『鬼滅の刃』遊郭潜入編のここに注目! 戦いの中で成長する炭治郎と上弦の鬼の強さ

フジテレビ系『土曜プレミアム』で、2月17日と24日に『特別編集版「鬼滅の刃」遊郭潜入編』と『特別編集版「鬼滅の刃」遊郭決戦編』が連続放送される。舞台もド派手な吉原遊郭なら、活躍する音柱・宇髄天元もド派手な言動で竈門炭治郎たちを振り回す。そんな豪快にして絢爛たる展開の中に炭治郎の成長があり、禰豆子の覚醒があり、何より最強の鬼の1体を相手にした壮絶な戦いがあってどちらの回からも目を離せない。

鬼舞辻無惨によって家族を皆殺しにされ、妹の禰豆子を鬼にされてしまった竈門炭治郎は、禰豆子を人間に戻す方法を探すため、鬼を相手に戦ってきた「鬼殺隊」に入って自分も剣を取り、同期で「鬼殺隊」に入った我妻善逸や嘴平伊之助らと共に鬼と戦い始める。

吾峠呼世晴の漫画を原作にしたアニメシリーズ『鬼滅の刃』はそんな始まりから、数々の戦いを経て「無限列車編」へと至り、炭治郎と共に「下弦の壱」魔夢を相手に戦った炎柱・煉獄杏寿郎が、より高位の「上弦の参」猗窩座に敗れて命を失う壮絶な戦いが繰り広げられた。

命を燃やし尽くすような煉獄杏寿郎の戦いぶりに強く惹かれた炭治郎は、蝶屋敷に戻って体を癒やしながら強くなろうと鍛錬に励むが、そこに現れた男が、蝶屋敷で働いている神崎アオイをどこかに連れて行こうとする。何て乱暴な。憤慨する炭治郎たちが見たのは、頭巾をかぶって背中に双刀を差し、顔に化粧を施したド派手な男。音柱の宇髄天元だった。

太陽のような明るさを持ち、礼儀正しくもあった煉獄杏寿郎と比べて、高圧的で自己中心的な雰囲気の宇髄天元に、「柱」にもいろいろいるのだとまず感じる。その宇髄天元が、炭治郎だけでなく善逸や伊之助も連れて行った場所が、東京にある吉原遊郭だということにさらに驚く。

売られた女性が性を商売にする場所に、若い男子3人を連れて行って何をさせるのかと思ったら、女装をさせて遊郭に送り込み、宇髄天元の消えた3人の妻を探させようとするのだからどこまで自己中心的な奴だと思えてしまう。もっとも、どうしてそこまで妻たちを大切にするかが展開の中で明かされ、忍として生まれた宇髄天元と妻たちが苛烈な生涯をたどってきたことが分かった時、宇髄天元への好感度もアップする。

そんな宇髄天元の音柱としての戦闘力が発揮されるのは、後半の『遊郭決戦編』になるため、2月17日の『遊郭潜入編』では片鱗を味わうくらいに留まる。一方で炭治郎の方は、女装して潜入した遊郭で鬼の匂いを嗅ぎつけ、剣士に戻って鬼を追い始める。そこに現れたのが、「上弦の陸」と瞳に刻んだ女の鬼、堕姫だった。

猗窩座との戦闘は煉獄杏寿郎に任せていたところがあった炭治郎だったが、今度は上弦の鬼との1対1での戦い。「柱」でもない炭治郎など一蹴されるかと思いきや、ひらめく帯を鋭い刃にして攻撃してくる堕姫を相手に、命を奪われることなく耐えて反撃も見せる。その戦いの中で、水柱の冨岡義勇から紹介された鱗滝左近次から学んだ「水の呼吸」に半ば訣別するように、家に代々伝わってきた「ヒノカミ神楽」を剣技の中心に置くようになる。

戦いの中で自分を変化させながら、上弦の鬼という最強の敵を相手に戦えるようになっていく炭治郎という剣士の凄さを、激しく実感できる展開だ。後に「刀鍛冶の里編」でも「上弦の肆」の半天狗を相手にした戦いの中で、善逸のアドバイスを取り入れ走る速度を上げるシーンが登場するが、こうした炭治郎の戦闘中でも絶えず自分を高めようとしていく性格が、最後に待ち受ける鬼舞辻無惨との戦いでどのように発揮されるかを想像したくなる。

一方、堕姫という鬼もなかなかに強烈なキャラクターだ。吉原の遊郭で最上位の花魁ということになっているだけに美しいが、性格は峻烈で禿(かむろ)として付いている子供たちにも平然と暴力を振るう女性として登場。沢城みゆきによる高慢さと残忍さを強く感じさせる声とも相まって、炭治郎がそれまで相手にしたことがない禍々しさを持った鬼としての存在感を放つ。

本性を現してからは、鬼としての攻撃力も発揮してくる。さすがは上弦といった強さを見せる堕姫と炭治郎が、遊郭の路地や建物の屋根の上で繰り広げる戦いは、次から次へと帯を繰り出し、炭治郎を切り刻もうとする堕姫の攻撃の手数も凄まじければ、奥から手前へ、手前から奥へと移動しながら剣を振るい続ける炭治郎の速度も凄まじい。『鬼滅の刃』シリーズの数ある戦闘シーンでも上位に入るだろう攻防を楽しみたい。

とはいえ、そこは「柱」ではない一介の隊員に過ぎない炭治郎では荷が重く、危地に陥ったところで駆けつけるいくつかの救援の手が。とりわけ音柱・宇髄天元が見せるまさに真打ち登場といった剣戟が、『遊郭決戦編』では本格的に繰り広げられる。さらに、堕姫の首を落とせば終わりとはいえなかった戦いが、より凄惨なものとなって炭治郎や宇髄天元を追い詰めていく展開も待っている。

その過程では、不幸な身の上に生まれ、愛されることを知らずに育った子供たちがたどる悲痛な運命が慟哭を誘う。人は鬼として生まれてくるのではない。鬼にならざるを得ないことがあって鬼になる。そんな鬼に炭治郎が示す優しさにも、改めて出会うことができるだろう。

ほかにも『遊郭潜入編』で目を見張るところといえば、吉原の遊郭で花魁が暮らす部屋の美術設定か。整った調度品といい美しいふすま絵といい、最高峰の花魁を置くに相応しい美麗さを持っている。ufotableの精緻な仕事ぶりが表れたものだが、ここから苦界に身を置く女郎がどれだけの経験を経てその部屋を持てるまでになったのかを想像し、吉原という街が持つ闇の部分にも関心を向けてほしいところだ。

ほかには、猪のマスクを外し女装のために化粧をした伊之助の美しさや、音に敏感な善逸が見せる楽器演奏の意外な才能にも注目か。そうした数々の楽しみどころを味わい『遊郭潜入編』『遊郭決戦編』を観て、『ワールドツアー上映「鬼滅の刃」絆の奇跡、そして柱稽古へ』も劇場で改めて鑑賞して、自身の内部の“鬼滅の刃熱”を高めながら、春に放送が始まる『柱稽古編』を待つ。そんな過ごし方がしばらくの間できそうだ。

(文=タニグチリウイチ)

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