持続可能を目指したケーキカフェ「レ・フィーユ」(大阪・天王寺)菅原大シェフの挑戦とは?

大阪屈指のターミナル駅・天王寺。下車して10分ほど南に歩くと、文の里という地域があります。昔ながらのお店に、一軒家が立ち並ぶ住宅街。都市開発が意欲的に進んでいる天王寺エリアの中で、まだまだ下町らしい趣を残す文の里に、ケーキカフェ「les feuilles(レ・フィーユ)」があります。

オーナーシェフの菅原大さん。パティシエ歴16年の中堅選手で、スイーツ業界のこれからを背負っていく世代でもあります。なぜパティスリーではなく、ケーキカフェなのか?時代を見つめた経営スタイルについて、インタビューしてきました!

ケーキは鮮度が命。出来立てを提供するためのカフェスタイル

「les feuilles(レ フィーユ)」は、パティシエが作る本格的なケーキを楽しめるケーキカフェです。コーヒーはケーキとの相性を考え、産地や挽き方を調整しているそう。誰でも選びやすいように「ケーキに合うコーヒー」「焼き菓子に合うコーヒー」というメニュー名になっています。

店内には16ほどの席があり、イートインは12時開始。お昼以降は地元のお客様がケーキとコーヒーを楽しむ憩いの場所になっているそうです。

持ち帰りができるのは焼き菓子、予約のホールケーキのみ。ケーキはすべてイートイン専用のメニューです。

その理由は大きく2つあり、一つ目は「ベストな状態で食べてもらえるから」。ケーキを冷蔵のショーケースに入れて保管しておくと、冷風で乾燥してしまいます。二つ目は、「廃棄を防ぐため」。当日に売れなければ、ケーキは廃棄されます。食材の廃棄は、経営面に影響します。

ケーキは月替わりで、季節によってメニューを変えているとのこと。取材日は1月末で、いちごの時期です。ショートケーキとフレジェ、それからバナナタルトとプリンがラインアップされていました。

菅原さん曰く「人は甘さを感じるところに意識が向かう」とのこと。ショートケーキは生地を味わってほしいから、生地に甘みをもたせて、クリームは甘さ控えめに。シンプルなショートケーキに見えますが、いちご、生地、クリーム…それぞれ層の厚さをすべて測って、デザイン的に美しく見えるように計算しているそうです。

また、ショートケーキの先が透けて見えることにもこだわっているそう。生地のキメ細かさの証明なのだと言います。

こちらはフレジェ。香りづけに使われるキルシュを混ぜたクリームを、サクサク食感が特徴のダックワース生地でサンド。埼玉県産オリジナル品種のいちご「あまりん」を使っています。冷蔵ショーケースで保管していないから、湿気知らずのダックワーズはサクサクの食感をキープ。イートイン限定だからこそできる組み合わせです。

カフェ経営に向けた”通過点”。マフィン専門店で独立した理由とは?

菅原さんは辻製菓専門学校に通いながら「パティスリーアルモンド」(大阪・天王寺)でアルバイトを始め、卒業後はそのまま就職。3年勤めた後フランスへ留学し、フランスのお菓子文化に衝撃を受けたそうです。

「日本だとケーキは特別な時に食べるものって感じだけど、フランスではお菓子が歴史や文化、日常に溶け込んでいます。ケーキ屋さんに毎日行くのが当たり前なんですよね」

ーー当たり前のように、お菓子がそばにある。これが菅原さんの目指している理想だそうです。

帰国してからは。「菓子工房オークウッド」(埼玉・春日部)で約8年勤務。美容室を営んでいる実家の隣の物件が空いたと聞いて、独立を決意。29歳で地元・大阪に戻ってきたそうです。

その時に選択したのはパティスリーでもカフェでもなく「マフィン専門店」の開業でした。理由は2つあり、一つ目は「大阪では他になかったから」。ドーナツのように誰もが一度は食べたことがあるお菓子の専門店は、住宅街にマッチしていたそうです。二つ目は、「生産性が良いお菓子だから」。しばらくは製造も販売も自分一人…少しでも効率よく製造を、と考えマフィンを選んだそうです。

「マフィンはパサパサした食べ物のイメージがあると思います。確かに単に材料を混ぜて焼いているだけでは美味しくない。でも製菓の技術をしっかり組み込んでいけば、美味しいものに仕上げられる自信はありました」

マフィンは1個あたりの生地量が多く、フレッシュフルーツを混ぜ込んで焼くことができるそう。そんな焼き菓子は少ないとのことで、例えばフィナンシェやマドレーヌだったら水分量が増えすぎてしまいます。バリエーションを広げやすいことも、マフィンの利点です。

しかし、菅原さんにとってマフィン専門店での独立は通過点の一つ。開業時にはすでに「les feuilles(レ フィーユ)」のようなケーキカフェ業態での経営を視野に入れていたそうです。

「僕がまだ幼い頃、この場所には純喫茶がありました。おつかいでミックスジュースを買いに行ったりしたこともあって、思い出の場所です。自分が大阪に戻ってきた時には、マスターご夫妻はもう高齢で、引退も考えていたんです。でも地元の方の憩いの場所は無くしたくない、という想いがあって、閉店したら僕が買い取ると決めました」

いずれやってくる思い出の喫茶店の閉店。それまでにマフィン専門店で資金を蓄え、地元での認知度を上げ、経営の勉強をしようと決めたそう。喫茶店の閉店が決まったのは、その4年後です。

カフェ開業も”通過点”。理想に向かって挑戦は続く。

マフィン専門店を開業して5年後の2023年2月、「les feuilles(レ フィーユ)」をOPEN。ここまで順風満帆に見える菅原さんのパティシエ人生ですが、節目節目で何度も挫けそうになったそうです。

「その時に支えてくれたのは周りの人だし、地元で応援してくれるお客様の声です。その期待や応援に応えていきたい」と話してくれました。

ケーキのようにしっとりと美味しいマフィンも、完成度の高いケーキも、現段階では菅原さんの知識・技術力があってこそ。しかし20年後、30年後…体力が落ちても継続できる事業を。と考えると「製造以外」でも成り立つ収益構造を模索しているそうです。

そこで店舗経営の傍ら、YouTubeにも挑戦。「旅するお菓子屋さん」というチャンネル名で、パティシエや経営者との対談方式の動画を投稿しています。

「僕はまだまだ未熟な経営者です。これからも色んなことを学び、成長していかないといけないと思っています。だから経営者の話を聞き、常に新しいことを取り入れていきたい。YouTubeは最終的に収益化できたら嬉しいですが、まずは学びの記録用としても撮影しています」

36歳の菅原大さん。この先のパティシエの働き方の可能性を見出す若手オーナーたちの挑戦を、今後も「ウフ。」は取り上げていきます!

About Shop
les feuilles(レ フィーユ)
大阪府大阪市阿倍野区松崎町4丁目9−10
営業時間:9:00〜19:00(L.o18:30)、イートインは12:00から
定休日:水曜日

あかざしょうこ

ウフ。編集スタッフ

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関西方面のスイーツ担当。1984年生まれ、大阪育ちのコピーライター。二児の母。焼き菓子全般が好き。特に粉糖を使ったお菓子が好きです。

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