挽いている最中に、本体を軽く上下に振ることで、豆をできるだけムラなくプロペラ刃に当ててやること。もう1つは、目的の粒度になるまでの秒数をきちんと把握することです。挽く時間が毎回違うようでは、同じ挽き目を得ることはできません。

この2つができれば、プロペラ式でもかなりのレベルアップが図れると思います。

高価だが「みるっこ」がおすすめなワケ

電動グラインダーでおすすめできるのは、コニカル式やフラットディスク式の刃を採用するモデルです。こちらは挽く前に粒度を設定することができ、プロペラ式のグラインダーに比べはるかに粒度の均一性を取ることができます。

電動グラインダーも手挽きミルと同様、刃や機構の仕様で非常に大きな価格差や性能差があります。私が使ったことがある範囲でいえば、1万円台の価格帯だと、デバスタイルデロンギのモデルがおすすめです。安価な割に性能がよくて、挽く速度もそれなりに速いので、初めて買う電動グラインダーにはいいのではないかと思います。

2万円台から4万円までの価格帯だと、カリタの「ナイスカットG」や、ウィルファの「スヴァートアロマ」がおすすめです。このあたりになると粒度も揃いやすく、微粉も少なくなってきます。これらを使っている喫茶店やカフェなども見かけます。

5万円台になると、フジローヤルの「みるっこ」が断然おすすめです。ハンドドリップからサイフォン、エスプレッソまで幅広い抽出方法に対応でき、その実力は「競技会レベル」といっていいくらいしっかりしています。実際、私が優勝した2019年のハンドドリップチャンピオンシップやブリュワーズカップでも、この「みるっこ」を使用していました。

お店で挽いてもらう

自分でコーヒー豆を挽くための解説をしてきましたが、実は、お店で挽いてもらうというのも、1つの有効な選択肢です。コーヒー豆のお店には業務用のグラインダーが置いてありますが、それこそ何十万円もする代物で、家庭用と比べても性能は段違いです。

「挽き立ての豆のほうがいい」といっておきながら逆のことをいうようですが、廉価なグラインダーを使って自分で挽くよりも、業務用のグラインダーを使って、お店のおすすめの挽き目で挽いてもらった粉のほうが、よほどおいしく淹れられるというのも事実です。

ただし、粉に挽いてもらったら、できるだけ早めに飲みきるようにしましょう。1週間以内に飲み切る量の粉を、こまめにお店に通って買うのが理想的といえるかもしれません。もし、買った粉が短期間で飲み切れなかった場合は、冷凍庫で保管するのがおすすめです。

[図表5]マールクーニックEK43 出所:『至高のコーヒーの淹れ方』(エクスナレッジ)より抜粋

私が自分のお店で使っているグラインダーは、マールクーニックのEK43。挽いた粉の粒度の分布に定評があります。

畠山 大輝

Bespoke Coffee Roastersオーナー

コーヒー焙煎士/コーヒー抽出士

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